表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
1/59

プロローグ:名前のない村

 この世界のはじっこには、地図にも載っていない小さな村がある。


 そこは、人間たちが暮らす国からずっと東。

 凶悪な魔物が多く生息する『常夜の森』を抜け、魔王の城よりさらに先にある。普通の人間は、決して足を踏み入れようとすら思わない場所だ。

 森を出ると広い草原があり、小川が流れている。小動物や、温和で知性ある魔物たちが水を飲みに来るスポットだ。動物と魔物が仲良く戯れるなんて珍しい光景が見られるのは、きっとここだけだろう。

 小川を越えて大地の先端まで行くと、氷河の漂う海に面した小さな村がある。


 その村の中央には、飲料水として使っている泉が湧き出ているのだが――それが伝説の秘薬、エリクサーであることは誰も知らない。


 村以外には、ほかの村も集落も、町もない。

 国という概念から外れたそこは争いがなく、のどかで穏やかな場所だ。誰もが幸せに暮らしているため、村から出て行く人間も少ない。

 けれど時折、外の世界に憧れを持つ子供が現れる。大抵は大人たちの説得によって村に留まるのだが、一人の少女は頑なに頷かなかった。


 村の中――森で伐採して建てられた家の一つに、心配そうにする若い女性と、皺の多い老婆の姿。手元のコップには蜂蜜酒が注がれており、甘くかぐわしい香りが鼻をくすぐる。

 若い女性からは、心配そうな声がもれた。


「……はぁ、大丈夫かしら。あの子、どこか無茶をするから……」

「ほっほ。あん子は、強い子じゃて」

「おばば様、そんな根拠のないことを言わないでください。村で一番弱くて、治癒魔法だって得意じゃないんですよ?」


 若い女性は机に項垂れて、「もっと鍛えておけばよかった……」とため息をつく。けれどおばば様と呼ばれた老婆は、にこにこと笑うばかりだ。


「心配の必要はないさね。あん子は、この村で一番じゃて」

「一番って、何がです?」

「おやおや。母親だというんに、あん子のことに気付いてなかったのかい」

「?」


 先ほどまでとは違い、老婆はカッカッカと豪快に笑う。カップの中にある蜂蜜酒を一気に飲み干して、窓から見える地平線へ目を向けた。

 まだ高い位置に太陽があり、森と山々が視界に広がる。それはまるで、精霊たちから祝福されているのではと思うほどの、清々しい景色だ。


「大丈夫じゃて、信じておやり」

「……ええ」


 静かに告げるおばばの声に、女性は仕方がないと頷いた。


 二人が話していた子供の名は、シーラ。

 世界のはじっこにある名前のない小さな村から今日、旅立った少女だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ