5】 偏屈者ルー
『アドナイの剣』
代々、王位を継いだ者が受けつぐ名剣。
ノイ家の何代か前の鍛冶師が、当時の王に献上したと記され、 ノイ家が造った剣の中でも最高峰と語られている。
──と、聞いていたものの、ディーナは見るのは初めてだった。
(うわぁ……なんて荘厳なの……)
うっとり見つめてしまう。
剣自体が、輝きを放ち、オーラを出しているようで、人よりも生命の力を解き放っているかのようだ。
「ディーナ、形見の髪を少々分けていただいても良いでしょうか?」
エリダーが訊ねる。
「持ち主である王の髪か、剣を鍛え上げたノイ家の髪に、どちらに応えてくれるのか不明なものですから……」
頷くディーナ。
妖精は得てして、美しいものに目が無い。
特に目が無いもの。
美しい娘 と 金 である
美しく、金髪を持つ娘であれば妖精は、無条件で庇護するといわれていて、 王国でも、要請の庇護を受けた娘がいると聞けば、王宮に招きいれ、詳しく話を聞き、それが真実だと確認すれば『妖精宮』で過ごす事が許される。
『妖精宮』にて過ごす娘達は、時折妖精から助言された事を王宮に伝える──巫女の役割を担っていた。
──ただ、ここ何年も妖精の庇護を受けたという娘の報告は無い。
「それも、襲撃の備えが遅れた要因の一つ」
と、学者達は口を揃えて言う。
謁見の間
王座に『アドナイの剣』を置き、その前に小さな卓を設置し、王の髪とアルフォンスの髪を捧げる。
「妖精王ハイネスの血縁であり、名工であり、古代妖精女王ドーンの子である『名工ルー』よ。
余は、ティンタンジェル国王フォークロアー。貴方の民であり、友であり、子でもある。
愛し止まない、この国の危機と存亡の為、我々に海より深いその知識をお借り願いたい」
妖精宮の一番若い女達が、季節の花々を剣に捧げ、口づけをする。
剣の後ろでは、吟遊詩人が唄い、ハープを奏でる。
──来るだろうか?───
祈らずにいられない。
駄目だったらもう、ティンタンジェルを救う手立てが無くなる。
『おいらを呼ぶのは、国王なのかい? 鍛冶屋のノイなのかい?』
一同、ギョッとして、思わず身を乗り出した。
王座に、アドナイの剣を抱えて座る子供──いや、一瞬見た目子供に見えただけで、顔には大きく深い皺が幾つにも刻まれていて、身体が細い割りには末端の頭や手、足の先は異様に大きかった。
「こちらの髪はウェールズだ。んで、こちらはノイだ。
──どちらで、おいらを呼べるか分からないからって、手間省き過ぎじゃねえ?
俺様、妖精の中じゃ偉い立場。
久しぶりにお呼ばれだから、出てきてやったけどさ……んで、どちらが呼んだんだい?」
──私達を試してる──
恐らく、王家が呼んだと言っても、ノイ家が呼んだと言っても、ルーの逆鱗に触れる。
博打の様に自分を呼んだのが気に入らない。
ルーにとって、どちらが自分を呼んだとしても、どうでも良い事なんだ──。
(王は、どう答えるんだろう?)
フォークロアー王は、即座に一歩出、恭しく膝まついて答えた。
「我が一族も、ノイも呼んでおりませぬ……」
「──?!!」
ルーは、サッと顔色を変え、険しい表情でフォークロアーを睨みつける。
「──正しくは、ティンタンジェルの民が、貴方様を呼んだのです。
今、ティンタンジェルは、かつて無い危機に遭遇しております。
相手は、我々が敬い、慕っている妖精信仰を愚弄し、自分達の信仰を力によって押し進めようとしております。
私達、民は、これを良しとして居りませぬ。 ──が、向こうの勢力は我々が思いつかぬ程に強力。
我々の力だけでは歯が立ちませぬ。恥ずかしながら、こうして貴方様に助力を求めた訳であります」
「……天上信仰の『見えぬ神』の事は我々妖精界にも届いているぞ。
見えぬのは『そこ』に居ないのか、見えるのに見ることができなくなったのか……ヒヒヒ」
肩を揺らし、笑いながら二束の金髪を自分の懐にしまいこんだ。
「んで、俺様は何をしてやれば良い?
言っとくが、俺様がしてやれるのは助言だけだ」
「シリーナヶ原の女王ドーン様にお会いしたい。──シリーナヶ原の場所を教えて頂きたい」
「ふん、ノイ家の契約か……良いか、シリーナヶ原なんてねえ」
「──えっ?! だって、シリーナヶ原の事は代々伝わっているわ!」
思わずディーナはルーに啖呵を切る。
「ノイ家の娘、では、場所が明白ではないのに、原っぱの名前だけ伝わってんのは何でだい?
──疑問に思わなかったんかい? 能天気な一族だぜ、ヒヒヒヒ」
「……」
「まあ、聞け。シリーナヶ原は天上神と同じさ。」
「……?」
「阿呆なお前等に、解く為の手がかりを与えてやる。
──『妖精樹』を探せ、そこがシリーナヶ原だ。」
「妖精樹……」
「んじゃあ、あばよ、見えるものしか見なくなった人間共。せいぜい頑張りな」
ひねくれた言葉を残し、ルーは姿を消した。