48】 今生の別れ
カインの言葉にディーナは凍りつき、愕然としたままでいた。
──こんなこと、望んでいない。
カインには生きて欲しい、生きて一緒に。
全てが終わった後、現実に自分がしたことに向き合わなくてはならないのは、生きていくのは辛いことかも知れない。
でも、一緒に、みんなで支えあえればきっと乗り越えられる──そう思っていた。
カインの身体に刺さった斧と服に染まった血を見る。
大量に染み込んだ血は床に滴り、今だにその流れを止めずゆっくりと血溜まりの大きさを変えていく。
死ぬんだ──カインは。
私が手を下さなくても、死ぬ。
そして、このドルイトの次の形代となる……。
身体が震えた。
カインがカインじゃなくなる。
「嫌よ」
ディーナは小さく呟くとフルフルと首を振った。
「……裁かれるなら……お前が……良い。ディー……ナ、俺の……最後の願い……」
必死で涙を手で拭いながらカインの顔を見る。
恐怖も無く安らかで、今でも眠りにつきそうな顔付きだった。
「──ディーナ様……。このままでは彼は魂ごとドルイトに取り込まれ、誰かが倒さぬ限り永遠に安らかな眠りにはつけませぬ……。お覚悟を……」
暫く、ディーナは呆然とカインを見つめていたが、はあ、と深く呼吸をすると意を決したのか立ち上がりリュデケーンから剣を所望する。
「アリアン、ノーツ……カインのお兄様……ごめんなさい」
少しずつドルイトの身体が自分に融合しているせいか、カインがその度に顔を歪めた。
痛みを逃すためなのか、低い声でディーナにうわ言のように話し出した。
「……異母姉がいた……俺には……小さい頃は何も分からん……ガキで……その人が姉とは知らず恋をした……。その人が急に姿を消して、やっと……姉だと……分かった……。一生、実らん……恋だ。俺は、その人が……全てを捨てて……も、幸せなら……何も……思い残すことは……無い……」
ディーナの横で見守っていたクロフトンがそっと頷いた。
リュデケーンの長剣を両手に持ち、カインの後ろにディーナは立つ。
「……カイン、私、貴方みたいな兄が欲しかった……」
ディーナの言葉にカインは口元の片端を上げ、彼女を見上げた──あのいつもの悪戯の輝きを瞳に宿して。
「こん……な……じゃじゃ馬……妹にするのはごめんだ……」
「──相変わらず、憎まれ口……。でも、大好きよカイン」
「……ああ、俺もだよ……お前らに……会えて良か……った」
「うん……私も……ありがとう……」
ノーツもアリアンもただ頷いた。
「さあ……ドルイトに……取り込まれる前に……」
カインの言葉にディーナはゆっくりと剣を振り上げた。
「さよなら!! カイン──!!」
一気に剣を振り落とした。
確かに感じた剣への手ごたえ──瞬間、弾ける様に閃光が走る。
ディーナを含むその場にいた全ての者がその眩しい光を直視する事ができず、眼を瞑る。
瞳を開けた時、閃光は既に消えうせ
ディーナが切り付けたカインと、彼に癒着をしていた変わり果てた邪悪な生き物はそこにいなかった。
……部屋の外では、リュデケーンの部下達が投降を呼びかける声が内まで届き、ティンタンジェルとウィンダムの争いが終わりを告げていた。
次回で完結になります。