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ティンタンジェル記  作者: 鳴澤うた
45/49

45】 再会

「……君は……アリアンか?」

 クロフトンは我が目を疑った。

 目の前にいる、白銀の鎧を纏いし褐色の肌の女性。

 編んでいた髪が解れたのだろう、兜から、身に着けている鎧より濃い銀髪が、胸元に彫られている模様を隠すように流れていた。

 一瞬、何処かの国の神話に登場する戦女神を思い起こす程の毅然とした美しさがあったが──クロフトンは自分が少年の頃に共に育った童女と、童女の母親に似た女性が今、自分に剣の先を向けている事に全てを悟った。

 そして……

「カイン、生きていたのか?!」

 銀髪の女性の斜め後ろに立ちすくむ、懐かしい顔にクロフトンは安堵の息を付いた。

 カインは今の異様な情景に面食らっているようだった。

「……兄上、これは一体どういうことだ?」

 カインは鞘に剣をおさめると、クロフトンの格好に首を傾げた。

 無理も無い。クロフトンは丈夫そうな椅子に座らされ、両手・両足を縛られているのだから。

「──ふっ、ウィリアムにしてやられたわ」

と、クロフトンは自嘲気味に笑う。

「──ウィリアム……。あの、そばかす坊やも来ているのか?」

「ああ、父上──いや、教皇の命でね……。しかし、この国へ着てから父上もウィリアムもおかしい、明らかに! ……父上は以前からだろうが、ウィリアムの急変はどう見ても異常だ!!」

 戸惑いながら何とか状況を理解し自分なりにアリアンやカインに説明しようとするが、クロフトン自体、体験した事の無い事態にどう説明して良いのか分からないらしく、イライラしてるのがカインには分かった。

 しかも、目の前には行方知れずの異母妹・アリアンに異母弟・カイン。

 余計に混乱しているようだった。

 いつも冷静沈着で、父・ドルイトの補佐をしていたクロフトンがこれ程に取り乱すというのは、何か考えられない変事がドルイトとウィリアムの身に起きているのだろう。

 カインは度数の強い酒をグラスに注ぐと、クロフトンに飲ませた。

 クロフトンは喉から音を出しながら飲み干す。

「──縄を解いてくれ、あの二人を止めねばならん!」

と、カインに言った。

 縄はかなり強く縛られていた。クロフトンの手首は鬱血していた。

 彼は撫でるように鬱血部分を擦り大したことが無いと判断すると、外されてそこかしらに放り投げられていた自分のガントレッド着ける。


「……アリアン、母上殿はお達者か?」

 しばし沈黙がありアリアンは

「長い旅を続け、この国に着いた時にはもうすっかり弱っておりました……。半年後に……」

 そう静かに答えた。

「……そうか……。素晴らしい女戦士であったのに残念だ……。父を正気に戻せるかと思ったが……」

「今ここに生きていても母をあの男に会わせる気は毛頭ありません!」

 クロフトンの言葉にアリアンは怒号する。

 クロフトンもカインもアリアンが激怒する理由を知っているので、何も異論は唱えなかった。

 そして

「アリアン、カイン。父は嫌いか?」

と尋ねた。


「──父と思っておらん!!」

「右に同じく」

 二人の即答にクロフトンは肩を竦めて笑った。

「国中の民を苦しめた業が一気に押し寄せてきたものだ……」

と呟く。

「私もウィリアムも、お前達と同じ侵略先の統率者の娘を父が娶り産まれた者達。同じ境遇で考えが違うのは、諦め屈した者から産まれた我らと、それに屈せずに貫いた者から産まれたお前達との温度差だな」

アリアンが滑るようにクロフトンの前に飛び込んできたかと思うと、剣先を喉笛に突きつけた。

「投降しろ。さもなければ兄と言えど切る!!」

「止めなさい、アリアン。恨みを向ける矛先が違うだろう?」

 突きつけられた剣先を右手でそっと払い、クロフトンは厳しくアリアンを諌めた。

「……」

 慰ぶしがりながら、アリアンはゆっくりと剣を下ろした。

「私は戦う意志など無い。特にこの国に着て父のやってきた虐殺や不可思議な現象──等、色々見せ付けられてうんざりなんだ。とにかく、今は父上とウィリアムをどうにかしたい」

 二人に付いてくる様に言うと部屋を出る。


「……どうする? 罠かも知れんぞ?」

 アリアンはカインに尋ねた。

「兄貴は昔っからちっとも変わってねぇよ」

「……そうか……」

 そう言うと、アリアンも大人しく付いていくカインの後を追った。


 ──長兄クロフトン

 幼い頃から物静かで、剣を振るうより本を読んで色々と考えをめぐらすが好きな兄。

 本で身に着けた知識で、十代からドルイトの片腕として軍師的役割を果たしていた

 戦地に赴かない時にはいつも──

(いつも、母の違う私達に本を読んでくれたり、遊んだり……よく面倒を見てくれた……)

 この兄が次期後継者だと、皆、敬い信頼を寄せていた。


 しかし──ドルイトが狂いすぎた。


 いくら才があっても常識から外れない考えのクロフトンには荷が重すぎた──目的の場所に向いながらカインが教えてくれた事。

 父を裏切る事も切る事もできず

 ただ側にいて説得するしか無い良識者──。


「クロフトン。話にならんかったら切る。貴方にできないだろうが、私とカインには出来る。覚悟を決めといてくれ」

 やや後方を走りながらアリアンはクロフトンに告げた。

 答えは案外早く返ってきた。

「致し方無い。お互いの国の為だ。……もう、あれは父でもウィリアムでも無い──別の者かも知れんし」

 クロフトンも日々何かを感じ取っていたのだろう。あれは狂った別の者、と。

「他の者でさえ、背筋が凍りつき凝視しながら逃げ出す位だ」

「……あれはドルイトじゃない」

 カインの言葉に暫く黙って走っていたクロフトンだったが「そうかも知れんな」と、同意した。

 常識内での思考しか思いつかなく混乱していたクロフトンだが、度重なる異変でカインの言葉で納得しないと自分がおかしくなる──そう思った。

「だとしたら、あれは何者だ?」

 クロフトンの問いにアリアンが

「掻い摘んで話すが、目に見えるものしか信じない貴方にとっては非常識な内容だ」

「──それでも納得するだろう……あの二人を見れば……」

 そう言う彼女にクロフトンはまた自嘲気味に笑った。


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