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ティンタンジェル記  作者: 鳴澤うた
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4】 状況

鳥の声……。


鳴き声がする方向へ、ゆっくりと視線を向ける。

視線の先に、鳥の他に白い頭巾を被った若い女性がいて、不意に目が合う。

「──あっ、お目覚めになったのですね!!」

女性はスッとディーナに近寄り、慣れた様子で額に手をあてた。

「まだ、少々お熱がございますから、もう暫くご安静を」

「私……どうしたの? どうして此処にいるの? ──此処は何処なの?」

「此処は、王宮内でございますよ」

興奮して起き上がろうとするディーナを女性はベットに押し戻して話した。

「王宮……ティンタンジェルの?」

「そうでございます」

「私……生きてるの……?」

「当たり前でございますよ。──なかなかお熱が下がらなくて、どうなるかと思いましたが」

「──!? 私が寝込んでもう何日なの?!!」

ベットから跳ね起きて、女性が止めるのも聞かず、窓の外を見る。


「──!!」

 王宮から遠く離れた港の、その先の海……。

 まるで雨雲のように、地平線沿いに重なる様に並んでいる黒い船隊。

「さあさ、ベットにお戻りなさいまし」

「占拠……されたの……?」

「──まさか!! まだ、一度も襲われておりません!!」

「……ソラヤ島だけなの? 襲われたの……?」

 女性は答える事ができず、黙り込んでしまった。

 ディーナがソラヤ島の住民だと言う事を聞いていたからだ。

「ねえ、知ってること全部教えて! ──あの船隊は何処の国のものなの? 何が目的なの? 

 何故あんな何かを待っているかのように取り囲んでいるの!?」

「……そっ、それは……」

 病後で、まだ回復していない身体とは思えない激しく厳しい口調にうろたえてしまい、女性は何も言えなくなっていた。


「──そんなに詰め寄っては、メイドも言えることが言えなくなってしまうぞ」

「──?! ……あっ……」

 苦笑しながら入ってきた銀髪の女騎士に、思わず顔を赤らめ、メイドから離れた。

「アリアン様……」

 恭しくお辞儀をする。

 アリアンはメイドに下がる様に命ずると、ディーナに優しく戻るように促した。

「あっ、あの……アリアン様、私の事、海から助けていただいてありがとうございます!」

「とにかく元気になってよかった。まだ、回復していないのだから横になっていなさい。

 ──貴女が持っていた剣と髪束は、私が大事に保管してある、安心しなさい」

「あの……でも私、聞きたい事が……」

 再びベットの中に入りながらも食い下がるディーナに、

「……やれやれ……」

 と、アリアンは軽く溜息を付くと、しばらく考え込む。

 やがて決意したのか、真っ直ぐディーナの顔を見つめて言った。

「貴女は気丈な娘だと聞いている。

 ただ、まだ身体が回復していない貴女に、何処まで耐えることができるか分からないが……ソラヤ島、唯一の生き残りの貴女には知る権利があるだろう……ディーナ……」


「──!!?」

 驚きのあまり、息が止まり固まってしまった。

 長い沈黙……。

 必死に泣くのを押さえているのだろう。

 肩が大きく震え、呼吸が荒い。

 掴んでいる毛布が、引裂かれそうなほどになっている。

 やがて、事を飲み込んだのか、呼吸を整えアリアンの方に顔を向けた。


「……アリアン様。知っている事、全て教えてください……。

 ソラヤ島が今、どうなっているのか、今、ティンタンジェルはどうなっているのか。

 あの、黒い船隊は何なのか。──そして、私達はどうなるのか──」

(本当に気丈な娘だ。──エリディルス様とノーツが話した通りの娘……)

 まだ、十六そこそこの幼さが残っているこの少女……気迫と意志の強さはどうだ?

(しかし……全てを知って、この強さが残っているだろうか?)

 今更ながら、ディーナに話す事に戸惑いを感じる。

「──アリアン様、お願いです。教えてください。

 私、知らなきゃいけないんです。

 ソラヤ島のみんなの為にも、知って、知った上で、これからまだ危機が続くと判断したら、行かなきゃいけない場所があるんです」


「──行かなきゃならない場所?」

「……シリーナヶ原へ……」

「──何だって!!?」

 アリアンの顔色が変わる。

「ディーナ!! 貴女はシリーナヶ原の場所を知っているのか?!」

 ディーナは首を横に振った。

 それから、アリアンに父から聞いた「ノイ家」の妖精の恩返しの話を聞かせた。


「ううむ、これは……。 ソラヤ島は妖精伝承が多いとは聞いていたが……。

 ──そのまま、暫く待たれよ!」

 そう言うと、アリアンは部屋から飛び出して行ってしまった。



 一刻過ぎてからアリアンから戻ってきた。

「ディーナ、歩けますか?」

「はい、平気です」

「──では、これに着替えて」

 メイドが持ってきた服に着替える。

 まだ本調子ではない事を考えてくれたのか、品は良いがゆったりとしたワンピースだ。

「よく似合いますよ。

 ──少し髪を整えましょう、これから、王と謁見ですからね」

「──フォークロアー王と?」

 アリアンはディーナを鏡の前に座らせ、ディーナの豊かで柔らかな髪に櫛を入れながら

言った。

「場が場だから、少々、息苦しいかも知れないが……」



 通されたのは、謁見の間ではなく、大きな作戦会議室だった。

(……王様だけじゃあないのね……)

 大臣、高名な学者達、鎧を着込んだ騎士達、その他、重役と思える学者達、そして……


(エリダー!? ノーツ?!)


 王のすぐ側の席に座るエリダーと、いつものようにエリダーのピッタリ後ろに控えているノーツ。

「フォークロアー王、ディーナ=シー=ノイを連れてまいりました」

「……ディーナと申します」

 アリアンについで、ディーナも恭しくお辞儀をする。

「──うむ……。 面を上げて、椅子に座りなさい。

 ディーナ殿……あの襲撃によく生き抜いてくれた……。父君のアルク殿は、素晴らしい鍛冶師であった。 

 家族の者達や、ソラヤの住民の分まで幸せになられよ……これから、そなたの生活は、このフォークロアーが保障する」

「……王自らの慈悲深きお言葉……痛み入ります……。

 ──ただ、恐れながら申し上げます、王の申す生活の保障と言うのは、海で何かを待つように漂っている黒い船隊の国の脅威に脅えながらの生活でしょうか?」


「──!!!」

「小娘!! 口を慎しまぬか!!」

「何を知ったかの様に!!」

「何と礼儀知らずな!!」

 口々にディーナを罵り始めた重臣達の口を止め、再び静寂に戻したのはエリダーだった。

「皆さん、静かに。

 彼女は、一番近くでその身に受け、今の危機を感じた者……。少なくとも私達より、この国の行く末を案じているのでしょう」

「エリディルス王太子様……」

 ディーナはエリダーを見た。


 ──王太子……だったんだ──


 大方、ノーツは従者なのだろう。

 一昨日まで共に学び舎で喧嘩しながらも楽しく過ごしていたのが、まるで夢のようで、現実からかけ離れた様に感じる。

 王太子と平民──学校を離れると改めて分かる身分と言う名の距離……。



「……ディーナよ……。そなたに、包み隠さず今、ティンタンジェルに起きている事を全て話そう……。

 ──そして、そなたも、そなたが知っている事を私達に全て話してくれぬか?

『シリーナヶ原』の事を含めて……」

「……分かりました、王様」



 あの黒船の国は

『ウィンダム』

 五年程前から、各国や島々を、この世の物とは思えない大きな船と共に人々の生活の統一を行っていると、早舟と伝書鳩を使って情報を入手。

 ウィンダムは、侵略した国や島の独自の生活、習慣、

 特に宗教を否定──。

 ウィンダムの生活、習慣、宗教に統一を強いている。


 ウィンダムの信仰、それは──

 ──天上信仰──

 天上神 デナム を唯一神とし、その他の神は全て、あやかしであると言う教え。

『天上神以外の神を敬う者達は、悪神に取り付かれている。

 改心、改神せよ。』

 ウィンダムの最高指導者、ドルイト教皇の

 ──神からの啓示── によって

 改神と言う名の侵略──

 が、破竹の勢いで進み、西の大陸は全てウィンダムの元、統一。



「次に攻めに来るなら、此処、ティンタンジェルだろうと予想は直ぐに付きました」

 学者の一人が、呟くように言うと、助手らしき若者に指示を出し、地図を広げさせた。

「ディーナ殿、ティンタンジェルの地理はご存知であろう?」

「はい、王立学校で学びました」

 学者の問いにディーナは、ためらいも無く西南に位置する小ぶりの大陸に指を指した。

「──そうじゃな。

 ウィンダムから真っ直ぐ、東の大陸に行くのが最短だが、兵士の休息や食料の補充の事を考えると一度、ティンタンジェルに向かった方が最良と、向こうさんも考えたんじゃろう」

「──だから、我々も、それを予測した時点で急いで防御の用意に取りかかった……」

 アリアンが口を開いた。

「予想以上に襲撃が早かったのです……いえ、情報の伝達が遅かった……多分……」

「……それで、ソラヤ島が真っ先に犠牲になったのですね……。

 ──本当に……本当なのですか? 私以外、生存者がいないと言うのは?

 私みたいに、海に飛び込んで逃げ延びた者はいないのですか……?」

 ディーナの問いに、フォークロアー王は悲痛な面持ちで首を振るしか無かった。

「確かに、ディーナ殿のように海に飛び込んだ者もいたらしい……だが、見付かって、皆、殺されている

……。

 ──何故、ディーナ殿だけ逃げ延びる事ができたのか……」

「暫く、海の中で気を失っていたのです……気付いたらマーメイドが私を抱き、泳いでいてくれていました……」

 フォークロアー王は納得して頷いた。


「──そんなに残虐な事を何故?

 ウィンダムの信仰する、デナム神と言う神は、人殺しや侵略を推進する神なのですか?!

 何故? 各国、各島でそれぞれ自由に自分が信ずる神を敬っていてはいけないのです?」

「その神の真意は分からぬ。

 ──ただ、神の啓示を受けたと、侵略を進めているのは教皇ドルイトだと言う事だ」

「……そして、デナム信仰の国の強さを我々、ティンタンジェルに見せる為にソラヤ島を襲い、見せしめに民を皆、殺害した……」

 王から回ってきた、ウィンダムからの書状……。

 丁寧に、こちらの言葉で書かれていた。

 ディーナは最後まで読まず、書状を投げ、泣き崩れる。

「──あちらのご都合はよく分かったわよ!!

 ティンタンジェルを無傷のままに欲しかったから、一番近くのソラヤ島を攻撃して力を見せ付けるのは最良の手口でしょうよ!!

 ……でも、でも、だからって……みんな……子供や赤ん坊まで殺すなんて!! そこまで力を誇示しないといけなかったの!!?」

「……ディーナ……」

 いつの間にかエリダーが側に来て、ディーナの肩に触れていた。

 「我々は、こんな身勝手な国に国も民も、その生活全てを渡す訳にはいかないと、意見は一致しています。

 ──しかし、我々の戦力だけではウィンダムには勝てない……。

 王と私が持つ力──『妖精支配』の力は支配できる妖精の数も力の度合いも限られています。

 だからこそ、太古の妖精の力を借りたい。

 ──ノイ家に受け継がれている『シリーナヶ原の女王ドーン』の御力をお借りしたいのです。

 ……ディーナ、辛いでしょが時間が無い……。

 女王ドーンの御力を借りるには、ノイ家の直系であるディーナ、君の協力が必要なのです」


「……申し訳ございません……。

 ──分からないのです、要のシリーナヶ原の場所が分からないのです。父も存じていないようでした」

「──あまりに古い伝承で、場所が不明慮になってしまったのですね……」

 ディーナは頷くしかなかった。

「……だから、私、一人で探しに行こうと……」

 一同、落胆を隠さずにいられなかった。



 妖精女王ドーン

 現在、ティンタンジェルで信仰されている妖精信仰

 妖精王 ハイネスを頂点に、ハイネスの妻

 妖精女王 ネワン

     バウ

     キハ 

     モーラ

 四人が、それぞれ力を奮っていると言われている。

 その、妖精王ハイネスの母が妖精女王ドーンだと言う。


 太古、ドーンは一人で三人の男の妖精を産み落とした。

 ハイネス

 ルー

 ハバス

 ──ドーンは、伴侶も作らず、たった一人で子供を産んだ事に、不完全さを感じ、三人の子らに 妖精界を頼み、自らは『シリーナヶ原』の地下に城を建て、隠居していると言う。


 後に、バハスは生まれつきのその邪悪さに妖精界を追われ、ルーは、職人の技に惹かれ、それのみの偏りの支配をするようになり、

 均等だったハイネスが、総合的に妖精界を支配するようになった。



 ノイ家は、名工ルーが赤ん坊の頃に女王ドーンから直接、暫くお預かりして育てたと伝えられてる。

「ドーンとのかかわりを持つ一族は、今現在ノイ家しか確認が取れていません……」

「至急、早馬を走らせ調査いたします」

「──しかし、それで果たして……」

 学者達が勝手に騒ぎ始める中、エリダー、ノーツ、アリアンは泣きじゃくるディーナを部屋に帰ろうと、優しく語りかけていた。

「──戻りましょう、ディーナ。まだ、本調子ではないのに、無理させてすみませんでした」

「さあ、立ち上がれて? 部屋に戻りますよ」

 アリアンが、ディーナを抱き起こそうした時


「──に聞け……」

 突如、ディーナが思い出したように呟き、顔を上げた。

「父がよく言ってた……。『自分が、何をすべきなのか分からなくなったら、剣に聞け』 ──と」

「……剣に?」


『名剣といわれる剣には、魂が宿り、その魂は、ルーから祝福をもらうと最強の剣となり、持ち主を守る』


「自分の持つ剣を愛し、語りかけなさい、お前の思いが本物なら、剣はそれに応えてくれる」


 父がよく語っていた言葉を一句一句、思いだしながら王に伝える。

「……名剣──!! 父上!?」

「──うむ!!

 ノーツ!! “アドナイの剣”を持て!!」


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