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ティンタンジェル記  作者: 鳴澤うた
39/49

39】 試練

「──!?」

 カインもノーツも、その光景の不思議さに唖然として声も上げられず、ただ、じっと見つめていた。

 アリアンが指していたのは開いた扉の先。扉の向こうは広間を思わせる程広く、大きく、天井も高い。

 そして、何より異様なのは、人と同じ姿・形をした妖精達が目を閉じて地に横たわっているのだった。

 皆、中央に刺さっている剣に見守られるように、頭を全員そちらに向け横たわっている。

 ノーツが扉のすぐ傍に横たわっている一人の首筋に手を当てた。

「──かすかに脈はある」

「本当に眠っているようだ」


 一同、眠っている者を踏まないように慎重に、中央の剣の場所まで進んでいく。

 吐く息が白い。

「入って気付いたんだけど、この場所だけひどく寒くない?」

「気温を下げて冷凍状態にして、眠らせているのかもな」

 ディーナの問いにアリアンが答えた。

 よく見ると、眠ってる者達全てに両手両足に鎖が付けられていた。

「……何故、みんな、鎖を付けられているんだ?」

「封印ノ一ツ……」

 そう、コーファルが話した時、剣の前に着いた。


「コノ剣デ鎖ヲ切ルンダヨ。三千人ノ騎士団ノ鎖ヲ、ディーナ一人デネ」


「──三千人の鎖を一人で……!?」

 驚いてディーナは声を上げた。

 両手・両足を縛っている鎖は太く、しかも、使う剣は長剣の類でその中でも大きい部類で重さもありそうだ。

「ディーナハ、封印ヲ解ク者トシテ、ドーン様ニ選バレタンデショウ? ダカラ鍵ヲ預カッタンデショウ? 

 鍵ヲ持ツ者ガ、コノ騎士団ヲ継承スル者。ソレ以外ノ者ガ手ヲ貸シタラ、騎士団ハ継承ヲ認メナイ。鎖ヲ切ッテモ、ラッパヲ鳴ラシテモ目覚メナイ」

「ドーン様が仰っていた“封印を解いた者以外の命令は聞かない”と言うのは、裏を取ったら“この試練を一人でやり遂げた者に対しての褒美……”と言うことだったのね」

「褒美ト言ウヨリ、賛美、称賛ニ値スル者トシテ敬ウノダ」

 コーファルは刺さっている剣の柄の上に止まり説明した。

「ディーナ、コレカラガ大変。ダカラ休ンダ方ガ良イト言ッタ。──今カラデモ休ム?」

 コーファルが首を傾げて尋ねる。

「決まってるわ」

 そう、ディーナは言うと一歩前へ出た。

「コーファル、どいて。──やるわ、今すぐに」

 強い口調で言うと剣を抜き取った。

「ディーナ!? 無茶だ! エリダーが抜けてから、ここまで不眠不休で来たんだぞ? 最後までお前が持つとは思わん!!」

 真っ先に反対したのはアリアンだった。

「俺も反対だな」

と、カイン。

「見た所、その剣も鎖も、封印と封印を解く物としては特別な代物になっている感じがするぜ。恐らく“力”だけじゃなく“気”も必要じゃないかと思う。

──ディーナ、ずっと気ィ張ってるけど心身ともに疲れているんじゃないか? だとしたら、途中で倒れるぜ」

「倒れるならまだしも……力尽きたら……」

 ディーナを囲んで、アリアンとカインが説得する。

 ノーツは、どうするべきか考えあぐねている様子だ。

 それでも、ディーナは首を縦に振らなかった。

 剣が刺さっていた低い台にしゃがむ。横には小さなラッパがちょこんと置いてあった。

 ディーナは、小さいラッパを手に取るとやんわりと微笑んだ。

『小さい頃にアルフォンスが持っていたラッパに似ている……』

お気に入りで、いつもプープー鳴らして二人で兵隊ごっこしてた。

『そして、いつも怒るのよね』


 ──駄目!! お姉ちゃんは、お姫様役なの!──


 と……。

 年月が絶って、読者や勉学に熱中するようになって、あのラッパは何処か消えてしまった。


『アルフォンス、お姉ちゃんね……騎士にもお姫様にもなれそうもないわ』

 ──救いたいの、私にしかできない事なの……──

「ディーナ?」

 黙ってしまった彼女をアリアンは不安そうに声をかける。

 そんなアリアンにニッコリと微笑み、ディーナは話し出した。

「王もエリダーも王城の人達も、城に逃げた民も、みんな恐くても頑張っていると思うの。眠れなくて、一睡もしていない人もきっといるでしょう……。レーシィも、眠りの準備に入るこの時期に身体を張って盾になってくれている。アリアンやカインの、私を思う気持ちはとても嬉しいわ……。

 でも、だからと言って今、その思いに甘えている場面じゃない。

 ……私は特別じゃない。アリアンやカイン、ノーツみたいに剣を上手に使いこなすわけじゃないし、経験だって積んでいない、ただの夢だけが大きい女の子……。

 それでも、ドーン様は私に鍵を預けて下さったし、エリダーも私を好きだと、信じていると言ってくれた。アリアンやカインやノーツも、私を助けて一緒に頑張ってくれた。

 今、ここで私がやることは、国や民を救う為でもあるし、こんな私のことを信じてくれた皆への恩返しでもあるの」

「ディーナ……」

「──だから、やるわ。私にしかできないことだから……」

 ディーナは立ち上がると、刺した剣を再び両手に持ち上げた。

「アリアン、どうしたら私が余計な力を使わずに順調に鎖を切ることができるかしら?」

 アリアンは躊躇ったが、ディーナの落着いている様子を見て決意は焦りや興奮で言った事ではないと観念した。

(腹を据えて彼女を見守るしかないか……)

「真上に剣を上げるな。ディーナでは後ろにそっくり返ってしまう上に重さで肘や手首を痛めてしまう。斜め上から剣ごと後ろに捻って反動で鎖を切ろ。──その時、下半身は足を肩幅より広げて膝を少し曲げるんだ。じゃないと腰を痛めてしまう時が有る」

 妖精達の手足を切らないように慎重に狙いを定め、アリアンの指示通りに剣を振り上げ鎖を切る。

しかし、音だけ響き肝心の鎖が切れない。

「……力が足りないのかしら?」

 不満そうに言うディーナに今度はカインが

「さっき俺が言ったろが。 力だけじゃないって」

と助言した。

「──うん」

 今度は、剣にも集中して鎖に目狙いを定め剣を振る。

 ──ガチャリ──と鈍い音がして、一つ目の鎖が切れた。

「やった!」

 ノーツが思わずガッツポーズを取った。

「その調子でやれ!」

 ディーナは頷き再び鎖を切る作業に入り、早くは無いが確実に鎖を切って行った。

「……今は良い。これからだな……」

 カインがぼやいた。

「見守るしか無いだろう……?」

「ああ……」

 手助けができないもどかしさがアリアンを苛立たせた。

 それはカインやノーツも同じであった。


 ──ただ、見守ることしかできない──

 せめて、ディーナの体力と気力が最後まで持つように祈るしかなかった。


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