38】 扉を開けて
久々の更新です。
歩き続けて半日。
飛んで行ってはディーナの元に戻り、行っては戻りを繰り返すコーファル。
恐らく、目的の場所はすぐそこに見えているのだろう。翼の無い自分を恨めしく思うディーナだった。
「ディーナ、日が暮れる。今日はこの辺で休もう。暗闇の中で強行突破して事故に遭遇したらお終いだ」
アリアンが制してようやくテントを張る事になった。
「せめて城下街がどうなっているのかが分かればなあ……」
ノーツが悔しそうに舌打ちしながら、残り少ない干し肉をしゃぶる。
「オ腹スイター!」
と、テントを張る時に何処かへ飛んでいったコーファルが、勢いよく戻ってきてカインの肩に止まった。
カインが食べていた干し肉をむしり取って一飲みしてしまって、カインが怒りコーファルの口を鷲掴みした。
「コーファル、どこに行ってたの?」
ディーナはカインからコーファルを引っぺがして尋ねる。
「仲間ニ聞イテキタノ。皆ノ為ニ聞イテキタノヨ。ビックリ?」
「? 何を聞いてきたんだ?」
アリアンが尋ねる。
「聞キタイ? 聞キタイト思ウノヲ聞イテキタノヨ。ダ~カ~ラ、水、飲マセテ──!」
ディーナが器に水をたっぷり入れ、コーファルに差し出した。
顔ごと器に突っ込み、勢い良く音をたてて飲み干す。余程、飛び回っていたのだろう。
「ハア~! 一息付イター!!」
人のように羽でお腹を擦る。
「んで、何を聞いてきたんだ!」
珍しくノーツが突っかかる。
「ウィンダムトノ交戦の様子ヨ!」
コーファルが胸を張って威張るように言った。
「──!? 分かったのか! それで?! 王は?! 王太子は?! 城や国、民達は?!」
ノーツが激しくコーファルを揺らし、情報をせがんだ。
「ノーツ」
と、アリアンが肩を叩き落着くように促した。
コーファルが仲間(鳥類と思われる)から聞いてきた情報と言うのは──。
海や港を覆っていた霧や雨雲が、風に追い出されるように晴れ、すぐに港や城下街に砲撃が繰り返された。
砲が届かない城内へ民を避難させ、応戦を始めた。
途中、海や空の精霊達が“支配の力”に導かれてウィンダムの船を攻撃していたが、敵も同じく精霊の種族を何らかの“力”で召喚し海や空で精霊達が戦い合っていた。
ティンタンジェルの王太子がレーシィを伴って戻ってきて、ウィンダムの方がレーシィに驚いてレーシィに攻撃を移した。
「何てことを……」
ディーナが呻く。
レーシィは元々、山の精で姿は荒ぶるしいが気性は穏やかだ。人や動物に自分からは決して傷つけたりはしない。
そんなレーシィに一斉攻撃だなんて……。
「レーシィは無事なの?」
レーシィはそのまま港に居座り、城を守るように敵を防いでいると言う。
「我々が戻ってくるまでそこにいる気では無いだろうな……? いくら山の精でも必要以上傷を負ったら……」
アリアンが案じて呟いた。
本体の山は自分達がいるこの山だ。
本来はこの山が傷が付かなければ命に別状は無いはずだが、空蝉の身体があまりに傷付けばこの山自体に異変が起きる。
下手すれば草木や土、山に生きる他の精霊や動物達にまで影響が出るだろう。
「コーファル、洞窟まで後どの位?」
「後、少シ。アソコ見テ」
コーファルが片翼である方向を指した。こんもりと尖っている岩山がある。
「アレガ“扉”ヨ。ドーン様カラ拝借シタ鍵ハ、アソコニ使ウノ」
「──近いじゃない!! もう、コーファル!」
扉がすぐそこだったのに、全員唖然とし、憤慨するかのように荷物をまとめ始めた。
「──!? 待ッテ! 駄目ヨ。特ニ、ディーナハ今夜ハヨク休ンデ!!」
その様子を見たコーファルは、慌てて皆を制する。
「何で? もう時間が無いのはコーファルだって知ってるでしょう? ──私の身体のことは良いの。案内して!!」
ディーナの気迫に押されたのか、珍しくコーファルが口ごもりディーナを見つめた。
が、諦めた様にお気に入りのカインの肩から飛ぶと
「付イテ着テ。──デモネ、ディーナ」
と空からディーナに声を掛けた。
「コレカラガ、ディーナノ最モ辛イ試練ニナルカモヨ」
と……。
*
扉である岩山には、本当に直ぐに辿り着いた。
絡まっている蔦や雑草を切り取り、岩山を曝け出す。
「ざっと見る限りには鍵穴は無さそうだけど……」
「ドイテ」
と、コーファルは一端、岩山から皆を下げさせると岩山のてっぺんにチョコンと止まった。
そして、翼を天に仰ぐ様に広げたかと思うと、最初に出会った大きさにその身体を変えた。
「何を──?」
アリアンが聞くや否やコーファルはそのまま天高く飛び立ち、大きく旋回し、その鋭い爪を持つ両足を岩山めがけて蹴り上げた。
「──うわっ! 岩が!?」
蹴られた岩山は、まるでゴム鞠のように脇へ転がって行った。
「おっかね~。そっちに居たらペシャンコだぜ……」
カインがぞっとしたように肩を縮こませた。
「洞窟が……」
ディーナの声に一同、岩山があった元の場所を見つめた。
ぽっかりと穴が開いて、暗闇の更に深い闇がある。松明の火を掲げてみたが、火の明かりを吸い込んでいるかのようで、全く見えない。
「コノ奥ニ扉ガアル。ディーナノ鍵ハ、ソノ扉ノヨ」
いつの間にか小さくなったコーファルが説明する。
「──サア、行クヨ。“眠レル騎士団”ノ元ヘ」
躊躇もせず中へ入って行ったコーファルの後を付いて行く為にディーナは、一歩、足を踏み入れた。
*
扉までの道のりは、そう長くはなかった。
何か仕掛けがあるのかと、警戒しながら歩いて来たが、考えてみたら人の力では到底動かす事のできない、あの岩山が洞窟を塞いでいるのなら仕掛けも何も無くて良いのだろう。
扉は重厚さがあり、松明で照らしてみると絵が彫られてあった。
その繊細な彫りと艶やかに心が奪われる。
「この女性はドーン様……?」
かんのん扉の中心に彫られている女性は、一度拝見したらずっと忘れることのできない美しさの、女王ドーンが彫られてあった。
そして、その周囲を取り囲むように様々な姿をした騎士達の姿……。
「ドーン様ヲ囲ンデカシズイテイルノガ、リュデケーン様ト、ソノ騎士達ダヨ」
「芸術だな……」
ノーツやアリアン、カインも魅入ってしまう程の扉絵。
ディーナは松明を片手に、壊れ物を触るように撫でる。ふと、扉を撫でる手が止まった。
彫られているドーンの持っている、杖の先……。
「穴が……」
そこを指差しながらコーファルに尋ねた。
「ソレガ鍵穴ヨ」
「……だけど……」
皆、顔を上げて鍵穴を見る。
扉は重厚さを感じられるだけあって、重さも厚みをありそうだ。それより、何よりも扉が見上げる程高く、大きいのだ。
「鍵穴まで、三メートルはあるよな……」
ノーツが呻く。
「しのごの言っても始まらん。ノーツ、カイン。お前ら向き合って肩を組め」
アリアンの言う通り、二人向き合って肩を組む。
「──っで、しゃがんで二人の肩にディーナが乗る。そのまま二人起き上がれば充分鍵穴まで届くだろう」
ディーナがドーンから拝借した鍵を持って二人の肩に乗る。
「せーーーーの!!」
二人掛け声を掛け合い、ディーナが落ちないようにゆっくり起き上がる。
「二人とも、顔、上げないでよ」
ディーナが忠言する。
「──つうか、お前、スカートの下に下穿き穿いているだろうが」
カインが吼えた。
「生理的に嫌なの!」
そんなやり取りをしながら、鍵穴との距離を調節する。
「──ここで良いわ!」
止まってもらい、筒状の鍵を差し込む。
両手で右、左に回してみると、左に回るようだ。
思いっきり力を込めて左に回す。
一回
二回、三回……。
カチカチとゼンマイが巻かれるような音がし、回数を重ねていく度に鍵が重たくなっていき、ディーナの鍵を回す手にもますます力が入っていった。
鍵がこれ以上回らなくなったので、コーファルに尋ねた。
「もう、いっぱいいっぱいみたいだけど、鍵を抜いて良いの?」
「ウン。抜イタラスグニ扉カラ離レテネ。外側ニ開クカラ」
コーファルの言葉にカインとノーツは頷く。
「ディーナ、俺らの合図で鍵を抜け。抜いたらすぐに俺ら、離れる」
「えっ? 私、落ちるじゃない!」
慌てるディーナに
「受け止めてやるから安心しろ」
と言う、カインの言葉に安心して頷いた。
「せーの!!」
カインの合図に一気に鍵を抜くディーナ。
瞬間、二人は離れ、落ちてきたディーナを抱っこで受け止め、素早く扉から離れた。
巻きに巻いたせいか、音を立て扉は勢い良く開き、反動で跳ねかえるほどであった。
「巻キスギダヨ、ディーナ」
「……巻く前に教えてくれる? コーファル。下手すれば扉に挟まれて圧死するところよ!」
ディーナはカインの腕から離れてコーファルに食ってかかった。
「ディーナ」
アリアンに肩を叩かれ、ディーナは指をさした方向を眺めた。
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