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ティンタンジェル記  作者: 鳴澤うた
36/49

36】 告白

「鳴キ女ノ谷ハ、広イノ。思ッタヨリ広イノ。ドウシテダカ分カル?」

 まるで小さな子供が得意げに自分の知っていることで、謎かけて楽しんでいる喋り方に皆、おかしくてくすくす笑った。

「知らないわ。教えてくれる?」

「ドウシヨウカナ?」

「じゃあ、いいよ。教えてくれなくても」

「エエ! 僕、教エタイノニ教ナクテ良イノ?」

 ノーツの意地悪な言い方に慌てるコーファルの様子がおかしくて、ディーナは笑いが止まらなかった。

「ノーツ、意地の悪いことを言うな。コーファル、知っていることをどんどん話しておくれ」

 アリアンがその場を治めた。

 コーファルは嬉しそうに羽をはばたかせた。

「ココハネ、僕ト、グリーンウズト、鳴キ女ガイルノ」

「声が呼応して、それが鳴いている様に聞こえるからそう呼ぶのではないのか?」

 アリアンの問いにコーファルは「ウフフ」と人のように笑うと

「聞イテ」

と大きな叫び声を出した。

「ギャー!」と言う呼び声があちこちに呼応しながら、最後の木霊になった時──。

「あ……、声音が違くね?」

 よ〜く耳を澄まさないと聞き取れない位だが、確かにコーファルの声音とは違っていた。


  試しにカインも

「酒、飲みて──!!」

と叫んでみる。

「──やっぱり、最後、声が違うな……。女の声だ」

「山ビコの精ナノ。山ビコハネ、声ガ欲シイカラ目ノ錯覚ヲ作ッテ人ヲ迷ワスノ。迷ウト人ハ声ヲ出シテ助ケヲ呼ブデショ? ダカラ、ココノ谷モ錯覚起コサセテ大シテ広クナイヨウニ見セテイルノ」

「そうだったのか……」

「んじゃあ、久しぶりに人の声を聞いて山びこも喜んでそうだな」

「喜び過ぎて私達を迷わせすぎ」

「デモ、僕ガイルカラ大丈夫ダヨ」

 コーファルは羽をはばたかせ、自慢げに言った。



 グリーンウズが去ったというのにニ、三日は皆と離れて寝ると言うエリダーにディーナは、疑問と不満でタラタラだった。

「グリーンウズがコーファルを捕らえる時に放出した『気』は、エリダーの“純粋”と“理性”の部分だから、いつものディーナの知っているエリダーじゃない」

 ノーツに言われ暫く黙り込んでしまったディーナだったが、それでも、グリーンウズが去った後の口数の少ないエリダーが気になり、ノーツが止めるのも聞かずエリダーのテントへ行ってしまった。

「──知らないよ」

 呆れたように溜息を付くノーツにカインは

「ほっとけよ。ディーナなリに何か決意があんだろ」

と、コーファルに干しシャトネラをあげながら話す。

「王太子様に対する気持ちをはっきりさせたいんじゃ無いの? ──まっ、何かあったら大声を出すだろうし。な、コーファル?」

 コーファルは干しシャトネラを夢中になって頬張っていて、カインとノーツの話を全く聞いていない。

「ウマ、ウマ、モット、モットヨ」

と、子供のように食べ物を要求している。

 アリアンは黙って火をくべていた。

  火の粉が夜の空を舞う。

  満天に輝く星達の元に、まるで魅了されて飛んでいくように見える。

  だが、所詮は空と地。

 交じり合うことは決して無い。

 ディーナとエリダーも例えればそう。

 エリダーは星で

 ディーナは火。

 ──だけど、二人は『物』じゃない。

 二人が分かり合った上で愛し合っていると感じることができたら、世間の隔たりも身分も越えることが出来るだろう。

「あの二人……一緒になってくれたら良いなあ」

 アリアンは、そう呟いた。


「こっちに来るな、ディーナ」

 いつもと違うエリダーにディーナはうろたえた。

 穏やかで優しい声音。丁寧な口調、慈愛で相手を見つめる瞳。

 紳士らしい態度のエリダーはそこにはいなく、ディーナと同じ等身大の少年の姿があった。

 しかし、見慣れない彼の姿にディーナは等身大と言うより、何か野生な感じが見て取れて余計に固まってしまったのだ。

「皆から聞いてるだろ? 二〜三日は近寄るな。もう行ってくれ」

 更に言葉を続けるエリダー。

 しかし、ディーナは動かなかった。深呼吸するとエリダーに話しかける。

「……ニ、三日位には洞窟に着くってコーファルが言ってたわ。だから……それまでにエリダーと話をしたかったの」

「──兎に角今夜は駄目。グリーンウズが離れたばかりで精神的にきついんだ」

「やっぱりグリーンウズの事……!!」

 思わず駆け寄ろうとするディーナに「違う!」と怒鳴った。

 幼い頃から王立学校で共に生活していて、一度もエリダーに怒鳴られたことが無かっただけに、ディーナには堪らなくショックだった。

「……エリ……ダー、あの……私……」

 自然に涙がこぼれてくる。

 進むことも去ることもできない。

 怯えた子供のように立ちすくみ泣くことしかできない。

 だけど、今、言っときたい──。


 涙を必死に堪えながらディーナは、話をした。

「エリダー……聞くだけ聞いて……。洞窟を開けたら、騎士団を目覚めさせたら、もう、こんな風に二人で会う事も無くなるかも知れない。

 ──最悪、ウィンダムとの戦闘で命を落とすかも知れない。例えそうでも、良いと思った。父も母もアルフォンスもいない。生まれ育ったソラヤ島も焼かれて無人の島となった。皆の敵を取ってティンタンジェルを守れなくても、戦って自分の命を燃焼させれば良いと思ってた。

 ──でも、今は違う。国を守ると一緒に来てくれたエリダー……。旅をして、貴方の、私に対する気持ちを知って驚いたけど、貴方にとっては等しいんだよね?

 国を守ることは、愛する人を守るということに。愛する人の『生』を守るために国を守る……。私も、私も、エリダーを守りたい……。貴方に死んで欲しくない。貴方の『生』を守るために私、命に代えても騎士団を──」


 突然、エリダーがディーナを覆いかぶさるように抱き締めキスをした。

 ディーナは突然の事に驚いたが、受け止め、黙ってエリダーの肩に手を置いた。

 長いキスの後「だから!」と吐き捨てるように呟くと、更にディーナを強く抱き締めた。

 そして、荒々しくディーナの柔らかな髪を擦るように撫でた。

「そう言うの、明日以降にしてくれって! 理性を持って行かれた分、ディーナへの想いを抑えきれないんだ! このままじゃ、君に無理強いしてしまいそうだから! ──だから、言ったのに!」

 エリダーの、今までの想いの分だろうか? 抱き締める腕の力も、背中や髪を撫でる力も身を捩りそうに強い。

 でも、今ならディーナにもエリダーの想いが理解できた。

 だから、こうやってエリダーの腕の中にいた。

 長い密着──少しだけエリダーが腕の力を弱めた。

 ごめん……拙い、やり切れない切ない声がディーナの耳に届く。

「ううん」

 ディーナは首を横に振りながら、エリダーの頬にそっと触れた。

 いつの間に、自分より背が伸びたんだろう? 自分の顔を上げないと彼の顔を覗けないないなんて。

 こんなに肩幅があったんだ、私を包むほどに。

 女顔だと笑ったのが大分昔に思えるほどに、間近で見る彼の顔は青年に向う少年の逞しい顔付きだった。

 プロポーズされた夜は、あまりに急であまりにエリダーが優しく抱き締めるから分からなかった。

 

 ごめんね、凄く大事にしてくれていたのね。


「エリディルス……」

 彼の本名で囁き、自分から唇を重ねた。

「貴方を愛しています」



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