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ティンタンジェル記  作者: 鳴澤うた
3/49

3】 祈り

今回短いです。


(──?)

誰かが……私の身体に触れている……。

飛び降りた衝撃で一瞬、気を失ったのか、後ろから抱き締められている感覚で目が覚めた。

ゆっくり、ゆっくりと上へ身体を上げてくれている。

(……誰……?)

まだ、はっきりとしない意識で懸命に辺りと、自分を抱き締める正体を見る。

ボンヤリと、まるで蛍のように光る球体が何十個とある……。

(マーメイド……)

その光る球体をマーメイド達が一つ一つ丁寧に両手で掴み、上へ掲げる。


(あれは……魂なのね……)

海で命を落とした、ソラヤ島の……。

何故か、そう確信した。


(──私を抱き締めているのは、マーメイド……?)

ゆっくりと後ろを向くと、やはりマーメイドで、目が合うとにっこりと微笑まれた。

魂の光のせいなのか、海の中はそれ程暗くなく、何故か暖かくさえ感じた。

ディーナを抱き締めるマーメイドは、口から透明の泡を出すとディーナの口を開け、押し込むと

微笑みながら身体から離れ、去っていった。

(ありがとう……)

魂を空へ還す作業をしているマーメイド達の間を潜り抜けながら、水面へ向かう。


(生きるんだ……みんなの為にも、父さんや母さん、アルフォンスの為にも……)


身体から離れ

自由となった魂を迷う事なく

惑わされる事なく

暗闇に引きずりこまれる事なく

再び

この世に生を受け

光を愛でる事ができるよう

共に水面に上がろうとする魂達に

祈りを奉げながら……



 ──あの大きな黒船とは、かなり離れた。

 船から見えることはないだろう。

(……だけど、隣のテェンタンジェルと目と鼻の先なのに、何故、移動して襲わないんだろう?)

 軍艦が集結するのを待ってる?

 それとも、他に何か?

 懸命に泳ぎながら、色々、脳裏に思い浮かべる。

(でないと、ティンタンジェルまで身体が持たない)

 泳ぎは得意な方だが、だからと言って遠泳が出来るほど、今、体力があるわけではない。

 海に飛び込むまでに随分、精神も体力も消耗してしまった。

(何か、考えながら泳がないと持たない……)


 ──早く岸に着かないと──

 ボンヤリしてきた頭を振り、気持ちを奮い立たせると、不意に視線の先にこちらに向かって何台

かの小船が来るのが見えた。

 (敵──?!)

 縮み上がる。

(こんな処で捕まる訳にはいかない)

 九十度方向転換してスピードを上げて泳いでいく。

 しかし、疲れた身体に鞭を打っての遠泳。

 またたく間に追いつかれてしまった。

(くっ!!)

 一旦、潜って回避しようとしたその時、

「──待て! ソラヤ島の者か?!」

 持ち上げるように腕を掴まれる。

「──えっ……?」

 腕を掴んだ者と目が合う。


 漆黒の肌、きちんと編んで止めてある銀の髪。

 その銀髪と、まるでお揃いでしつらえた様な鎧。

 切れ長の、気高さが滲み出ている瞳。


 感謝祭の騎士団行進で、彼女を見たくて人混みを掻き分けて、ようやく彼女の姿を見る事ができた、

あの……。


「アリアン……様?」

 ようやく、頼れる味方に出会えた安心感でディーナはそのまま気を失った……。




 景色が白い……

 身体が重い、動かない──私、死んだの?


 額に冷たい物が乗る。


『もう、大丈夫だよ、ディーナ』


 男の人の声……──お父さん?


『ゆっくり休んで』


「お父さん……」

 手を優しく握ってくれる。


「──ごめんなさい……」

『──?』


「お母さんと、アルフォンス……守れなかったの……。

 私、私が剣……なんて取りに行ったから……罰が下った……んだわ」


『もう、お休み』

「ごめんなさい……」

 ディーナは再び、深い眠りに付いた……。



「エリディルス様」

 アリアンは高熱を出して、夢うつつのディーナを気遣うように、そっと扉を閉め、彼女の手を握り

締めている少年に声をかけた。

「後は、私とメイドが交代で彼女を看ます。 エリディルス様は、もうお休み下さい。

 また、朝早くから会議なのですから……」

「……そうだね……。アリアンも無理のないように」

 ディーナが気付かないように、ゆっくりと手を離すと立ち上がり、アリアンの方に踵を返した。

 アリアンが会釈をし、エリディルスと呼ばれた少年も軽く会釈をし、部屋を出た。

 扉のすぐ外で、一人の青年が控えていた。


「ノーツ……」

「はい」

「ディーナが目覚めた時、どう真実を話したら良いだろう……」

「──ありのままで。彼女は、聞きたい事は自分から訊ねるでしょう……最良も最悪の予想を把握して。

 彼女の気質が失われていなければ、心が壊れる事はありません」

「失われていなければ……か」

 歩きながら、一つに結わいてある髪を解く。

 パラリと淡い金髪が真っ直ぐに肩へ下りた。

「父上の考え次第で、僕も支配する妖精を増やさないとならない。

 ──その時は、また、援護を頼みます」

「承知しております、エリディルス様」

 恭しく会釈するノーツ。

 その様子を不満げに見つめていたエリディルスは、ぽつりと言う。

「王宮でも、二人っきりの時は“エリダー”で良いって言ったでしょう? ノーツ」

「しかし、今は国家全体の危機の時……公私混同は避けねばなりません」

「──融通がきかないなあ……」

 “エリダー”は肩を窄めた。


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