28】 夢の中の温もり
GWスペシャル、これで最後です。
(つーか、書き溜めていない)
昨夜はとても眠れないと思ったディーナだったが、アリアンに促されて初めて飲んだ酒が効いたのか、すぐにまどろみ、早朝、アリアンに起こされる始末であった。
「……頭、ガンガンする……」
馬の手綱も持てないくらいで、治まるまでアリアンに抱っこされる形で馬に乗る。
「飲ませすぎ?」
ノーツの言葉にアリアンは
「いや、おちょこ一杯程度」
と首を振った。
馬の闊歩の振動が頭に響くらしく、ずっと、うつ伏せで馬の首に寄り掛かって、ぐったりするディーナ。
二日酔いで頭痛が酷く、頭が上げられないと言うのもあるが、昨夜のエリダーの件もあり、なかなか顔を上げられなかった。
(どんな顔してエリダーと顔を合わせれば良いのよ〜)
痛む頭を抑えて、たまに顔を上げエリダーを見るが当の本人は飄々としたもので、全くいつもと変わりが無かった。
そんなエリダーを見ていると、あの言葉の意味──。
プロポーズ──と言って良いのか分からなくなる。
(脅しとも取れるわよね)
上流階級の会話のやり取りって分かりずらい。
「──あたたた!」
こめかみにズキンと来る痛み。
今は、この悩みより二日酔いを何とかしようと考えたディーナだった。
*
ミデル山頂に着いたのは、まだ昼前だった。
その頃にはディーナの二日酔いもすっかり治まり、カインに「酒豪になるぞ」の囃し立てに言い返す程だった。
今日は雲ひとつ無い天気で、荒れる心配は無いようなので、このまま馬を預け、身支度をして稜線を渡ることになった。
「ディーナ、上からこれ履いて。気温も下がるし、道も険しくなるから」
アリアンから裾を縛る皮製のズボンを受け取り、上から履く。
アリアン達が手際良く必要な物をリュックに詰めていくのを見て、ディーナは改めて自分の不が無いさと、自分一人だけで旅をしようなどと言う当初の考えの甘さを痛感した。
思わず、溜息を漏らす。
「どうした? まだ痛むか?」
アリアンがせっせとリュックに物を詰め込みながら聞く。
「二日酔いはもう大丈夫。ただ、自分って役に立たないなぁって。学校で習ったことなんか、ちっとも使えないし。何か手に職を付けた方が良かったかなあ」
「騎士は諦めた?」
「諦めた、と言うより、自分の力量にへこみ気味……。アリアンの言う通り、私には向かないのかな」
「ディーナはまだ若いし、慣れもあるよ。汚いことも、非情な場面も慣れてくる」
「そう言うのに慣れるのも怖いし、悲しいの……。アリアンが私に騎士は向かないってそう言う所だって分かっているのに……」
「色々足掻いてみると良いさ。足掻いて駄目だったら“王太妃”の道もある」
ディーナの顔がみるみると赤く染まった。
「……やっぱり知ってたんだ」
「これでも王太子が幼い頃から接しているからね。両家や豪族の娘との縁談に、いつも乗り気ではないのを気になっていたんだ。もしかしたら、心に決めたお相手がいらっしゃるのかと思っていたら、私が貴女を助けた時に王太子が自ら寝ずに看病なさっているの見てね……そうなんだろうな、と」
「ソラヤの襲撃の時の……?」
トクン……と、胸を蕩かす熱い泉が湧いた気がした。
──あの時の、温かい手は……エリダーだったんだ──。
あの温もりを得た自分の手を、ディーナはもう片方の手で握り返した。
(じゃあ、あの囁きもエリダーだったのね)
私が熱と恐怖と、悲しみで沈んでいた昏睡の中で、エリダーは側にいてずっと……私を……。
「昨夜のは、やっぱりプロポーズだったんだ……」
ふっと、呟くように口を開く。
「違ったのか?」
「──“脅し”かなって……」
アリアンが堪らず、大爆笑をかました。
「楽しそうですね、支度は済みましたか?」
エリダーとノーツが声を掛けて来た。
エリダーと目が合った途端、思わずディーナは目を逸らしてしまった。
いつも通りに接する取っ掛かりが無くて、ディーナが困っているのがよく分かるエリダーは、気付かない振りをして話を進めた。
「山小屋の管理人から、伝書鳩の通達をもらいました。──城下町から流れる道々で不振な動きがあるようです」
「──何と?」
「暗い妖精が現れ始めて、色々と面倒を起こしている──と」
ノーツが話す。
「暗い妖精って何だ?」
カインが輪に入って来て尋ねた。
「ティンタンジェルは、妖精を大まかに二種類に分別している。── 一つは、明るい妖精。明るい方は比較的、良心や常識が我々と似ていて友好的な類」
「じゃあ、その各地で厄介事を起こしているのは今話した妖精等とは、逆の性質って事か」
超自然現象に慣れっこのカインは、すぐに内容を飲み込み理解した。
「どちらの類も、ここ十数年大人しかったのですが……。水棲牛のことと言い、何か妖精界に異変があったのでしょうか……?」
「──とにかく、暗い妖精に気を付けながら進むようにと伝達がありましたので。以上!」