22】 事実二つ
エリダーはソラヤ島が夜襲に合い、ノイ家の末裔のディーナ以外殺されたこと。
今、港全体が制圧され無条件降伏を飲んだ場合、王族制度廃止、妖精信仰排泄、生活、習慣など全てウィンダム国のものに変える事。
「現国王の父と話し合いました。“民が助かるなら王制廃止も処刑も辞さない”と」
──処刑!?
ディーナは驚いてエリダーの方を向いた。
「しかし早船と伝書鳩で送られてくる占拠された国の情報を読む限り、王家が全責任を負う問題では無いと考えました。制圧された小さな村々は焼き払われ、若い男達は強制的に軍の兵に徴収されます。働き手を失った村や町では老人や女達が“現代工具”と呼ばれている物を国から支給され、それを使って働くよう指示が出ているようですが碌々説明もしてもらえず、使い方も分からず例え動かせたとしても操作ができず怪我人が続出しているとか。
それに加え重税で根こそぎ持っていかれ、死者も出ているとのこと……。
民を愛せない国の統一者に、王の末裔としてもこの国を渡すわけにはいかないと決意した所存です」
エリダーは方膝を付き女王ドーンの敬意を表したまま話し、ディーナの視線には気付いていないようだった。
降伏の条件に王族の廃止、処刑が入っていたことも征服された国の現状もディーナには初めて聞かされた話だった。
『エリダー……どうして? どうして話してくれなかったの?』
──私が家族を殺されショックを受けていたから?
──それとも私に言っても、どうしようもないから?
ぐるぐると不信感と言う黒い闇が頭を巡る。
「……分かりました。私の助力が果たしてこの国を救えるかどうか不明ですが、ウィンダムの異教には心当たりがあり、気に病んでいた所です」
女王はフッと短い溜息を漏らすと、ゆっくりと一歩二歩と歩き出す。
女王の身体から奏でるように放つ微香が辺りを包んだ。
その優雅極まりない姿だが、表情は浮かない。
「……私には三人の息子がいるのは存じてますね?」
「はい。妖精王ハイネス様・名工ルー様・そしてハバス様……」
「ウィンダムが信仰しているデナム神……実は我が息子ハバスとしたら?」
「──何ですって?!」
一同、驚愕に顔を上げた。
「──ハバスは生まれ付き邪悪な魂を持っていました……。人間の世界だけではなく、妖精の世界でもその影響力は凄まじかった。
どんなに諌めても母の私の言葉を受け入れず、逆に地に落ち続け……。仕方なく長兄ハイネスと共に地下深い世界に閉じ込めておくしかなかった。
──しかし、何処からなのか誰かの助けなのか分かりません……何時の間にか地下から抜け出しておりました──しかも魂だけ」
「ハバス様のお身体は?」
「抜け殻のみ」
女王は短く言い切った。
「ウィンダムの黒船も存じています。……そこから、愛おしくも憎らしい我が子ハバスの気配を感じるのです」
「……では、我々の国を滅ぼそうとしているのは……」
「我が子、ハバスです」
「待ってくれ! 女王ドーン! 」
カインが堪らず声を出した。
「ウィンダムの最高指導者は教皇ドルイト! ドルイトは我が身に神が降臨して啓示を示すとほざいている!
──では! 教皇ドルイトにハバスがのり移っているとでも?! それとも、ドルイトの意識は無くハバスがのり移ってあんな侵略の仕方をしていると?!」
「……それは分かりません」
女王は首を振った。
「そこまで感じ取れません。それは、あなた方が会って確かめなさい」
「……」
カインは考え込むようにその場にへたり込んだ。
アリアンは一言も口を聞かず、目を瞑りじっと話を聞いていた。