21】 出現
夜
幸いに雲一つ無い夜空で、星が瞬いていた。
「これで満月だったら出そうだな」
カインの台詞に
「出なきゃ困る」
と、言ったのはノーツ。
「──では、やりますか」
「うん」
ディーナは頷くと、袋から大事そうにアルフォンスの髪束を取り出し、中央の大樹の根元に捧げた。
両膝を付き、手を合わせ、ひたすら女王ドーンを呼ぶ。
──もし、呼べなかったら?
──もし、願いを聞き入れて貰えなかったら?
──女王の助言が国を救えなかったら?
四六時中そんな不安が付きまとってた。
でも、それじゃあ駄目なんだ。
自分を信じて
女王の助けを信じて 心から──。
「女王ドーン様、貴女様の出現を、助言を、心から望みます」
その姿をディーナの後ろから見ていた四人も感化されたのか、祈る仕草を取り
「女王ドーン様、我々に力をお貸しください」
と呟く。
静かな夜半。
聞こえるのは虫の涼やかな声のみ──が、突然虫の声が止んだ。
「──来る!」
ディーナとカインが同時に叫んだ。
アルフォンスの髪が霧のように消え、大樹の根元から徐々に、淡い金色の光が枝先にゆっくり伸びて行く。
「──あっ……」
ディーナが驚きのあまり目を見開いたまま、後ろへ下がり拍子にエリダーにぶつかったが、エリダーが彼女を支える形で押さえた。
「これは……?!」
今まで人より多く異世界の者を見てきたカインも、これには驚愕して声を出せずにいた。
枝先まで伸びた金色の光は直ぐに幹に集まり、それは凝視出来ないほどに眩しい。
全員が目を凝らして懸命に見つめている中、光の中から出てきた背の高い女性……。
まるで朝露を集めてきたような、ゆったりとした白光りのドレスに、肩から腕まで素肌を出している部分は、地上から上る朝日の光そのままを織り込んだようなローブを身に着けている。
両手には石英を乗せた杖を。
妖精の特徴である薄緑の肌を持っているものの、整えられた肢体と顔立ちは女王としての気品と自信に満ち溢れていた。
「わたくしを呼んだのは誰です?」
穏やかで響きのある声でそこにいた者達に問う。
「私です。女王ドーン様」
我に返ったディーナが慌てて膝まつく。他四人も、恭しく膝まついた。
ドーンは、優雅にその肢体を揺らしながらディーナに近付いた。
「──ああ! 懐かしいこと! お前はノイ家の直系の者ですね? 少し前に呼び出された我が息子、ルーに聞きましたよ。私を呼んだと言うことは、ティンタンジェルを攻めてきている国からの救済ですか?」
「……はい! その国は世界の三分の一を侵略してきた大きな国なのです。軍事力、戦力、共々今のティンタンジェルでは敵いません! ……でも、でもその国に支配されたくありません! ──お願いです、ドーン様! 私達とこの国を救う手立てを教えて下さい!」
真っ直ぐ女王ドーンを見つめ訴えるディーナの瞳……。その瞳を瞬き一つしないでじっと見つめ返すドーン。
一瞬、ドーンは微笑むと今度はエリダーの方へ向きなおした。
「そなた、王家の末裔と見えます。ノイ家の願いは国の王としての願いでもあると相違ないか?」
「恐れながら女王、申し上げます。我が国を攻め滅ぼそうと企てている国の名は、ウィンダムと言う異宗教崇拝の国でございます」
「──ウィンダム……とな?!」
さっと、女王の顔色が変わる。
「ご存知でありましたか?」
「……続けなさい」
皆、慰ぶしがったが、こちらから聞いてはいけないような空気が流れ深くは問い詰められなかった。