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ティンタンジェル記  作者: 鳴澤うた
20/49

20】 昔話

「ディーナお嬢さんはお昼寝中かい?」

 代わりにカインが大あくびをしながら起き上がってきた。

 またシャトネラを樹から実をもぎ取り齧り始める。

 アリアンはちらりとカインを一瞥すると、そっぽを向いて視界に広がるシャトネラの群生を眺めた。

 そんなアリアンの後姿をじっとカインは眺めていたが、思い切ったようにアリアンの横に座った。

「俺、あんたに嫌われてるみたいね」

「……」

「あんた、元々この国の住人じゃないんだろ? 髪の色といい剣筋といい北西にあった民族の特徴によく似てんだ。──もしかして、そこの民族の生き残り?」

「北西の国なんぞ沢山あるだろ?」

「……まあ、聞けよ。ウィンダムのお偉いさんが若い頃、そこの国の娘に夢中になった。幸運にも恋は実り、両思いになり二人は結ばれた。

 やがて二人の間に娘が産まれた。しばらくは幸福な日々が続いた。

 ──しかし、母となった女は知らなかった。夫となった自分の伴侶が次々と他国の侵略を進め、自分の国まで征服し住んでいた村を焼き払っていたことに。そして、自分以外にも妻と子がいることにも。

 ……それを知った女は、夫の留守を狙って娘を連れて姿を消してしまった」

「不誠実な男の正体を見抜けなかった女の話かい?」

「案外、世間って狭いもんだなって話さ──さて、もう一眠りするかな。ノーツと王太子殿が帰ってきたら起こしてくれな、アリアンお姉様」

 そう、言うだけいってカインはアリアンから離れると、先程自分が寝ていた木陰に戻って行った。


 アリアンは微動だにせず、ただ、ずっとシャトネラの群生を眺めていた。

 中央の大樹では相変わらず子供達の楽しげな声と、女性らの高らかな笑い声が聞こえる。

 夕方には大樹に陣取っている者達も去り、ここは異界の者達の宴の場となるだろう。


 ──人間の世界の出来事に力を貸してくれるのだろうか──

 同じ世界で生きている者同士で戦い合っている、くだらない者達に。


 ──あの時と同じ不安が募る。

 父から逃げる為に母と一緒に船に乗り継ぎ、安住の地を探し続けていた頃を──


“……私達を受け入れてくれる国はあるの?”

 毎日、頭のどこかにあった不安と似ている。

“……もう、逃げる生活は嫌だ”

“安住の地を失うのも嫌!”

 ──だから騎士になった。


「守る……」


 この国を

 この国を救う為に動いているディーナを。


 「私の剣はその為の物……」

 鞘ごと腰に付けていた剣を抜く。

 今や母の形見となった剣は、昔と変わらず鋭い輝きを放ち存在を知らしめた。

 流浪の旅の頃は生きる為の剣。

 今は母と共に受け入れたくれた、この国を守る為の剣。

 この地で力尽きてしまった母だが、きっと私の志を見守ってくれている。

 「母上……どうかこの国の行く末をお祈り下さい……」


 アリアンは自分の剣に口付けをした。

 ──誰かを愛おしむように。





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