16】 スクライカー
──こんな大国に対抗できる力と知恵を女王ドーンは授けてくれるのだろうか?
ディーナだけではなく、エリダーもノーツもそしてアリアンも同じ思いなのだろう。
見合わした表情で分かる。
長い沈黙に苛立ったのか、カインが話しかけてきた。
「──なあ、あんたら何か探している様だが、もしかしてこの国を守る方法を探してんの?」
四人、一斉にカインを睨み付ける。
「当たり? だよな? 国の非常事態にこの国の王太子が、数人のお供だけで忙しく動き回ってたらそれしか考えられん。
──まさか当ても無く我武者羅じゃああるまい?」
カインの額にノーツの長剣の先があたる。
「こちらの事情を知って何とする? 何処かしらに潜んでいる者に知らせる気か?」
ノーツの磨かれた剣がカインの顔を映し出す。
映し出されたカインの表情は、至極真面目だ。
「今のティンタンジェルには、妖精信仰の無い者は忍び込めん。俺と一緒に何人か飛び込んだが『海の妖精さん』に捕まって海の底さ……」
カインは縛られた両手の指を人に例え、海に沈んで行く様を表現した。
「俺も人が見えないはずのものを色々見てきたが、あんなにはっきり見えたのは初めてだったぜ。人魚って言うんだろ? あれ? ティンタンジェルから輸入されてきた本で見たまんまだな……」
「カイン、今貴方は『妖精信仰の無い者はこの国に入れない』と言ったわね? その根拠は何?」
「意思だよ」
ディーナの疑問に、カインは即答する。
「──意思?」
「……心……精神って言った方がピタリとはまるか?」
カインが考え考え言葉を選ぶように話す。
「適当な言葉が見付からないんだが、海に飛び込んだ時にも、この国にこうやっている時も“誰かの強い意志”を感じるんだよな。
俺はただ、それを受け入れただけだ。受け入れてこの国に入って『妖精信仰を尊ぶ意志』なんかな〜と、感じたんだ。だからそう言った」
「──スクライカーか」
エリダーが呟く。
「スクライカー? この国の言葉かい?」
「この国だって、居る筈なのに見えない者達は存在しています。
それを察し、正体を感知し、その者の弱点や言葉を知ることのできる者の名称です」
「──ああ、南の俺の国では『シャーマン』と言うぜ」
「これは親から子へ受け継がれることの方が多いようです」
「俺の亡きお袋が『巫女』だよ。──あっ、巫女ってのはシャーマンの女の呼び名ね」
突然、ずっと黙って聞いていたアリアンが、まくし立てる様にカインに向けて喋り出した。
「……巫女が子供を産み育てるのか? ──通説によれば巫女は生涯独身だと聞き及んでいるが──」
「うるせぇ!!」
カインがアリアンに怒鳴った。
「お袋まで侮辱するのか!? お袋の事情を俺に聞くな! 第一、関係無いだろ!!」
「……」
気迫負けしたらしく、アリアンは黙って俯いてしまった。
「──話を戻しましょう。
カイン、君はこちらの事情を知ってどうするつもりなんですか?」
「これでも俺は、戦で各国を見て回っている。ここで言うストライカーの力も持っている。
──何か手助けできるんじゃないか?」
「……仲間になる、と言うことですか?」
「そう言うことさな」
「正気か……?」
これには、ノーツもアリアンもディーナも言葉が出なかった。