表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/180

岐阜県本巣市。コンビニのフランス栗のモンブランとペットボトルのお茶。

 九月に入ったとはいえまだまだ熱気と湿気が大気中に残っているその日の昼下がり、タスッタさんは周囲になにもない路上を歩いていた。

 周囲は農地ばかりであり、たまにぽつんぽつんと住宅やなにかの建物が点在しているような場所であり、実に見晴らしがいい。

 時間に余裕があるし、次の目的地までわずかに数キロと油断をしてタクシーを利用せず、徒歩での移動を選択したのが拙い判断だった。

 ここまで、周囲になにもないとは思わなかった。

 実はこういう場所は、日本では決して珍しい訳ではない。

 繁華街や住宅地を除くと、大半は似たような光景が広がっているはずなのだ。

 タスッタさんとて、そうしたあまり建物や人通りが少ない場所へいく機会がないわけでもないのだが、たまたま賑やかな場所ばかりにいく用事が続くと、こうしてなんの準備もなくなにもない場所を歩く羽目になる。

 判断ミスというよりも、完全にタスッタさん自身の見込み違いによる誤りだった。

 しかし、まさか飲み物の自販機さえないとは。

 タスッタさんはハンカチで額に浮いた汗を拭う。

 仕方がありませんね、もう少し歩いてみますか。


 さらに二十分ほど歩いたところで、ようやくコンビニが見えてくる。

 どこででも見かけることができる、全国にチェーン店を展開しているコンビニだった。

 さっそくタスッタさんはそのお店を目指す。


 コンビニの店内に入ったタスッタさんは、入り口の脇にイートインのコーナーがあることに気づいた。

 ここ最近、このイートインコーナーを設置しているコンビニが増えてきたような気がする。

 昼食をいただいてからまだいくらも経っていないから特に空腹というわけでもなかったが、なにか軽いものをあそこで食べるのもいいかな、と、タスッタさんはそう思った。

 現在、そのイートインコーナーには高校生らしい男女が数名、かなり大きな声で駄弁っている。

 それを横目に店内の奥に進んだタスッタさんは、まず冷たい飲み物を置いている売り場を目指して、そこで適当に選んだペットボトルのお茶を取り出し、続けて弁当や軽食が陳列されている棚にむかう。

 この暑い中、かなり歩いてきたから、少しは食べてもいいですよね。

 心の中で誰にともなくそんないい訳をしながら、タスッタさんの視線はケーキや和菓子の上を走査していく。

 こじんまりとしていて、値段もそこそこ。

 にもかかわらず、味は意外と本格的。

 実はタスッタさんは、コンビニが開発したお菓子とかが決して嫌いではない。

 頻繁に購入するほどには好きでもないのだが、今日のようになにかのきっかけでふと食べたくなるくらいには好きだった。

 さて、どれにしましょうか、と、タスッタさんは本格的に物色をしはじめる。

 ショートケーキ、エクレア、チーズケーキなど、相変わらず品揃えは豊富だった。

 ふと、タスッタさんの視線が止まる。

 フランス栗のモンブラン、ですか。

 まだまだ残暑が厳しいとはいえ、暦の上では秋ですしね。

 タスッタさんは軽い気持ちでそう決断し、フランス栗のモンブランを手にとってレジへと進んだ。


 会計を済ませてイートインコーナーに移動すると、先ほどまで席を占有していた高校生たちは談笑しながら店を出ていくところだった。

 彼らと入れ違いにイートインコーナーの隅に座ったタスッタさんは、白いポリ袋の中からまずお茶のペットボトルを取り出して一口飲み、それからフランス栗のモンプランを取り出して包装を取り去り、ビニールの包装材をポリ袋の中に入れる。

 それから栗のモンブランを被さっていた透明な容器を取り去ってやはりポリ袋の中に入れ、プラスチック製の小さなフォークをビニール袋から取り出した。

 ここでまた一口、ペットボトルのお茶を飲む。

 よく冷えていたこともあって、いつもよりもおいしく感じられた。

 プラスチックのフォークを手にして、フランス栗のモンブランを切り分ける。

 スポンジの上に紐状になった栗のペーストが折り重なった状態で乗っていたわけだが、そのペーストに対してまずは直角の方向にフォークを入れて切れ目を作り、さらに細かく切り分けていく。

 そのあと、フォークについたペーストを舐めて味を確かめ、

「あ、意外と深い味」

 などと思ってしまう。

 甘みは意外に控え目であり、材料がいいのか加工法の問題なのか、栗の味とそれに香りが、かなり濃厚だった。

 これは期待できますね、とか思いながらまた一口、お茶を飲んで口の中を濯ぎ、切り分けたフランス栗のモンブランの一片に刺して口の中へと運ぶ。

 そしてすぐに、

「あれ?」

 と思った。

 味と食感が、重層的というか。

 もちもとした部分と柔らかい部分、栗のペーストも、表面に乗った柔らかい部分と、少ししっかりとした硬めの部分がある。

 ふんわりと柔らかいのは、おそらくスポンジの部分だろう。

 それと、ホイップクリームの部分。

 もちもちとした食感の部分は、この白い層だろうか。

 フランス栗のモンブランの切れ目を見ながら、タスッタさんはそんな推測をする。

 見た目は地味というかシンプルだったのに、中身はなかり工夫されているようだった。

 肝心の味の方も、全般に甘さ控えめでありながら、ふんだんに使用されているペーストから栗の風味がたっぷりと味わえる。

 これ、かなり本格的なんじゃないでしょうか、とか、タスッタさんは思った。

 かなり研究した、その結果のような。

 全国にチェーン展開しているようなコンビニだと、商品開発の現場もかなり厳しいんだろうなあ。


 とにかく、かなり本格的に思えるわりにはあまり重たくなく、タスッタさんは手を止めることなくフランス栗のモンブランを完食した。

 イートインコーナーを立ってお店の外に出て、入り口の脇に置いてあるゴミ箱にペットボトルやポリ袋を入れてから、タスッタさんはまた、元来た道へと戻って歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ