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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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神奈川県三浦市。海鮮料理店の特選マグロ漬け丼。

 バスから降りたタスッタさんは、

「ここ三崎はマグロの水揚げが盛んな港町であるそうだし、せっかく来たのだからマグロを堪能していきたいかな」

 とか思いつつロータリーの周辺を見渡す。

 まだ朝ということもあり人通りは少なく、しかしある場所に行列ができている。

 なにかな?

 とか思ってよく観察してみると、その魚屋さんらしきお店の二階が飲食店になっており、そのお店の開店を待つ人々が作っている行列らしかった。

 なるほどなるほど、と、タスッタさんは思う。

 こういう場所で、しかも魚屋さんが直営しているお店ならばまず間違いはないだろう。

 そう判断して、タスッタさんは素直にその列の最後に加わった。

 列といってもごく短いものであり、おそらくお店が開けば一気に中に入れるだろうと、そう判断したからでもあったが。


 タスッタさんの予想通り、お店が開くと行列は一気に解消され、お客さんたちは全員お店の中に入ることができた。

 タスッタさん自身も入店して、そのままカウンター席に案内される。

 カウンター席もだが、店内全般が外から見たときよりもかなり広く感じられた。

 カウンター部分は若干影に入っているが、窓が大きめであるために店内は明るい。

 そして店員さんたちが一気に入ってきたお客さんたちの注文を次々と受け、慣れた様子で遅滞なく捌いていく。

 さりげなく店内の様子を観察していたタスッタさんは、さて自分もなにかしら注文をしなくてはと思い、カウンターに置かれているメニューを手にとった。

 マグロを食べることに決めていたのだが、そのマグロにしても刺身定食からマグロカツなど、何種類もの料理があり、さらにシラス料理などにも目移りしてしまう。

 とにかく、港町の海鮮料理店らしく、どれもうまそうに思えた。


 さて、どれにしましょうか。

 と、タスッタさんはいよいよ本格的にメニューと格闘していく。

 マグロカツというのにの惹かれるところはあるんですけどね。

 うん、ここはやはり王道というか奇を衒わないところで、漬け丼にしましょうか。

 メニューに載っていた特選マグロの漬け丼という料理の写真、その内容がどんぶりの表面を覆い尽くすほどに敷き詰められたお刺身の上、その中央に、若干色の薄いピンク色のお刺身がこんもりと山の形に盛られていて、かなりおいしそうだったからである。

 その名も、「特選マグロ漬け丼」というらしい。


 その特選マグロ漬け丼を注文して、出されたお茶を啜っていると、すぐに注文したものが出てきた。

 店員さんも手慣れたものなのだろう。

 流石に素早い。

 メインはメニューに載っていた写真の通りのどんんぶりだが、それ以外にも、梅柴漬けとマグロのものらしい角煮の小鉢、それに味噌汁が同じトレーに乗ってタスッタさんの目の前に出される。

 正直なところ、どれもかなりおいしそうだった。

 タスッタさんは早速箸をとって味噌汁の入った椀を持ち、口をつける。

 そうしようとした瞬間、ふらりと漂ってくる磯の香り。

 なんの香りなんでしょうね、これは。

 とか思いつつ、タスッタさんは味噌汁を一口啜る。

 うん、やはりこれは、味噌汁の具は、海藻の一種であるらしい。

 それらしい風味であることはわかるのだが、具体的にどんな名前の海藻なのかは、タスッタさんには判別できなかった。

 とにかく、かなり深い味わいであることは確かだ。

 それからタスッタさんはどんぶりに箸を伸ばし、その上に乗っている赤身のお刺身を一切れ摘まんで口の中に運ぶ。

 ご飯を覆い隠すようにしてその赤身が引き詰められていたので、とりあえず何切れかは先にも食べておかないとご飯を口にできないからだ。

 赤身だけあって脂肪分は少なめのようだったが、口の中に入れた途端に、

「あ、おいしい」

 と思ってしまう。

 なんといっても、これまで食べてきたお刺身とは歯ごたえ舌触りからして、違っている。

 噛むと歯を押し返す弾力が強く、ねっとりともっちりの中間くらいの、なんとも微妙な感触がした。

 本当に新鮮なマグロとは、こういう食べ物だったのか。

 タスッタさんは素直に関心をしてしまった。

 漬けタレは結構濃いめで、これがまた酢飯によく合う。

 その酢飯を一口賞味してから、タスッタさんは中央部分に山盛りになったピンク色のお刺身に箸を伸ばした。

 こちらは赤身のお刺身よりはずっと脂が乗っていて、また別の味わいがある。

 いや、一般的なマグロの味として連想するのは、こちらのピンク色のお刺身の方なのではないか。

 濃厚で、どっしりと存在感のある味だった。

 ああ、これはご飯が足りないかな、とか思いつつ、タスッタさんは箸を使い続ける。

 次は角煮に箸を伸ばし、やはりそれがマグロ肉の角煮であったことを確認した。

 いい具合に煮汁の味が染み込んでいて、これもまた絶品。

 マグロといえばほとんどお刺身でしかいただいたことがないお魚だったが、こう調理してもおいしかったのか。

 そう、蒙を拓かれた気分だった。

 この分だと、気になっていたマグロカツというのも、かなりおいしいのだろうな、とか思い、すぐにその邪念を脳裏からふりはらう。

 箸休めにときおり梅柴漬けをいただきながら、タスッタさんは休むことなく食べ続ける。

 ピンク色のお刺身が三枚、赤身のお刺身が八枚くらい。

 しかし、それぞれが厚めでかなり大きいので、かなりの食い手がある。

 というかやはり、これではご飯の方が足りませんでしたね。

 と、タスッタさんは思った。


 磯の香りがする味噌汁を含めてすべての料理を完食、堪能し尽くしたタスッタさんは、満ち足りた心持ちでお茶を啜った。

 いいお食事でした。

 と、本心からそう思う。

 そして、

「次にここに来る機会があったら、今度こそマグロカツとシラスを頼もう」

 と、密かにそんなことを誓った。



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