大阪府大坂市。立ち飲み屋の串揚げ各種とビール。
タスッタさんは渇いていた。
今日だけで普段の倍以上、汗をかいている気がする。
それくらい、暑い。
まだ七月はじめで梅雨もろくに明けていないというのに、ここのところ連日三十度を超える猛暑日が続いていた。
とにかく、タスッタさんの体は水分と休息を求めている。
その水分と休息を求めているタスッタさんは今、JR大阪駅から梅田駅へと急いでいるところだった。
このあたりはいわゆる飲屋街であり、徒歩で一分もかからない短い道筋にずらりと立ち飲み屋が軒を並べている。
入っちゃいましょうか。
一瞬の躊躇の末、タスッタさんは衝動に従ってフラフラと脇にそれて、並んだ暖簾のうちのひとつを潜る。
このときのタスッタさんは、ただただ冷たいビールを飲みたかった。
タスッタさんが入ったのは、コの字型のカウンターがお店の中央に設置された串揚げ屋さんだった。
カウンターといっても詰めて十五人も入ればいい方というこじんまりとしたお店で、そのカウンターもすでにかなりの埋まってしまっている。
わずかな隙間に体を割り込ませるようにして、タスッタさんは開口一番に中生を注文した。
それから周囲をざっと見渡してここお店のメニューらしきものを求めて、カウンターに置いてあるプレートを求めてすぐに見つける。
このお店が扱っている品数はさほど多くはなく、タスッタさんはすぐに豚と牛の串揚げを続けて注文した。
メニューのプレートに、「注文は二串から」といった但し書きがあったからだ。
まずジョッキのビールがタスッタさんの前におかれ、喉を鳴らしてそれを飲んでいる間に串焼きが出てくる。
出てくるのが早いなあ、とか思いつつ、タスッタさんは早速出てきた串をソースの壺につけて、慎重にソースの雫が収まるのを待ってから口に運ぶ。
熱い。
そして、うまい。
まずは、牛だった。
揚げたてのサクサクで、味よりもまず熱さが来る。
冷たいビールを流し込んで口の中を冷やし、串に残っていた牛カツを今度はゆっくりと味わってみた。
揚げたてのせいか、あまりしつこくはなくカラッと揚がっている。
予想以上に軽くて、でもしっかりと衣の中には牛肉特有の旨味がしっかりと閉じ込められていて、噛むたびに肉汁がじわりと口の中に広がる。
こういうお店だから店内は全般に空気にさえも食用油の匂いが染みついているのだが、そんな庶民的な雰囲気には似つかわしくない、上品な味わいだった。
このお店は、あたりなのかも知れない。
タスッタさんは、そう思いはじめていた。
ふらりと寄ったお店で思いがけずおいしい料理を出されると、とても嬉しくなる。
またぐびりとジョッキを傾けて、タスッタさんは冷めないうちにと今度は豚の方の串揚げを手に取った。
例によって慎重にソースの壺につけて、口元へと運ぶ。
うん、とんかつの味。
タスッタさんにとっても、お馴染みの味であるといってもいい。
こちらも、おいしい。
ここでジョッキが空になったので、タスッタさんは即座に同じ中生を注文する。
暑いときには、ビール。
揚げ物に合うのも、ビール。
ここではビールを注文するのが、正しい。
そうこうするうちに最初に注文をした豚と牛を完食してしまったので、タスッタさんは少し検討をしてから、今度はタマネギとエビを注文する。
タマネギもエビもじんわりと甘く、ソースをつけて食べるとビールが進む。
タスッタさんが黙々と飲食をする間にも、お客さんがぼちぼち出入りをして入れ替わっている。
もともと長居をするお店でもないんだろうな、とか、タスッタさんは思う。
なにしろ、立ち飲み屋だ。
そんな店内であるから、それなりに騒がしい。
タスッタさんにしてみればテレビなどのメディアでしかほとんど触れる機会がないイントネーションの言葉で、老若男女が会話を交わしている。
客層は意外に広く、店内は様々なお客さんで混雑していた。
その中に参加するつもりがないタスッタさんにしてみれば、BGMでしかないわけだが。
でもこの雰囲気は、いいですね。
などと、ぼちぼちほろ酔いになってきたタスッタさんは思う。
さて次は、なにを頼みましょうかね、とか思いつつタスッタさんはメニューが書かれたプレートを睨む。
ん。
アスパラと、若鶏いきましょう。
他のお客さん注文しているのを見て、おいしそうだと思ったのだ。
それと、中生のおかわり。
これで、ここは〆ることにしましょう。
しばらくして出てきたのは、もはや串に刺さっていない、しかし揚げ物ではある若鶏とアスパラだった。
アスパラはそのまま、若鶏は、おそらくは腿の部分の骨を残した状態で肉だけを丸い、球状に加工した状態で揚げている。
まずはその若鶏の骨を指で摘まんで、ソースに浸してから食べてみる。
唐揚げでお馴染みの味であるともいえたが、揚げたてであることとそれに肉質が柔らかいのとで、かなりおいしく感じられた。
なにより、これもビールに合う。
今日のタスッタさんはなによりもまず渇きを潤すために、ビールを飲むためにこのお店に入ったので、このことは重要だった。
タスッタさんは若鶏を完食して今度はアスパラに手をかける。
これも、そこだけは油につけていない茎の末端指で摘まんでもう一方の先の方から食べていく。
サクサクとした食感と歯ごたえが、なんかいい。
揚げたアスパラガスというのもタスッタさんは今回初めていただいたのだが、こういう調理法もいいなと、素直に関心をした。
十分に火が通っていながら歯ごたえは失っていない、絶妙な揚げ具合だった。
その揚げアスパラガス食べながら、タスッタさんはジョッキに残っていたビールを煽る。
料金を精算して貰いながら、今日はもう宿に戻ってしまおう、とか、タスッタさんは考えていた。
明日の予定がきつくなってしまうわけだが、それはそれ。
今は早くシャワーを浴びて、この汗でべとついた肌をさっぱりしたい気分だった。




