千葉県船橋市。コンビニプライベートブランドの鶏つみれの生姜スープ、豆さばの南蛮漬け、ハンバーグステーキ。フランスパンと缶ビール。
タスッタさんは珍しく疲れていた。
連日強行軍の上、終電に近い便でようやく自宅のマンションに最寄りの駅で降り、帰宅をしているところである 。
基本、タスッタさんは比較的余裕がある、のんびりとした行程を組むように心掛けているのだが、諸般の事情により、年に数回はこうして短期間のうちに数カ所を回らなければいけないときがあり、このときがちょうどその時期に当たっていた。
お腹が空きましたねえ。
とぼとぼと歩きながら、タスッタさんはそんなことを思う。
なにしろ深夜であるから、人通りもほとんどない。
終夜営業のチェーン店やファミレスでもあればそこに入っているのだが、こんな住宅街の中にはその手のお店もなかった。
仕方がないか。
と、タスッタさんは決意する。
コンビニにでも入ってなにか適当に見繕って、マンションに帰ってからそれを食べることにしよう。
なにしろここ数日留守にしていたものだから、冷蔵庫の中にはほとんど食べ物がないはずなのだ。
自宅として借りているマンションに帰ってから、タスッタさんは荷物の整理もせずにすぐに服を脱ぎ捨ててユニットバスに入り、手早くシャワーを浴びる。
なにかと空気がじめついている時期でもあり、外出先から帰ってきたときは汗を流さないと落ち着かないのだった。
シャワーを浴びたあと、新しい下着とTシャツを身につけてタスッタさんはコンビニの袋から購入してきたばかりの冷凍食品を取り出し、そのうちのひとつであるハンバーグステーキを電子レンジの中にいれて加熱し、鶏つみれの生姜スープを鍋にあけて温めはじめた。
小鉢とお皿、深皿を取り出し、そのうちの小鉢に豆さばの南蛮漬けをあけ、その頃にはハンバーグステーキの加熱が終わっているので電子レンジから取り出してパッケージの中身をお皿に盛る。
豆さばの南蛮漬けも鍋から深皿にあけて、小鉢やお皿になどをすべてテーブルの上に移動させた。
それから冷蔵庫の中からよく冷えた買い置きの缶ビールを取り出し、グラスといっしょにテーブルの上に置く。
最後にコンビニのフクロからフランスパンのバケットを出して、キッチンにあったオリーブオイルと、それにブレッドナイフを持ってタスッタさんはテーブルについた。
このうち、鶏つみれの生姜スープ、豆さばの南蛮漬け、ハンバーグステーキの三品がコンビニプライベートブランドの冷凍食品であり、フランスパンのバケットも同じくコンビニで調達してきたものだった。
テーブルについたタスッタさんはまずフランスパンのバケットを手に取り、ブレッドナイフで輪切りにしてからその上にオリーブオイルを垂らして含ませる。
缶ビールを開けてから、適度に泡が立つように注意深くグラスに注いで、それをぐっと傾けて一息に飲み干す。
うん、やはりビールは最初の一口、そののどごしですね。
などと思いながら、タスッタさんはスライスしたフランスパンを齧り、さらにグラスにビールを注ぐ。
このフランスパンも、オリーブオイルを含ませるとパサパサした感覚がなくなって、ずっとおいしく感じる。
それに、ビールに合う。
ワインにも合う。
ワインは、あいにくと買い置きがなかったが。
タスッタさんはさらにビールを一口啜って、今度は鶏つみれの生姜スープの深皿に箸をのばした。
つみれをひとつ口の中に放り込むが、うん、なんというかこれは普通。
なんの変哲もない鶏肉の団子であり、それ以上でも以下でもない。
それか深皿を手で掴んで、直接お皿に口をつけてスープを啜ってみた。
行儀が悪いし、外では絶対にこんな真似はしないのだが、今この場にはタスッタさんひとりしかいない。
生姜の香りが口の中いっぱいに広がり、なんだか幸せな気分になる。
暖かいスープが口の中を経由してお腹に入っていく感触は、とてもいいものだ、と、タスッタさんは思った。
タスッタさんはまたグラスに口をつけ、そこで中身がなくなってしまったので一度席を立って冷蔵庫まで新しい缶ビールを取りにいく。
グラスにビールを注ぎ直してから、今度は豆さばの南蛮漬けに箸を伸ばした。
うん。
ちょうどいい漬かり具合で、酸味と甘味の強い味が、おつまみとして丁度いい。
コンビニのチルド商品も、これでなかなか馬鹿にしたものではありませんね。
と、タスッタさんはそんなことを思う。
価格が価格だから一品あたりの量こそ少なめであるもの、味の方は結構本格的であったり。
今日のように食事の支度をするのが面倒なとき、それに手早くなにか口に入れたいときになどは重宝をする。
などということを思いつつ、タスッタさんはスライスしたフランスパンにオリーブオイルを垂らし、その上に豆さばの南蛮漬けを置いてから齧り、咀嚼をしてからグラスを煽った。
うん。
やはり合うじゃないですか、これ。
南蛮漬け。
一度揚げた素材を、甘酢に漬けたもの。
小魚を油で揚げて、お酢が染みて、輪切りにされた唐辛子がいいアクセントになっている。
ご飯にも合うけど、パンにもビールにも合う。
おそらく、ワインにも。
ここにはワインはないけど。
さて、冷めないうちに。
タスッタさんはハンバーグステーキに箸をのばす。
箸で切り分けて、一片を摘まんで口の中に入れる。
デミグラソース、よくあるレトルトの味。
でも、おいしい。
充分に、おいしい。
しっかりとした肉の風味、脂と歯ごたえと、ソースと。
うん。
ハンバーグ。
特別においしすぎはしないけど、ごく普通においしい。
そんな、ごく普通のハンバーグ。
その普通のハンバーグをまた一片箸で切り取り、スライスしたフランスパンの上に乗せて食べる。
そしてまたビールを一口。
さらには、フランスパンでお皿に残っていたデミグラソースを拭って、これも食べる。
うん。
いいですね、この感じ。
あとはもう寝るだけだというのに、気づけばかなりがっつりと飲食していたわけだが、その罪悪感も含めてタスッタさんはいい気分になっていた。
ただ単に酔いが回ってきているだけなのかも知れないが。
いずれにせよ、夜中の一人きりの宴席はもうしばらく続く。




