東京都千代田区。うに料理専門店の白クリームうにオムライス。
それなりに旅慣れているタスッタさんにしてみれば、東京駅というのはそれなりに馴染みのある場所ということになる。
これまでたいていは乗り換えで降りるだけであったが、この日は珍しく時間が空いて、半端な時間だが駅の周辺で食事をしておこうということになった。
大きな駅であることからもわかるように、たとえば八重洲口周辺だけでも結構な数の飲食店が軒を連ねており、そのキッチンストリートの中にもいくつかは気になっていたお店はあるのだが、今までは実際に入る機会に恵まれなかったのだ。
そうした「気になるお店」は何件かあったのだが、しばらく周辺を歩いた結果、タスッタさんはその中の一軒を選んで中に入る。
こういう場所ということもあり、店内はあまり広くはない。
店内は明るく清潔で、レストランというよりはカフェ寄りの内装だった。
この周辺で以前から気になっていたお店のひとつで、しかしこれまで前を通りかかった時刻がたまたま食事時であり、満席で中にはいれなかった、という経緯があるお店であった。
中に入り、店員さんに促されてカウンター席に座ったタスッタさんは、早速メニューを開いてみる。
なんだか目移りするなあ、とタスッタさんは思う。
なにせここはうに料理の専門店、メニューの中の文字列もうにうにうにのオンパレード、まともに見ているとうにという概念がゲシュタルト崩壊でもするんじゃないかという気分になってくる。
うにと帆立の和風カルパッチョ、うにたこわさ、うに塩枝豆とか続いていると、本当に、
「うに、何者?」
いう気分になってくるし、帆立と海老のアヒージョあたりはまだしも納得できるものの、うにと和牛のたたきにいたっては、
「なぜその二つを組み合わせてしまうのか!」
とさえ、思ってしまう。
いや、実際に試してみると、おいしいのかも知れませんけど。
ともあれ、今回はお酒のおともにしたくなる一品料理ではなく、食事になるお料理ですね。
タスッタさんはそう思い直してメニューを見直す。
時刻は午後三時過ぎという、食事を取るにしてはかなり半端な時間。
そのおかげですんなりお店に入ることができた、ということもある。
ごはんになりそうなものだけでも、定食、パスタ、オムライスなど種類がかなり豊富だった。
というか、うにを使ったお料理、こんなにあるんですね。
タスッタさんはそんなことを思う。
うにといえばお寿司の軍艦巻きと、それにご飯の上に乗せて食べるくらいしか経験がないタスッタさんだった。
定食やパスタもおいしそうですが、ここは。
タスッタさんはおそらく、ここ以外では食べられないであろう料理を選択して、店員さんに注文を通す。
うにを使ったオムライスというのは、ちょっとどんな仕上がりになるのかわからない。
オムライスにはトマトソースとホワイトクリームソースの二種類があったが、トマトだとうにの風味とバッティングしてしまいそうに思えたので、タスッタさんはホワイトクリームソースを選んだ。
注文した料理が来るまで、十分とかからなかった。
白クリームうにオムライス。
見た目は、普通のオムライスにホワイトソースがかかっている風だった。
早速タスッタさんはお冷やを一口飲んでからスプーン手に取り、一口いただいてみる。
口に入れた途端、ふわっとうにっぽい香りが口の中に広がった気がした。
ええと、と、タスッタさんは口の中のものを分析しはじめる。
まず、ホワイトクリームソース。
これに、うにが入っている。
こってりしたソースと濃い味のうにが、意外に合う。
次に、柔らかいオムレツ。
これからも、しっかりとうにの香りと味を感じる。
最後に、ご飯。
これにも、うにが入っている。
ソースとうに、玉子とうに、ご飯とうにの三組の組み合わせが、口の中でひとつになって、なんというかもうどうしようもないうにうに感に達するわけで。
しかも、味が単調ではないからまったく飽きが来ないという。
これは、予想したよりもずっと濃い、うにのお料理ですね。
と、タスッタさんは食べながら感心する。
流石はうに料理の専門店、というべきか。
うにの塩味が、ホワイトクリームソースや玉子、ご飯などの甘味をよく引き立てて、ちょうどいい具合になっている。
そして、おいしいのは当然として、なんといっても濃厚。
食材としてのうにに性質を知り尽くしたお店ならではの料理だな、と、タスッタさんは関心をする。
ホワイトクリームソースとも、うに。
とろとろのオムレツも、うに。
ご飯も、うに。
どこまで食べても、うに。
たったひとつのお皿の上のうに尽くし。
手も止めずに食べ続けながら、タスッタさんは、
「なんだか、とっても贅沢な気分になってきますね」
とか思っている。
うにそれなりに値が張る食材であることもあるが、それ以上にこの料理の中にあるそれぞれの食材の持ち味が引き出しあい、重層的においしさの底を引きあげている、ように、タスッタさんには思えた。
一皿の中の、うに尽くし。
うん。
これは、見事なんじゃないでしょうか。
特に食べ急いだつもりもないのだが、タスッタさんは手を止めなかったおかげでかなりの短時間で料理を完食してしまう。
カロリー高めの食材ばかりを使った料理でもあったので、満腹感もひとしおであり、それ以上に満足感が高かった。
いやあ、おいしかったですねえ。
お冷やで口を濯ぎながら、タスッタさんはそんなことを思う。
うにに、こんないろいろな表情があるとは。
そして、それがたったひとつの料理の中で味わえるとは。
これは、かなり贅沢なお料理なんじゃないでしょうか。
次に来る機会があったら、トマトソースの方も試してみましょうか、とか、タスッタさんは思いはじめている。




