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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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東京都千代田区。和菓子カフェのアールグレイ饅頭と抹茶。

 タスッタさんは今、東京駅の駅舎をそのまま利用したホテル内にある、和菓子カフェに入っていた。


 遠出をすることが多いタスッタさんにとって、東京駅はそれなりにお馴染みの駅ではある。

 だが、乗り換えに利用するだけのことがほとんであり、駅構内の売店などを利用することはあっても、駅の外に出てみるという機会がこれまでなかった。

 しかし今日は、雲ひとつない晴天ですっかり春めいた日和であることもあり、気まぐれを起こして少し周囲を散策してみようか、という気分になったわけである。

 朝のまだ早い時間に到着し、あとは船橋市内にあるマンションへと帰るだけで、時間だけはたっぷりとある、という事情もあった。

 丸の内口の改札を出て皇居のお堀あたりまで散策をし、基本的にこの辺はビルばかりが林立するだけのオフィス街であることを確認してからまた駅の方へと戻る。

 そしてふと気づくと、周囲の建物とはまた違った趣きを持つ建物の存在に気づいた。

 他ならぬ、東京駅そのものである。

 何度かの改修工事を経た上で、東京駅は今もその特徴的な外観を維持していた。

「駅舎そのものが、文化財なのかも知れませんね」

 遠目に駅舎の外観を確認して、タスッタさんはひとりでそんな風に頷く。


 その駅舎は駅として以外にも、ギャラリーとかホテルとして利用されている。

 タスッタさんはそのうち、ホテルの中に入ってみた。

 ホテルの中には、飲食店やお土産屋さんなどが何軒かテナントとして入っていて、宿泊客以外にも出入りをする人が大勢いる様子だ。

 タスッタさんもそのお客さんたちに紛れて、ホテルの中の様子を見物する。

 まだ午前十時を少し過ぎたくらいなので、本格的な料理屋に入るつもりはなかったのだが、

「お茶くらいはいいかな?」

 とか、タスッタさんはそんなことを思いはじめた。

 タスッタさんでさえ名を知っている、羊羹が有名な老舗の和菓子屋さんが、このホテルの中でカフェを開いているのに気づいたからだ。


「ここからだと、改札口が丸ごと見えるんですね」

 二階にある和菓子カフェの席に座ったタスッタさんは、そこから臨める光景を確認した。

 それから、メニューを開いて確認をする。

 まだ時間が早いこともあり、ゆるい円弧形状をしている店内の席は、三分の一ほどしか埋まっていない。

 耳触りのいいジャズの音が、気に障らない程度の音量で流れている。

 落ち着いた内装ということもあり、実にシックな、大人向けの雰囲気だった。

 流石は老舗の和菓子屋さん、などと、タスッタさんは訳のわからない納得の仕方をする。

 ホテル内にある店舗だから、値段設定の方もお高いのかな、とか思っていたら、意外にそうでもなかった。

 飲み物関係が六百円くらいから、だから、高いといえば高いのだが、純喫茶とかでそれくらいの値段設定をするお店はそれなりに存在するわけで。

 それに、お菓子や軽食類も、高価に思えるものからお手頃価格のものまで、かなり種類が多い。

 メニューで判断をする限り、極端に高かったり安かったりするわけでもなく、かなり順当な値段設定であるように思えた。

 それはともかく。

「せっかくこういうお店なのですか」

 なにか和風の、できれば和菓子をいきたいですね、と、タスッタさんは思う。

 そんなタスッタさんの目に止まったのは。

「アールグレイ饅頭?」

 という文字だった。

 この和菓子屋さんのパリ支店が独自に開発したお菓子で、日本ではここでしか販売をしていないと、メニューには書いてある。

「パリで和菓子のお店なんて出して、売れるんでしょうかね?」

 などと思って首を捻りながら、タスッタさんはまずそのアールグレイ饅頭を頼むことにした。

 お菓子はそれでいいとして。

「あとは、飲み物ですか」

 これも、メニューをざっと眺めた末、

「やはり、和風のお菓子にはこれですよね」

 と、抹茶を頼むことに決める。


 店員さんに注文をしてからいくらも待たずに、お盆に乗ったアールグレイ饅頭と抹茶が運ばれてきた。

 タスッタさんはまず抹茶の椀を持ちあげて、一口、ゆっくり喫してみる。

 よく泡だてられ、気泡をたっぷりと含んでいるせいか、抹茶特有の苦味や渋みをあまり感じない。

 飲みくだしたあと、ふんわりとした感触と、それにお茶の香りがほのかに口の中に残る。

 あっさりとした、上品な印象だった。

 うむ。

 と、タスッタさんは心の中で頷く。

 こういうお茶も、ありなのですか。

 お茶ひとつ取っても、なかなか奥が深い。

 そんなことを思いながら、タスッタさんは次にアールグレイ饅頭の方に手を伸ばした。

 まずはついてきた楊枝で小さく切り分けようとするのだが、意外に弾力が強く楊枝が弾かれてしまい、うまく切り分けることができない。

 むむ。

 とか思いながら、少し格闘をした結果、結局タスッタさんは手を伸ばし、そのままアールグレーイ饅頭を手掴みでいただくすることにする。

 さほど大きな饅頭でもなく、別にこれくらい無作法というわけでもないだろう。

 だからといって丸ごとひとのみにするわけもなく、まずは一口齧って咀嚼してみる。

 しっかりとした感触の生地に、かなり滑らかな餡が包まれている。

 アールグレイの香りは、正直、あまり感じなかったが、お饅頭としてはかなりの上物なのではないか。

 特に餡の滑らかさが、タスッタさんがこれまでに食べてきた和菓子のものとは、まるで違う。

 味の方は、正直、これまでに体験してきた餡子とどこが違うのか、判別がつきがたかったのだが、食べた感触としては、やはり上品なのだ。

 流石は老舗。

 その海外支店。

 などと、タスッタさんは、よくわからない関心の仕方をする。


 一口目をのみ込んだあと、タスッタさんは抹茶を一口いただいて、気持ちを落ち着かせた。

 饅頭も抹茶も、どこに特徴があるというわけでもないのだが、実に落ち着く味と香りだった。

 このお店自体が、かなり落ち着いた雰囲気ですしね。

 場所柄か、それとも客層ゆえか、そこそこ人が入っているのにも関わらず、店内は静かだった。

 どこかから聞こえてくるジャズの音が、その静けさを一層強調しているようにも思える。

 特に年配のお客さんが多い、というわけでもないんですけれどね。

 とか、タスッタさんはそんなことを思う。

 静かな空間でいただく抹茶と、そしてパリで改造されて来た、でも結局のところ饅頭でしかないアールグレイ饅頭。

 不思議な空間と、組み合わせだ。

 とか、タスッタさんは思った。


 アールグレイ饅頭と抹茶をいただきながら、

「帰りに羊羹でも買って帰りましょうかね」

 などと、タスッタさんはそんなことをぼんやりと考える。



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