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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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東京都台東区。老舗バーでの昼飲み。

 そこは浅草、馬車通りと雷門通り、江戸通りの三つの街道が交差するその角地にあり、馬車通りを挟んで向かい側に東武鉄道の駅ビルがある。

 少し東側にいけば隅田川が流れているその同じ場所で、明治十三年から続けてバーを営んでいるお店であるという。

 その存在を以前から知ってはいたが、タスッタさんが実際に足を運ぶのはこれがはじめてのことになる。


 朝から日が差さずに薄暗いその日、タスッタさんは一時過ぎにそのお店に着いた。

 お店に入ってみると、平日の昼間だというのに、入り口の前に人が並んでいる。

 と、思ったら、それは、入り口のレジで食券を購入しているお客さんたちが列を作っているだけであった。

 様子を見てみると、どうやらこのお店は完全前金制で食券を買ってから席につくシステムであるらしい。

 チェーン店や定食屋ならばともかく、お酒を飲むお店でこういう食券を使うのは珍しいのではないでしょうか?

 内心で小さく首を傾げながらも、タスッタさんはおとなしくその列に並んだ。


 すぐにタスッタさんの順番になり、とりあえずタスッタさんは煮込みと海老マカロニグラタン、それに小生ビールの三品を注文する。

 食券を受け取って適当に空いている席に座り、テーブルの上に食券を置く。

 さりげなく周囲を見渡すと、平日の昼間だというにお客さんたちの入りは上々で、特に中高年の男性客が多いようだ。

 若いお客さんや女性客もそれなりにいるようだが、割合からみると少なめで、年を取った男性ほど一人で新聞などを片手に、黙々と飲食をおこなっている。

 ふむ。

 と、タスッタさんは思う。

 昼間ということもあって、酒場にありがちな浮ついた雰囲気があまりなく、落ち着いたお店なのですね。


 そんなことを思っているうちに、店員さんがジョッキに入ったビールと煮込みの鉢をタスッタさんの前に置いて、食券を半分に千切っていく。

 どうやら、注文が済んだ品の分はこうしていく手順であるらしい。

 タスッタさんはビールで少し喉を潤してから煮込みに口をつける。

 想像していたよりも薄味で、上品な味つけだったが、「これぞ煮込み!」と思える味だった。

 汁にお肉や野菜の旨味が染みだして混合し、渾然一体となったところに、しつこくならない程度に味噌で味をつけている。

 単純な料理だが、手間暇を惜しまずに長時間煮込まなければ、こういう味は出ない。

 もちろん、容赦なし、文句なしに、おいしい。


 こういうシンプルなのでいいんですよね、おつまみは。

 と、タスッタさんは思う。

 お酒が入っているときは、あまり繊細だったり手が混んでいたりする料理よりは、かえってこういう単純な料理の方がありがたかった。

 なんといっても、味がわかりやすい。


 煮込みとビールを交互に啜っていると、最後に残っていた海老マカロニグラタンが来た。

 熱々で、表面がグツグツいっている。

 これも容易に味が想像できる料理であったが、それでいい。

 そのわかり易さがいい。

 グラタンの焦げ目のついた表面にスプーンを入れ、熱々の中身を一口分だけ取り分けて、自分の口に入れる。

 熱すぎて、最初のうちは味がよくわからない。

 しばらくハフハフいいながら口の中で冷まして、ようやく味を感じるようになる。

 うん。

 甘みの強いホワイトソースと、それに海老の感触と食感。

 紛れもなく、想像していた通りの「グラタン」らしい味わいだった。

 おいしいけど熱々のそれを、タスッタさんはビールで喉の奥に流し込む。


 ビールがジョッキの半分ほどに減ったあと、タスッタさんは、

「さて、どうしましょうか?」

 とか、思いはじめる。

 見ていると、このお店、お客さんの回転が思いのほか、早い。

 食券制であることと合わせて考えると、あまり長居をするタイプのお店でもないのだろう。

 なにより、ここは浅草。

 飲食をするためのお店には、事欠かない。

 ここを皮切りにして、別のお店に移るのもありかあな、と、タスッタさんは思いはじめていた。

 ジョッキを傾けながらそんなことを考えながら店内の様子を見るとはなしに眺めていたタスッタさんは、あることに気づいた。

 お客さんの大半、半分以上のお客さんの前に、あるグラスが置いてある。


 ああ、そうだ。

 タスッタさんは、不意に思い出した。

 ここに来て、あれを頼まないのは、なんというか不十分だ。

 タスッタさんはジョッキに残っていたビールを飲み干し、そのままレジへとむかう。

 そこで電気ブランと小生ビール、それにジャーマンポテトの食券を新たに購入した。

 そう。

 このお店に来て、電気ブランを頼まないで帰るのは、嘘なのだ。


 電気ブランというカクテルは、想像していた以上にきついお酒だった。

 チェイサーがあった方がいい、ということはわかるのだが、そのチェイサーにビールがいいとされている理由は、タスッタさんにもよくわからない。

 ともあれ、タスッタさんは前に知ったその作法通りに、電気ブランとビールを交互に舐めていく。

 意外に、効きますね。

 とか、思いながら。


 先に頼んでいた煮込みと海老マカロニグラタンを食べ終えた頃に、残った注文のジャーマンポテトがやってくる。

 揚げたジャガイモと、玉ねぎとベーコン。

 このお店のそれは、どうやらそうした素材をウスターソースを絡めて炒めたもの、であるらしい。

 火を通したソースの香ばしい香りが、どうにも食欲を刺激する。

 これもまた、わかりやすい味の料理だった。

 そして、なんといってもビールに合う。


 カリカリに揚げてソース味のついたジャガイモをフォークに刺して、口の中に入れる。

 表面はぱりっと、中身はホクホク。

 熱々のそれを嚥下してから、まだ口の中にソースの風味が残っている間に、電気ブランを口に含む。

 じわり、と、タスッタさんの中に満足感が満ちていく。

 続いて、ジョッキを傾けて、ビールを飲む。

 くう、いいなあ。

 まだ日が高いうちから飲むお酒は、どうしてこうもおいしいのでしょうか。

 次第に脳裏に染みて来た酒精のせいか、タスッタさんの思考は次第に多幸感に満たされていく。

 なんということはないお料理と、それにお酒。

 白昼から堂々とこうしてそのふたつをいただけるという、その平和さ。


 もう一口、電気ブランのグラスに口をつけてから、タスッタさんは、

「次に、なにを頼みましょうか」

 と、考はじめていた。



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