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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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新潟県新潟市。ラーメン屋の味噌ラーメン。

「さむっ」

 慣れない雪道を歩きながら、タスッタさんは呟く。

 前後の事情は省略するが、タスッタさんは今、新潟市内にある国道113号線に沿って歩いていた。

 今日明日にも今季一番の寒波がやって来るということで、気温はかなり寒いしタスッタさんが吐く息も白い。

「こういう日は」

 やはり、食べると体が温まる食べ物がいいですね。

 と、タスッタさんは思う。


 地方都市ではありがちなことに、この近辺も基本的に車が日常の足であるようだ。

 余所者で、なおかつ免許を持っていないタスッタさんなどは、移動に際してもかなりの制約がある。

 まあ、でも。

 と、タスッタさんは思う。

 まだ都市部の中ではあるし、大きな道沿いに歩いていけば、いずれはそれなりにお店にいきつくことでしょう。

 また、なんの下調べもせずにそうして出先でぶらりと入ってみるお店に対する好奇心も、タスッタさんの中ではかなり大きかった。

 もちろん、当たり外れはそれなりに存在するわけであるが、当たりのお店に入ることができたときのサプライズ感覚が、なんともいえず心地よいのだ。


 そんなわけで、タスッタさんは国道沿いの歩道をしばらく歩き続けることになった。

 その結果、

「よさそうかな?」

 と思える店構えのお店をみかける。

 何軒かの飲食店が集まって駐車場を共用している場所であったが、そのうちの一軒のお店がタスッタさんの目を引いた。

 今は昼間であるので点灯こそしていないが、大きな電飾つきの看板をお店の前に出しているラーメンの専門店だった。

 店名に「麺」の文字が入っているので、たぶん、そうなのだろう。

 この手のラーメン屋さんないしは中華料理店は、だいたい日本中どこにいっても存在するということを、タスッタさんはこれまでの経験から知っている。

 このうちの中華料理店の方は、よほどのことがなければ「外れ」に遭遇することはないのだが、ラーメン屋さんについては「当たり」と「外れ」の差が大きかった。

 必要以上に脂ぎっていたり、しょっぱかったりと、あくまでタスッタさん個人の好みとしてはあまりおいしくいただけないお店も、意外に多いのだ。

 無論、そうしたお店にも固定客がそれなりについていることが多く、そうしたラーメンが一概にダメだとも思わないのだが、少なくともタスッタさん個人の嗜好には合わない。

 つまりこれは。

 と、タスッタさんは思う。

 今や国民食ともいわれ、あちこちで研究され尽くしてバリエーションを増やしていったラーメンという食べ物が、いくところまでいき着いてしまった姿なのではないでしょうか、と。

 自分好みのラーメンを推したり、その逆に好みに合わないラーメンを個人的に嫌ったりするのは構わないのだが、そうした個人的な基準を絶対視すると戦争になりかねない。

 現代のラーメンという食べ物がは、それだけ多様化してきているのではないでしょうか?

 と、タスッタさんは思う。


 それはともかく、タスッタさんは早速そのお店に入ることにする。

 中に入ると、むっと湯気と熱気が顔を撫でた気がして、スープのものらしい出汁の効いた匂いが鼻腔を抜けていく。

 外の寒気に晒されたあとだと、かえって心地よくも思う。

 表の駐車場に若干の空きがあったところからある程度想像はしていたが、やはり店内にも若干の空席がみられた。

 ふたつあるテーブル席は埋まっているが、カウンター席がいくつか空いている。


「いらっしゃい!」

 店員さんが威勢よく声をかけてくる。

「空いている席にお座りください!」

 ざっと見渡すと、この手の専門店によく設置されている券売機の姿がみえない。

 と、いうことは、ここは食後に直接清算をするタイプか、と、タスッタさんは思いながら、空いていたカウンター席に座る。

 入店してから座るまでの間に、先に入っていたお客さんたちがなにを食べていたのかも、ざっとチェックしていた。

 大部分のお客さんが、麺とスープが別盛りになっている、いわゆるつけ麺らしいものを注文していた。


 つけ麺が有名なお店なんでしょうか?

 タスッタさんはそう思う。

 しかし、タスッタさん自身は、この日はつけ麺を頼むつもりはなかった。

 熱いスープごと、がっつりといただけるような料理を食べて体を温めたかったからだ。

 タスッタさんはメニューを手に取り、しばらく眺める。

 意外と、品数が多いお店だった。

 これだけ種類が多いと、少し、目移りしますね。

 などと思いながらも、タスッタさんはそうしたメニューのうち、味噌ラーメンを選択して、店員さんに注文をした。

 シンプル・イズ・ベストで、大盛りもトッピングもなし。

 特にラーメン屋さんは、はじめて入るお店でうっかり大盛りにすると、食べきれずに後悔をすることになりがちであると、このことも、タスッタさんはこれまでの経験で学んでいた。


 注文してから五分もかからずに、タスッタさんの目の前に湯気をたてたどんぶりが置かれた。

 さほど待たされずに出てくる、ということも、このラーメンという食べ物の特徴である。

 麺が白いスープに泳ぎ、その上にチャーシューなどの具材が乗っていた。

 見た感じ、やはりかなりボリュームがありそうだ。

 やはり大盛りにしないでおいてよかった、とか思いながらも、タスッタさんはまずレンゲで一口スープを啜る。

 旨味が強く、濃い味の。

 これは、白味噌、でしょうか。

 嚥下すると、それだけで胃の中が温まった気がした。

 つづいて、タスッタさんは箸を取って麺を啜る。

 中太の、もっちりとした食感の麺に濃厚なスープがほどよく絡んで、口の中でほどよい味になった。

 正直、スープ単体だと若干くどい味になるのだが、麺といっしょにいただくと、かなり美味しく感じられる。

 うん。

 と、タスッタさんは思った。

 素直に、おいしい。

 このお店は、かなり研究をしてこの味にいき着いたのではないのか。

 タスッタさんはしばらく無心に麺を啜ったあと、上に乗っていたチャーシューに箸をつけた。

 かなり分厚く、これだけでも食べ甲斐がありそうな。

 実際に噛んでみると、驚くほどに柔らかく、あっさりと口の中で溶けていく。

 ああ。

 と、タスッタさんは思った。

 当たりだ。

 このお店は、当たりだ。


 半分ほどの麺を平らげたあと、タスッタさんは気になっていた、半球形に盛られたペースト状の物体を箸の先でつつき、まずは舐めてみて、味を確認してみる。

 ん。

 辛い。

 じんわりくる辛さと、ピリリと来る辛さの二重奏。

 そして、この香りは。


「お味噌だ」

 つまり、この赤味噌に、なんらかの辛味を混入したものを、途中からスープに溶かせばいいわけか。

 タスッタさんは、即座に悟った。

 そのまま、直接に食べるものにしては味が濃すぎるから、それ以外の食べ方が思いつかない。

 タスッタさんはその辛味噌玉を箸でスープの中に沈めて、よく溶かしてから再びラーメンを食べはじめる。


 あ。

 と、一口麺を啜ってから、タスッタさんは思う。

 さっきまでとは、まるで風味が違う。

 二種類の味噌が混ざったせいか、スープの味が複雑で、奥行きが出てきているように思えた。

 それに、ときおり感じるほどよい辛味が、濃厚な味噌ベースのスープの中でいいアクセントになっている。


 これは。

 と、タスッタさんは思う。

 お箸が、止まりませんねえ。


 休む間もなく箸を動かし続け、一杯のラーメンを完食したあと、タスッタさんの額にはうっすらと汗が浮いていた。



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