大阪府大阪市。鳥料理屋の鴨丼と鴨そばのセット。
タスッタさんが地下鉄本町駅を降りたところでちょうど昼前となった。
さて、今日はどんなところで食べましょうか、とタスッタさんは心の中で考える。
土地勘のない出先での食事の選択は、いつでも悩みの種ではあった。
どちらかというと、楽しい悩みではあるのだが。
年の暮れも押し迫ったその日、街中はすでに年末年始の休み期間に入っており、通りを歩いている人たちの姿を見ても、普段よりもカジュアルなものになっているような気がする。
周囲を見渡して、タスッタさんはある看板をみつけて、呟く。
「鳥と鴨のお店、か」
鴨もしばらく食べていないかな、とタスッタさんは思う。
日本の中で「鳥肉」といえば、だいたい「ニワトリ」のことを指す。
そちらの鳥肉も十分おいしいのであるが、ここで鴨を食べることができるのならば、それはそれで都合がいい。
ひさびさに、鴨をいただきますかね。
そう思い、タスッタさんは雑居ビルの外部にある階段を昇っていく。
そのお店の入口は、階段を昇った二階にあった。
入口を潜ると、すぐに店員さんが人数を確認してくる。
一人だと告げると、カウンター席に案内をされた。
連休の時期だというのに、お店の中はかなり混んでいた。
八割方の席が埋まっているのだろうか。
うん。
これは、期待できますかね。
とか思いながらタスッタさんは席に着き、メニューを開く。
お客さんたちの様子を見れば、タスッタさん自身のようにたまたま通りかかってこのお店に入ったのではなく、目当てにしたお料理があって、わざわざこのお店を訪れた人が多いように見受けられたからだ。
タスッタさんの経験からいっても、こういう雰囲気のお店は当たりであることが多かった。
「ランチは、セットもあるのですか」
セットだと、鴨丼と鴨そばにローストした鴨肉、それにデザートまでついてくるという。
もちろん、コストを考えれば一品当たりの量はそれなりに調整しているのであろうが、それにしても随分と豪勢な気分になる組み合わせであった。
よし、これにしよう、と、タスッタさんは決意をして店員さんに注文を告げる。
メニューによると、このお店で扱っている鴨は、河内鴨と呼ばれているらしい。
聞いたことがない単語だったので、料理が出てくるまでの間を利用してスマホで検索してみると、どうやら鴨と食用のアヒルとを掛け合わせた、いわゆる合鴨の一種であるらしい。
飼育に手間がかかり、あまり採算性がよくないので最近では育てている業者が減少する傾向にある、とも記述されていた。
しばらくすると、注文したセットが出てくる。
ああ。
卓上に置かれた料理のたたずまいや香りを確認して、タスッタさんはそう思う。
このお店は、当たりのようですね。
今ではタスッタさんは、はじめて入ったお店でも、その手の勘が働くようになっている。
タスッタさんは箸をとり、まずは鴨そばに手を出した。
どんぶりに並々と張ったお汁、その表面に鴨肉の脂が油膜となって広がっている。
まずはレンゲでそのお汁を一口頂き、そのほっとする味に小さなため息をつく。
ニワトリとはまた一味違うこの風味に、
「そう、これですよね」
などと、心の中で深く頷く。
次に上に乗った鴨肉を一口齧り、焦げ目がついてたっぷりっと鴨のエキスを吸ったネギも齧り、そばを啜ってもう一度お汁を頂く。
鴨の味が口の中に広がり、お汁を嚥下することによって体が温まっていった。
流石に、そばは専門店のものほどには蕎麦の風味がしなかったが、それでも十分においしい。
次に、鴨丼にも箸をつけてみる。
その名の通り、タレをつけてソテーした鴨肉がご飯の上に乗っているどんぶりであり、タスッタさんはその肉の一片を箸で中ほどからちぎり、下のご飯といっしょに口の中に放り込んだ。
ご飯といっしょに咀嚼をすると、そばのときとはまた違った鴨肉を楽しむことができる。
タレの風味が、またおいしい。
あ、いいなあ。
と、タスッタさんは思う。
鴨丼と鴨そば、交互に食べていると、鴨肉の違った風味を比較しながら食べる形となる。
なんだか贅沢だし、それに、飽きが来ない。
純粋に鴨肉の味のみを確かめたいのであれば、セットの中に含まれているローストした鴨肉を味わえばいい。
こちらを食べれば、たとえばブロイラーなどとは比較にならないほどに重層的な、深みのある鴨肉の味を確認することができる。
このセット、頼む前は量が多いのではないかと思っていましたが。
と、タスッタさんは思う。
実際に食べてみると決してそんなことはなく、むしろそばとどんぶり、二種類の料理を同時に味わうことによって、最後まで飽きずに鴨肉の潜在能力を余すことなく味わい尽くすことができる構成になっている。
ような、気がする。
これはともても、おいしくて贅沢なことですね。
と、タスッタさんは思う。
しばらくして、鴨丼と鴨そば、それにローストした鴨肉まですっかり完食をしたタスッタさんは、最後に残っていたデザートの小鉢を手元に引き寄せた。
そのデザートはどうやら手作りらしいリンゴのゼリーで、食後に口の中をさっぱりとさせるのにちょうどいい。
満ち足りた気分でデザートをいただきながら、タスッタさんは、
「いいお食事でした」
と、そんなことを思っていた。




