長野県岡谷市。うなぎ屋のうな重と肝吸い。
うなぎの調理法には大きく分けて二種類ある。
背開きで蒸して脂を落としてから焼く関東風と、腹開きでそのまま焼く関西風と。
そしてこの諏訪湖の近辺は、その両者のお店が混在する地域であるということだった。
以上は、タスッタさんが事前に書籍やネットで調べた知識であったが。
タスッタさんは今、釜口水門近辺にある岡谷という町に来ており、ぶらりっと散策をして確かめてみた限りでは、確かにうなぎ屋さんが多いような気がした。
諏訪湖近辺で、うなぎの漁が盛んだったんでしょうか、などとタスッタさんは首をかしげる。
でもそれも、漁獲量が激減しているとかいう今のことではないのだろうな、と、すぐにそう思い直したが。
ちょうど今、のぼりと暖簾に「うなぎのまち岡谷」と大きく染め抜かれたお店が、タスッタさんの目の前にあった。
ほどよく小さくてほどよく風格があり、つまりは、タスッタさん好みの店構えだった。
タスッタさんがお店に入ると、すぐに中年の女性店員がやってきて、
「お一人様ですか。
カウンター席でもよろしいですか。
今の時期はメニューの数が限られていますがそれでもよろしいでしょうか」
などと早口にまくしたてながら、タスッタさんをカウンター席に案内してくれる。
まだ開店したばかりの時間帯であったが、お客さんの入りは上々で、二つある小上がりのテーブル席と十席ほどあるカウンター席の半分ほどがすでに埋まっていた。
カウンター席に案内されたタスッタさんはすぐにメニューを開き一瞥し、
「うな重を」
と注文をする。
先ほど店員さんがいった通り、選択肢は他に白焼きくらいしかなかった。
「プラス百円でお吸い物が肝吸いになりますけど」
「では、その肝吸いにしてください」
店員さんが確認してきたので、タスッタさんはすかさず応じる。
どの道、百円程度である。
試してみても問題はない。
十分前後待たされた末、タスッタさんが注文をしたうな重と肝吸いが運ばれて来る。
そのお重を目の前にして、
「ああ、大きいいな」
と、タスッタさんは思った。
眼下のお重は、タスッタさんが予測していたよりも重量感があった。
お重の蓋を取ると、かなり大きな蒲焼がお重の上に乗っている。
ご飯は、完全にうなぎに覆い隠されていて、見えない。
これは、食べる甲斐がありそうな。
と、タスッタさんは思う。
ちなみに、タスッタさんはこれまで、弁当や惣菜の中に入っていたうなぎを食したことはあったが、こうしてちゃんとしたお店のうなぎを試したのは、今回がはじめてのことになる。
一度、肝吸いで口を濯いでから、タスッタさんはお重の上にでんと乗っているうなぎに箸をいれる。
見た目よりもずっと柔らかく、すっと切り分けることができた。
そうして切り分けた一片を口の中に入れて、ゆっくりと咀嚼してみる。
表面はパリッと焼きあがり、中はあくまで柔らかい。
そして、表面を覆うタレの濃い味が、舌を刺激する。
食感。
味。
香り。
ああ。
と、タスッタさんは思う。
これは、とても豊かな食べ物ですね、と。
日本の食文化の中で、このうなぎがそれなりに重要な位置にいることが、よく理解できるような、そんな気がした。
確かに、これはおいしい。
なんというか、食べていると、とても贅沢な気分になる。
そんなことを思いつつ、タスッタさんは箸を進める。
今度は、タレがほどよく染みたご飯と一緒に、箸で切り分けた一うなぎを口の中に入れる。
うん。
これは、これで。
うなぎ単体で食べたときとは、また別種のおもむきがある。
それに、ご飯もおいしい。
きっとこのお店が、うなぎに合う品種を選んで使っているのだろうな、と、そんな風に思えた。
ここでタスッタさんは改めて肝吸いを賞味してみる。
まず腕を持って一口飲んでみて、次に中にある具を箸で浚って持ちあげてみる。
肝吸い、というからには、これがうなぎの肝なのであろう。
そのまま口の中にいれてみると、お重の方のタレと同じような風味が口の中に広がる。
ああ。
と、タスッタさんは悟る。
タレにつけて焼いた肝を、お吸い物の具として使っているのか。
そうした調理法が一般的なものなのかどうかはタスッタさんには判断できなかったが、これはこれでとてもおいしい。
お吸い物の方も、濃い目の味つけのタレを濯ぐのにちょうどいい、ほどよく出汁が効いたさっぱりとしたうまさだった。
タスッタさんは、忙しく箸を動かし続ける。
油分で重い料理かと思っていたが、焼きたてのうなぎは思いのほか、箸が進む。
外はパリパリ、中はふわふわ。
ご飯と合うタレ。
うん、これは。
と、タスッタさんは思う。
とても幸せな料理ですね、と。




