東京都立川市。カフェの国産ハンバーガーと紅茶、蜂蜜入りお汁粉。
ここ数日、急に冷え込みが厳しくなった中、不意に訪れた快晴の日だった。
しかし、風は冷たく空気は乾燥している。
この日、タスッタさんがいるのは立川という場所で、少なくとも駅前付近はビルばかりが立ち並ぶオフィス街であった。
時刻は一時を少し過ぎており、朝に軽く食事とっただけのタスッタさんは、そろそろどこかに入って落ち着こうかと考えている。
できれば、暖かいお料理が好ましいのですけどね、などと思いながら周囲を見渡すと、オフィスビルの一階に喫茶店らしい看板を見かけた。
今回は、あそこでいいか。
とか、タスッタさんは思う。
歩きづめで疲れていたし、少し腰をおろして休みたいところでもあった。
なにより、タスッタさんはこれで喫茶店などで出す軽食のたぐいが、決して嫌いではない。
自動ドアをくぐって驚いたのは、そこにかなり堂々とした木製の扉が存在していることだった。
外から見ただけではわかりにくかったのだが、どうやこのお店は、スライド式の自動ドアとこの扉、入り口が二重になっているらしい。
なにかそれ相応のいわくとか理由でもあるのでしょうか?
などと内心で首をひねりながら、タスッタさんはその扉も開いて中にはいる。
そこで、再び驚くこととなった。
まず、店内が予想以上に広々としている。
次に、内装とかちょうど関係がいかにも豪華そうなものばかりであり、カフェとか喫茶店というよりはどこかのホテルのロビーではないかと錯覚するような光景が広がっていた。
そうした内装から受ける印象に反して、お客さんたちの様子はいたって普通である。
平日の昼間という時間帯と、それに場所柄のせいか、サラリーマンやOL風の服装の人がほとんどであった。
みな、それぞれにくつろいで過ごしているように見える。
トレーを掲げた店員さんが近寄ってきて、
「お一人様ですか?」
と確認をしたあと、
「どこでも空いているお席をご利用してください」
といわれた。
時間帯的に考えて、これからしばらくはお客さんが減る一方なのだろうな、とか思いつつ、タスッタさんは店内中央付近にある、大きな木製のテーブルにあったメニューを手に取り、その中身を確認する。
そしてタスッタさんは、心中で「むむ」と小さく唸った。
内装から考えて高めの値段設定にしているものと予想していたのだが、その反対に、どの飲み物も料理も、かなり安めの設定になっていた。
飲み物が一品三百円から三百五十円ていど、ケーキや軽食類もその程度であった。
流石にしっかりとした料理や定食はそれよりも少し高かったが、それでも五百円代から八百円代までに留まっている。
さて、どうしましょうか。
メニューを睨みながらそんなことを考えているタスッタさんの視界の隅に、ふと気になるものが通過した。
ホール係りの店員さんが、トレーの上にカップとポットを乗せて通り過ぎて行ったのだ。
もちろん、紅茶の、だ。
あのポット、かなり大きめだな、と、タスッタさんは判断する。
これからの経験からいっても、ああしてカップとポットをお客さんに出す店の紅茶は、だいたいおいしい。
仮に万が一おいしくなかったとしても、少なくとも量だけは確実に確保できる。
なにかしら暖かいものを口とお腹の中に入れたかったタスッタさんは、すぐに飲み物は紅茶にすることを決定した。
飲み物はそれでいいとして。
さて、食べる方はどうしましょうか。
と、タスッタさんは考える。
無難にセット物や定食でもいいのだけど、もう少し変わったものを頼みたくなるメニューであった。
喫茶店にありがちな軽食類に混ざって、何種類かのケーキからなぜか磯部焼きやお汁粉など、和風のスイーツまで揃えている。
ちなみに、お餅を使った料理は季節限定らしく、最近はじめたばかりのようだった。
ここまでなんでもありですと、かえって面白い組み合わせを狙いたくなりますよねえ、とか誰かにむかって弁解しながら、タスッタさんはまじまじとメニューを見る。
結果、タスッタさんは、国産ハンバーガーと蜂蜜入りのお汁粉、それに紅茶を注文した。
この三品すべてで会計が千円に届くか届かないかという程度であり、タスッタさんの感覚からすればかなり安いように思える。
ハンバーガーを選んだのは、厨房の方からパスンパスンとどうやら挽肉の塊から空気を抜くような音が小さく響いて来たからだ。
どうやらこのお店では、出来合いのものを温めているだけではなく、ちゃんとこの店内で作っているらしい。
だとすれば、食べる価値はあるかな、と、判断したのであった。
お汁粉は、なんとなく食べたかったのと、それになんとなく甘いものを口にしたい気分だったからだ。
組み合わせとしてはかなり微妙ではあるが、タスッタさんが食べたかったのであるから仕方がない。
お昼どきを外していることもあって、店内にいたお客さんたちは減って行く一方であった。
静かな雰囲気に浸っている中、タスッタさんが注文をした三品がやって来る。
まずタスッタさんは紅茶のポットを手にして、カップの中に中身を注いでみた。
カップはしっかりと重く、タスッタさんの予想ではたっぷり二杯分くらいは入っている。
そして、カップもポットも、しっかりと温められていた。
紅茶を一口、口に含んでみると、いい香りが鼻腔を抜けていく。
決して高級な茶葉ではないと思うが、ほどほどに渋みを感じる、いい茶葉を使っているな、と、タスッタさんは思った。
それから、タスッタさんはお皿の上に乗っていた国産ハンバーガーに手を伸ばした。
あえて国産、と銘打っているということは、つまりは材料についてだろう、と、タスッタさんは予測をする。
タスッタさんはあまりそうした産地には拘るたちではなかったが、気になる人は気になるのだろうな。
などと思いつつ、そのハンバーガーにがぶりと食らいつく。
心持ち小さめではあったが、値段を考えるとこれで相応だとも思った。
それに、バンズもちゃんと温まっているし、バンズに挟まれた中身、葉物野菜のシャキッとした歯ごたえとかピクルスの酸味、それにしっかりと焼けたハンバーグとそこから出てくる肉汁が、実にバランスがよいと感じた。
これは、チェーン店のものにも負けていないのではないか。
一口、口にしただけで、タスッタさんはそう思う。
一品千円前後はする高級店のハンバーガーには流石に負けるかもしれないが、値段を考慮すればかなり健闘をしていると、そう思った。
ああ、これで結構カロリーが、とか思いつつも、タスッタさんは合間に紅茶を啜りつつ、かなりの速度でハンバーガーを完食してしまう。
そして改めて紅茶を飲んで、ポットからカップに新たに注ぎたした。
さて、これです。
最後の一品、蜂蜜入りのお汁粉。
甘いものであることは確かなのだが、どれほどの甘さであるのかは実際に口にして見なければわからない。
お汁粉の椀を掴み、タスッタさんはまず箸で焼き目のついたお餅を掴み、一度粉の中に浸してから、お餅を一口、噛む。
焼き目のついた表面の硬い感触と、対照的にどこまでも柔らかい、中身。
お餅、ですね。
と、タスッタさんは思う。
ただ、柔らかいながらもかなりしっかりした歯ごたえで、なんだかずいぶんと中身が充実しているような印象も受けた。
味自体は、タスッタさんが知っているお餅とほとんど違わないのだが、なにかが、違う。
続いてタスッタさんは、お汁粉の汁をいただく。
甘い。
甘いことは甘いのだが、主張の強い甘さではなく、じんわりと染み入ってくるような甘さだ。
蜂蜜入りの、とのことであったが、そちらの風味はほとんど感じずに、やはり小豆の風味が優っている。
そう。
先に小豆の味と香りを感じて、そのあとからかなり強い甘みがじんわりと中に入ってくる、という印象があった。
なんだかほっとする甘さだな、と、タスッタさんは思う。
この甘く煮た小豆は、お餅はもちろんのこと、渋みの強い紅茶ともよく合う。
そろそろ季節が秋から冬に入ろうかという時期のその日、タスッタさんは心からくつろいた時間を持つことができた。




