山梨県甲府市。焼き鳥屋の焼き鳥とワイン。
駅前にあったからふらりと入ってみたお店であったが、予想外に居心地がいい。
基本、この手の古びた小さな居酒屋さんとか焼き鳥屋さんは全国どこへ行ってもあまり雰囲気がかわらないから。
とか、タスッタさんは思う。
だから、変に構えることなくぶらりと入ってくつろぐことができると。
タスッタさんはとりわさと甲州ワインをいただいていた。
ビールとか焼酎でもよかったのだが、せっかく山梨にまで来たのだからとこのお店ではワインを注文している。
焼き鳥とワインは相性的にどうだろうと半信半疑で頼んでみたのだが、実際に食べてみると意外にいける。
少なくとも、こんがりと焼いたお肉とワインは合う。
ワサビは、合わない。
とりわさはよしておいた方がよかった、とタスッタさんは思ったら。
例によってお一人様であるタスッタさんはカウンター席に案内されている。
カウンターに陣取り、喧騒と煙に包まれてじっくりとお酒と酒肴を楽しんでいた。
あまり広くない店内には、炭火でお肉を焼く時に出る煙だけではなく、煙草の煙も充満している。
ほぼ満席に近いお客さんたちの喫煙率はかなり高かった。
分煙化が進んでいる最近のお店では見られない現象であり、こういうお店を敬遠する若い人たちも多いだろうな、などとタスッタさんは思ってしまう。
タスッタさん自身は喫煙の習慣はなかったが、煙草の煙とか匂いについてはあまり気にしない方であった。
頼んでおいたカワとレバーがなかなか来ないな、とかそんなことを思い、タスッタさんは通りかかった女性の店員さんに声をかけて催促をしておく。
見ると、このお店のご主人らしい、焼きを担当している店員さんが手を止めて馴染みらしいお客さんと談笑していた。
料理はちゃんとしているのに、接客にちょっと難があるお店だな、とタスッタさんは思う。
よくいえばフレンドリーなお店という見方もできるが、地元の常連客だけである程度経営が安定しているという油断が、経営者側にあるような気がした。
タスッタさんにしてみれば、自分が注文した品さえちゃんと出てくればそれで文句はないわけだが。
遅れて届いたカワとレバーを受け取り、タスッタさんはワインのお代わりを注文する。
こちらは、焼きの工程ががないせいかすぐに来た。
塩味のカワはパリッと焼けて、レバーも表面の焼き目もほどよく、中はふわっといい加減に焼きあがっている。
うん。
焼きの腕前はいいんですけどね、このお店。
せっかくいい腕を持っているのだから、もう少し商売気を持ってもいいようにも思う。
カワとレバーも食べ終えてしまったので、タスッタさんはメニューを開いて次になにを頼むべきなのか吟味をしはじめる。
そろそろお腹にたまるものが欲しいかな。
モツ煮込みもあるようだけど、この「ひまわり」というのはなんだろう。
女性の店員さんに聞いてみると、どうもつくねの盛り合わせのようなものらしかったので、それを注文して、ワインをまた一口。
店員さんは焼きをやっている男性とこの女性の店員さんしかいない。
店の規模からいっても二人で十分に注文を捌けるのだろうな。
年恰好からいっても、ご夫婦なのでしょうか。
などと埒もないことを考えながら、タスッタさんはワイングラスを傾ける。
注文していたひまわりが来る頃にはグラスが空になっていたので、タスッタさんはまた同じワインを所望した。
ひまわりは説明されていた通り、数本のつくね串を放射状に並べてその中心に玉子が配置されている一品で、なかなかボリュームがありそうだった。
普通なら数人で注文をするのだろうな、とか思いながらタスッタさんはその卵黄を無造作に割ってつくね串にまぶしてかぶりつく。
ひき肉の中に砕いた軟骨をまぶしているらしく、歯ごたえに変化があっておいしかった。
しかし、炭火でこんがりと焼いたお肉はどうしてこんなにも美味しいのか。
そのひまわりを半分くらい食べ終えたところで、タスッタさんは店員さんを呼び止めてししとうと軟骨、それにワインのお代わりを注文した。
ああ、いいなあ。
と、タスッタさんは思う。
誰にも邪魔されず、ひとりでじっくりとお料理やお酒とつきあえる、こういう時間と空間。
タスッタさんのささやかではあるけど贅沢な夜はこうして更けていく。




