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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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178/180

千葉県勝浦市。ワインバーのお任せセットとワイン。

「なんだか面白い造りですねえ」

 お店の中に一歩足を踏み入れた途端、タスッタさんは感心してしまった。

 カウンター席がありテーブル席があり、とここまではさして特徴的なところではないのだが、そのカウンター席のテーブル上に、ガラスのケースがどんと居座っている。

 お寿司屋さんとかで、よくある構造のお店だった。

 つまりは、居抜きかなんかで前のお店の設備をそのまま流用しているでしょうね。

 タスッタさんは、そんな風に解釈をする。

 このお店を外から見ると、黒一色に塗装された壁面に引き戸の入口、赤い幟と暖簾、その入口の脇になぜかフランス国旗が掲げられていた。

 なんとなくおしゃれな雰囲気だという印象を受けたし、洋食屋さんか洋風居酒屋であろうと見当をつけて入ってみたわけだが。

 うん。

 タスッタさんは、そんな風に思う。

 なかなか、意外性のあるお店ですね。


 夕刻ではあるが、この時期の日はまだ高い。

 時間が早いせいもあって、店内にお客さんはまだ入っていなかった。

 カウンターの中にいた店員さんがタスッタさんに声をかけ、そのままテーブル席へと案内される。

「カウンターは、立ち飲みのお客様のために取ってあるんですよ」

 気さくな様子の店員さんは、そう教えてくれた。

「テーブル席の方が落ち着くでしょ」

 タスッタさんはそのままテーブル席に腰掛け、ざっと店内を見渡す。

 壁に貼られた品数の多さ。

 それに、黒板に書かれたお勧めのセットやフランス語の長文など。

 うむ。

 と、タスッタさんは思う。

 お店の人が、かなり手をかけて育ててきたお店のようですね。

 それから、タスッタさんはようやくメニューを手に取って開いた。

 あ、ランチタイムもやっているのか。

 純粋な飲み屋さんというわけではなく、料理とお酒、そのどちらにも、手を抜いていないらしい。

 あ、ジビエ料理もある。

 残念。

 秋から冬にかけて、ですか。

 今はシーズンオフ。

 しかし、品数が多すぎて、目移りしますね、これは。

「お食事の方ですか?」

 本気で悩みはじめたタスッタさんに、お冷やを持って来た店員さんが声をかけてくれる。

「それとも、飲む方ですか?」

「食事がメインで、少し飲みたい気分ですかね」

 タスッタさんは、軽く答える。

「お任せのセットというのもいくつかありますけど」

 お任せ、と一口にいっても、おつまみ程度のものから本格的なものまで、何種類かあるようだった。

 説明を聞いてから、タスッタさんはそのうちの、少し本格的な、二千円のセットを選択する。

 さらに、その料理に合うようなワインも適当に見繕って貰うことにした。

 愛想がよく、自信がありそうな店員さんの物腰に賭けてみた形になる。

 ま、たまにはこういうのも。

 などと、タスッタさんは思う。

 自分で選択するばかりではなく、専門家の判断に任せるというのも、方法ではあるのだ。


 待つまでもなく、スープ、フォカッチャ、前菜盛り合わせの三種類の料理と、それに赤のグラスワインがすぐに出て来た。

 スープは冷製のポタージュで、見ただけではなんのポタージュかは判別できなかったが、一口口の中に含んでみると、その特徴的な風味ですぐにメインの素材が判明する。

「牛蒡、ですね。

 これ」

 甘さ控えめながら、なかなかいける。

 しかし、牛蒡かあ。

 ほとんど和食でしか使われない食材だから、こうして洋風に調理されると虚を突かれるというか、インパクトがあるなあ。

 おいしい!

 というより、じんわりと胃の中に染みてくる、滋味のようなものを感じる。

 次にタスッタさんはフォッカッチャを指先でちぎり、口の中に入れる。

 焼きたてであるのか、指先で触れた段階ですでに暖かかった。

 そして、食感が。

 いい具合にもっちりとして歯ごたえがあり、かなりおいしい。

 なんか、このフォッカッチャだけでも、ずっと食べていたい。

 お店の中で作っているんですかねえ。

 そんなことを思いつつ、タスッタさんはフォッカッチャを指先で千切っては口の中に入れ、ついてきたレバーのパテをつけてはまた食べる。

 レバーのパテは生臭さはいっさい感じず、内臓肉の旨味だけがぎゅっと凝縮された感じで、これまたかなりの逸品。

 そんなこんなで、タスッタさんは気がつくとフォッカッチャを半分以上、一気に消化していた。

 ああ、いけない。

 タスッタさんは慌ててフォッカッチャから手を離し、今度はフォークを手に取って前菜盛り合わせに挑む。

 サラダがメインではあるが、それ以外に赤身のお刺身やサラミ、一口大のピザらしきものなどが一皿の上に盛られている。

 この盛り合わせだけでも、しばらく飲めそうな感じですね。

 まずは、このお刺身から行きますか。

 タスッタさんお刺身にフォークを突き立てて、口の中に運ぶ。

 ほんの少量、オリーブオイルとバルサミコ酢がかかっていて、それらがいいアクセントになっていた。

 あ、鰹かあ。

 口の中に運んではじめて、タスッタさんはお刺身の正体を悟った。

 鰹とオリーブオイル、なかなか合いますね。

 そうか。

 鰹って、洋風の味付けでも十分にいけたんだ。

 そしてタスッタさんはここではじめて、グラスワインを傾けた。

 あ、合うなあ。

 鰹と赤ワインが、こんなに合うとは。

 レバーのパテをたっぷりとつけたフォッカッチャと赤ワインも、かなり合う。

 ああ、これは。

 と、タスッタさんは思う。

 お酒が、止まりません。

 タスッタさんは店員さんを呼び止めて、お酒のおかわりを注文する。

「今度は、これとはまた別のお酒をお願いします」

「料理に合うもので?」

「はい、それで」

「フォッカッチャのおかわりもできますけど?」

「では、フォッカッチャのおかわりもお願いします」

 しかし、このセットがわずかに二千円とは。

 お酒の代金も含めれば、最終的にそれなりの金額になりそうな気がするが、こういうお店で散財をする分には、タスッタさんとしても異論はない。

 店員さんはすぐにワインとフォッカッチャのおかわり、それに、パスタの皿を持ってタスッタさんのテーブルに置いた。

 パスタはトマトソースで、意外性はないものの、シンプルにおいしい。

 そして、ワインとトマトソースの酸味が、かなりよく合う。

 うん、おいしい。

 タスッタさんは、この時点でかなりご満悦だった。


 少し時間が経過したせいか、いつの間にやら店内はお客さんが増えて、かなり賑やかなことになっている。

「豚肉のグリルです」

 二杯目のワインをタスッタさんが飲み干したところに、店員さんがまた料理を運んできた。

「お任せセットの、最後の一皿になりますね」

「ワイン、もう一杯お願いします」

 タスッタさんは、そう応じる。

 こんがりとグリルした豚さん。

 こんなの、ワインが進むに決まっているじゃないですか。


 豚肉のグリルは、かなりボリュームがあった。

 それ以前の料理は、一品当たりの量が少なめだったが、この豚さんだけはかなり量が多い。

 これがメインというか、ここで満腹感を得て貰いたいんでしょうかね。

 とか、よく焼けた肉を頬張り、ワインを舐めながら、タスッタさんは思う。

 このお店、今度は秋くらいに、ジビエが食べられる季節にまた来たいものですね。



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