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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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135/180

三重県桑名市。和食屋のはまぐりセット。

 台風が通過した直後とあって、桑名駅の周辺も天気が悪かった。

 雨足は弱かったが風が以外と強く、そして空気はよどんで多くの湿気が籠もっている。

 ねっとりとした感触を肌に感じながらタスッタさんは、

「早くどこかに入らなければ」

 と思っていた。

 ごく普通に空調が効いている場所であれば、どこでもいいような気がしている。

 もちろん、その上でおいしい食事にありつけるのであれば、その方がいいとも思っているわけだが。

 駅前だから、入るべきお店には事欠かないはずなのだが。

 タスッタさんはざっと周囲を見渡してから、すぐに入るべきお店を選択する。

「うなぎ」

 と書かれた看板が目立つお店だったが、和食全般を扱っているらしかった。

 あまり大きな建物ではなかったが、その代わりこの場所で長く営業を続けていそうな風格を醸し出している。

 こういう店構えを、タスッタさんは好んでいた。


 場所柄か広めの駐車場を通り抜け、ようやくタスッタさんはお店の前に到着をする。

 なにを頼むのは決めていなかったが、ここは桑名。

 はまぐり料理があれば、それを頼もうかと思っている。

 入り口をくぐるとお昼の時間までまだ少し間があるというのに、すでに二組の家族連れらしいお客さんが待っていた。

 漏れ聞こえてくる会話から推察をするに、どうやら観光の傍ら、このお店に寄ったらしい。

 駅前からさほど離れていないお店であるし、これはむしろ当然かな、と、タスッタさんは思う。

 お客さんの回転はそこそこに早いお店らしく、五分も待たないうちにタスッタさんも席へと案内される。

 もともと小上がりとテーブル席しかないお店で、タスッタさんが案内をされたのもテーブル席だった。

 案内をされたとき、

「相席になる場合もありますが」

 とお店の人に断られたが、タスッタさんとしてもそれで異論があるはずもない。

 むしろこうしたお店に一人だけで押しかけて迷惑だったかな、とか、そんな想念が頭をよぎった。

 いや、普通に考えば、客として来ているのだから人数で差別をされるいわれもないわけだが。

 タスッタさんはメニューを開いて料理を吟味しにかかる。

 お店の外にうなぎの看板が出ていたことからもわかるように、海産物を主体にして扱っているお店のようだった。

 うなぎやお刺身、てんぷらなど、お馴染みの料理が並んで紹介されている。

「ああ」

 その中で、タスッタさんのニーズに合致するメニューを見つけ、タスッタさんは小さく息を吐いた。

 はまぐりセット。

 昼食としては少々値段が張るが、単品で複数のはまぐり料理を頼むよりもずっとお得な価格設定ではある。

 お店の方も、それを狙ってこういうメニューを用意しているのだろう。

 タスッタさんは店員さんに声をかけて、さっそくこのセットを注文した。


 焼きはまぐり、はまぐりのしぐれ煮ご飯、はまぐりのお吸い物、はまぐりのフライ。

 はまぐりセットは、その名に違わぬはまぐり尽くしのセットメニューだった。

 タスッタさんは、まずはお吸い物に口をつける。

 ん。

 タスッタさんは一口飲み込んで、心の中で深く頷いていた。

 貝のエッセンスが、これでもかというほどに染み出ている。

 もうこれだけでいいんじゃないかなと、そんな風に思えるほどにはまぐり味だった。

 はまぐりとは、こんなに深い味だったのか。

 タスッタさんはそう感心して、また一口。

 そして今度は、殻つきの焼きはまぐりに箸を伸ばす。

 まずはうまく殻を傾けて中に入っていた煮汁を少し啜り、その後に身を箸で摘まんで食べる。

 ぷりぷりで、意外に歯を押し戻す力が強い。

 歯応えもだが、はふはふいいながら噛むほどに滲み出てくる味が、とってもおいしい。

 はまぐりだ。

 ああ、はまぐりだ。

 味が濃いなあ、とか思いつつ、今度はしぐれ煮ご飯を一口食べてみた。

 こちらは、香りこそはまぐりの匂いが強かったが、味はそれほど特徴があるわけでもなく。

 正直、微妙かなとか思っていたら、半分くらい食べてからこの上にだし汁をかけていただくのが本式であると店員さんに教えられた。

 ひつまぶしみたいなものかな、と、タスッタさんは思う。

 汁物はもうお吸い物があり、役割的にちょっと被るのではないか、とかも、思った。

 それから揚げ物であるフライをいただいてみる。

 こちらもかなりおいしいとは思ったが、同じ貝なら牡蠣フライの方がずっと味が濃厚であるようにも思う。

 はまぐりをフライにしても、あんまり素材のよさは生かされていないような気がした。

 決しておいしくないわけではないのだけど、別にはまぐりである必要性はないかな。

 そしてまた、タスッタさんはお吸い物を一口啜ってから焼きはまぐりを食べて、しぐれ煮ご飯をいくらかかき込む。

 それから、店員さんに声をかけて、しぐれ煮ご飯にだし汁をかけて貰った。

 だし汁は、香りから判断すると鰹節。

 これはこれで十分においしいとは思うのだけど、その分、味の想像もできる。

 ざっと一口啜ってみると、うん、やはり鰹だしの味と香りが強すぎて、はまぐりの風味が損なわれているような気がした。

 ただ、フライとこのご飯以外の、お吸い物と焼きはまぐりは、文句なくおいしい。

 素材と調理法との相性、ですかね。

 とか、タスッタさんは思う。

 それでも十分に満足がいく内容であり、お食事であったが。

 すべてを完食した後、タスッタさんは素直に、

「ああ、おいしかった」

 と、そう思うのであった。


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