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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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133/180

愛知県清須市。大衆食堂の上味噌かつ定食。

 名鉄の須ヶ口という駅からいくらも歩かない場所にあるお店で、

「昭和の食堂」

「うなぎ、田楽、味噌かつ」

「串かつ、味噌かつ、ひつまぶし」

「呑み処、食い処」

 などの文字が並んでいる。

 渋いというかかなり年期が入った建物で、タスッタさん好みの雰囲気を醸し出していた。

 今日も暑いし、早く入りましょうか。

 などと、タスッタさんは、そんなことを思う。

 この猛暑から逃れられる場所であれば、もうどこのお店でもいいという気分でもあった。

 そんなわけでタスッタさんは食堂というよりは居酒屋風のそのお店の扉をくぐる。

 時間的に昼をいくらか過ぎていたのでお客さんの入りは半分といったところだが、奥の座敷席ですでに酒盛りをはじめているお客さんがいた。

 まだ白昼だというのに。

 出て来た店員さんに一人客であることを告げると、例によってすぐにカウンター席へと誘導される。

 奥で酒盛りをしているお客さんたちは、どうやらこの地元の人たちらしいことが切れ切れの会話から判明した。

 特に迷惑になるような酔い方をしているわけでもなく、それどころか地元の人が遠慮することなくくつろげるお店は大概あたりのお店なので、タスッタさんは「幸先がいい」とさえ感じる。

 壁に張られたお品書きやメニューにざっと目を走らせて、

「さて、なにを頼みますかね」

 と、例によってタスッタさんは考える。

 場所柄かうなぎ料理やひつまぶしを推しているようだったが、タスッタさんとしては、うなぎならばちゃんとした専門店で食べたい。

 定食とか食堂で扱う料理なら、大抵揃っているようなお店だった。

 そんな中で、タスッタさんはある文字列に目を止める。

「味噌かつ、か」

 ここでしか食べられない、というわけではないが、代表的な名古屋飯の一種ではあった。

 どちらかというと薄味の料理の方を好む傾向があるタスッタさんとしては、これまで数えるほどしか食べたことがない。

 この暑さですし。

 と、タスッタさんは思う。

 塩分の補給も兼ねて、久々に味が濃い物を頼んでみますか。


「なんか、想像していたのよりも黒っぽい」

 しばらくして提供されて味噌かつを見て、タスッタさんはそんな風に思った。

 かなり黒味が強い味噌が、べったりとかつの上一面に塗られている。

 横長の皿にとんかつ、そこに千切りのキャベツとポテトサラダが添えられ、別の小鉢に香の物、それと、ご飯と味噌汁がセットになった定食だった。

 予想よりも黒かった味噌を除けば、割合い普通のかつ定食だといえる。

 見た目はともかく。

 タスッタさんは、そんなことを思いながら箸を手にする。

 食べておいしければそれでいいんですよね。

 まず最初に味噌汁を一口啜り、その後、メインのかつを一切れ箸先で摘まんで、口の中に入れてみた。

 ああ、なるほど。

 その途端、タスッタさんは腑に落ちる。

 香ばしい。

 そして、苦味が、割合い多い。

 味噌自体は甘味が強いのですけど、うん。

 これは、少し火を強めに入れて焦がし気味しているわけですか。

 確かに、一般的な味噌かつのイメージに違わず、かなり濃い味付けではあった。

 だが同時に、複雑で、繊細でもある。

 甘味と苦味、味噌の味。

 それらが複雑に入り混ざって、かつの味を引き立てている。

 かつ自体に特筆するべき特徴はなく、強いていえばとんかつ専門店ではない、普通の食堂が出すとんかつとしてはごく普通のかつだと思ったが、この味噌が乗ることによって油っぽさが若干打ち消され、その代わりに複雑な味わいを伴うようになっていた。

 これは、うん。

 素直においしい、料理に仕上がっていますね。

 タスッタさんは、そう思う。

 なにより、ご飯が進む。

 これはこれで、完成された一品だと、そう思った。

 普段に食べる料理なら、むしろこれくらいメリハリがはっきりしていた方がいいのかも知れない。

 普通のとんかつにもダボダボとソースをかけて辛子をつけて食べていることを考えると、この味噌かつの濃さも、十分にアリなのだ。

 もともととんかつとは、若干ジャンクなイメージがある料理ではなかったか。

 なにより、食べた瞬間に「おいしい」と思えるわかりやすさがよかった。

 タスッタさんは休むことなく箸を動かし続ける。

 たかが揚げ物されど揚げ物。

 どこの土地でもありがちな料理に一工夫、一手間を加えておいしく仕上げるお店という物はあるものですね。

 このお店は、あたりだ。

 と、タスッタさんは結論する。

 古くて、そしてあまり大きなお店ではないけど、地元のお客さんに愛されてこれまで営業している。

 長く続いているお店には、それなりの理由があるのだと、タスッタさんはこれで何回目になるのかわからない感慨に耽っていた。

 たまたまふらりと入ったお店が当たりだと、なんだか気分がよくなる。

 そうした幸運の時間とそれに急速に満腹していくことによる満足感とに浸りながら、タスッタさんは食事を続けた。



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