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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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福井県越前市。カフェのボルガライスとダッチコーヒー。

 そのお店は福井鉄道家久駅から少し歩いた場所にあった。

 駅から十分も歩くわけではないのだが、なにしろ住宅街の中にぽつりと存在しているため、あらかじめお店の所在を知っていないとそのまま気づかずに素通りしてしまうんでしょうね、と、タスッタさんはそんな風に思う。

 この手の隠れ家的なお店の情報は、タスッタさんの場合、宿泊した場所とかタクシーとか、とにかく地元の人に訊ねることにしている。

 そうでもしないと、その存在にさえ気づかずに通り過ぎてしまうことが多いのだ。

 特に旅がちで同じ場所に二度と行かないことが多いタスッタさんの場合、多くのお店は一期一会になる。

 行く先々で、

「なにか良さそうなお店はありませんか?」

 と訊いて回ることは、タスッタさんの習性になっていた。

 それで毎回めぼしい成果が得られるというわけでもないのだが、数回に一回は当たりのお店に出会えるので、タスッタさんとしてはそれでよいと思っている。

 さて、今回のお店はどうなんでしょうか。

 そんなことを思いながら、タスッタさんはそのお店の中に入る。


 外見的には普通の住宅、中に入ると白い壁と木の色の二色で色調が統一された、かなりおしゃれな空間だった。

 それに、外から想像していたよりも、店内の空間が広い。

 本当に、カフェらしいカフェですね。

 と、タスッタさんはそんな印象を受けた。

 まだ昼前でお客さんはそんなに入っていないようだったが、こういうお店はどちらかというと午後とか夕方からの方が混みそうな気がする。

 店員さんに案内されてカウンター席に着きながら、タスッタさんはそんなことを考えた。

「ボルガライスがあると聞いたのですが」

 そして席に着くなり、タスッタさんはメニューも開かずにカウンター越しにこのお店のマスターに声をかける。

 ボルガライス。

 タスッタさんの耳にはあまりなじみのない料理名であったが、この近辺ではそれなりに普及している料理だという。

 テレビ番組風に表現すれば、地元のB級グルメといったところか。

 そうした料理があると聞き、タスッタさんは人伝にそれが食べられるお店を探して、ここまでたどり着いた形になる。

「はい、ボルガライスですね」

 マスターは、そういってあっさりと頷いた。

「できますよ。

 お飲み物はいりませんか?」

「それでは、コーヒーをお願いします」

 そもそも、ここはカフェなのだ。

 そこで食べ物だけを頼むというのも、タスッタさんにしてみればどこか落ち着かない。

「うちのコーヒーはダッチコーヒーになりますが、それでもよろしいでしょうか?」

「ダッチコーヒー、ですか?」

「水で、じっくり時間をかけて摘出するコーヒーになります」

「それ、ホットでもいただけるんですか?」

「はい。

 湯煎して温めます」

「それでは、それもお願いします」


 数分待つと、まずコーヒーが出てきた。

 シンプルな白い陶器のカップに入ったコーヒー。

 さて、ダッチコーヒーとは、普通のコーヒーとどう違うんでしょうか。

 そんな疑問を抱きながら、タスッタさんは一口啜ってみる。

 うまい、というよりも、雑味がない。

 気がする。

 これが、コーヒーの豆が持つ本来の風味なんでしょうかね。

 コーヒー通の人が飲めば、唸るようなクオリティなのかも知れないな、と、タスッタさんは思った。

 タスッタさんとしては、味や風味よりも、少し温い状態で出されたことの方が、印象に残ったが。

 あるいは、あまり温度を高くすると風味が飛ぶとかの理由で、あえて温めの温度で出しているのかも知れない。

 いずれにせよ、タスッタさんはそのダッチコーヒーから、「雑味の少ない、温いコーヒー」という印象しか受けなかった。


 コーヒーをちびちびと飲みつつさらに数分待つと、目当てのガルボライスが出てきた。

 ガルボライスとは、オムライスの上にカツを乗せ、さらにデミグラスソースをかけた料理のことらしい。

 聞いただけでかなりボリュームがあるように思えるのだが、ローカルな場所でのみ流行している料理というのはだいたいそういう傾向があるような気がする。

 それだけいろいろな料理をくっつけて、味が喧嘩しないのですかねえ。

 その料理のことを聞いた時、タスッタさんもそんな風に思ったものだ。

 今、タスッタさんの前に置かれたガルボライスは、外見からするとあまりB級っぽくはなく、それどころかかなりおしゃれな雰囲気がある。

 オムライスの上に乗っているカツが薄めで、その上に茶色いデミグラスソースがかかっており、さらにその上に、細い線状に白い液体が、格子のような形でかけられていた。

 なんか、オムライスというよりも、お好み焼きのような。

 タスッタさんは、そのガルボライスを見て、そんな印象を抱く。

 この白いのは、うん。

 やはり、マヨネーズだった。

 フォークの先にその白い液体をつけ、自分の舌で味を確認したタスッタさんは、そう結論する。

 味にアクセントをつけるため、マヨネーズをかけているらしい。

 そのマヨネーズも、たまにピリリとする感覚があり、どうも少量の胡椒かなにかを混ぜているのではないか。

 凝っているなあ、と、タスッタさんは感心をする。

 少し遅れて、ポタージュっぽいスープとサラダが出される。

 どうもこれらの品は、ガルボライスとセットになっているらしい。

 そのスープを、まずは一口いただく。

 あ、この味。

 と、タスッタさんは思う。

 なんとも優しい甘味が、口の中に広がった。

 カボチャ、ですか。

 いい味ですねえ、と、タスッタさんは素直に感心をする。

 続けて、ガルボライスをスプーンで一口分切り分けて、口の中に運んでみる。

 上に乗っていたデミグラスソースは、なんというかお馴染みの味でしかないのだが、その下のオムレツとそれにライス、特にライスが、予想していたよりも具だくさんだった。

 なんだか、いろいろなお野菜が入っているような。

 デミグラスソースの味というはかなり濃いわけだが、その濃い味に負けないほど、ライスにも旨味が詰まっている。

 これは、おいしいですね。

 タスッタさんは、心の中で大きく頷く。

 具だくさんであることも嬉しいのだが、野菜の一つ一つがしっかりとした味を主張していて、食べていて飽きない。

 ニンジン、ピーマン、タマネギにマッシュルーム、でしょうか。

 それぞれの味が、濃い。

 いい野菜を使っているんですね。

 と、タスッタさんはそう推測する。

 これは、おいしい。

 このオムライスだけでも、十分に満足がいくクオリティだと思った。

 そのオムライスとデミグラスソースとを一緒にいただくと、それぞれ単独で食べただけでは味わえない、うまく調和が取れ、協調さえしている料理になる。

 これは、かなり研究して作りあげたのではないでしょうか。

 と、タスッタさんはそんな風に感じる。

 普通に考えてこれだけいろいろな要素を一品の中に入れたら、もっとゴテゴテした印象になると思うのだが、この一皿の中ではそうした様々な要素が整然と整理されていた。

 一見邪魔に思えるカツでさえも、デミグラスソースと一緒にいただくと、あまり重くは感じずすっと食べてしまえる。

 全体におしゃれで、そして考え抜かれた逸品だと、タスッタさんは思った。

 すべてのガルボライスがおいしいとも思えないのだが、少なくともこのお店のガルボライスは、とてもおいしい。


 ガルボライスとサラダ、それにスープまで完食したタスッタさんは、すっかり冷め切ったコーヒーの残りを飲みながら、美味の余韻に浸っていた。

 満足のいく食事をした後は、少しの時間、黙って回想に耽りたくなる。

 いいお食事でした。

 と、タスッタさんは思う。

 ガルボライスという料理をここまでおいしくするまでに、どれほどの試行錯誤を経てきたことか。

 そのことを想像すると、タスッタさんとしてはこのお店の人たちに自然と敬意を抱いてしまう。

 決して高価な料理でもないのに、そこまで手間をかけるということは、営業的に見ればあまり意味がないことでもあるのだ。

 ここは、いいお店ですね。

 しみじみと、タスッタさんはそんな風に思う。



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