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【第八夜】




 深夜、わたしは人通りのない道を前にして、用意されていた席についていた。

 わたしの右側にふたり、左側にひとり、同じように仲間が座っている。

 それぞれの机の上には、十センチほどの高さに積み上がった、A4サイズの紙の山がある。

 わたしたちは、誰からともなくその紙の一枚を半分に折った。一緒に用意されているハサミを開き、その刃をペーパーナイフの要領で、紙を折った部分に当て、滑らせてゆく。

 ざらりと音をたてて切られてゆく紙。わたしたちは黙々と、次の一枚、さらに次の一枚……と、その作業を進める。

 誰もいない深夜、道に面して横一列に並んで行うその作業は、悪魔を召喚する儀式だった。

 静寂の中、ただ紙を折る音と切る音だけが響いている。

 どれだけ続けただろうか。

 道の向こうから、ドロドロとエンジンの低い音が聞こえてきた。それはすぐに近付いてきて、暗闇の中にあってもなお目を引く、鈍い黒色をまとったモノが、同じように漆黒のバイクに乗って現れた。

 とたん、空気は冷えて緊張をし、背筋におぞけが走った。

 悪魔だった。

 人間ではありえない身の細さや手足の長さ。律儀にも――それがもともとの姿なのかもしれないが――フルフェイスヘルメットをかぶったソレは、わたしたちの前を走り抜けることなく停まった。停まったバイクは、悪魔が乗っているせいなのか、宙に浮いている。

 目の前に悪魔がいる。

 手が震えた。

 でも、紙を切り続ける作業をしていかなければ、こちらが呑み込まれてしまう。

 わたしたちはひたすらに黙々と、機械のように手を動かし続ける。

 そんなわたしたちを、召喚された悪魔は検分してくる。

 ひとりひとりの顔を覗き込み、隙を暴こうとする。右端の仲間を見、わたしの左隣の仲間の前へと移動をし、次に右隣の仲間を検分してゆく。

 そうして、わたしの番となった。

 視線を受けるそれだけで、ずしりと重たい圧力がかかってくる。手を動かすのもうまくいかない。でも、ここで僅かでも動きに淀みが出てしまうと、悪魔に命だけでなく魂までも呑み込まれてしまう。

 目を合わせないよう手元に視線を落として、悪魔には気付いていない振りを懸命にするも、じっと検分されているのが判る。

 手のひらに汗がにじんできた。そのせいで、紙にハサミの刃を滑らせるも、ただ破った形になってしまった。

 やばい。

 冷や汗があふれだす。

 悪魔は、わたしの内心の焦りに気付いたのか、何度もわたしの前を行き来しては、俯いて作業をするわたしの手元にまで首を伸ばしてきて覗き込んでくる。

 決して目を合わせてはならない。

 わたしはいっそう手元を見つめ込むことで、悪魔の視線から逃げるしかない。

 両側にいる仲間たちも、緊張している。

 紙を折る音、切る音、そしてバイクのエンジン音ばかりが響いている。

 だめだ。

 手元が覚束ない。

 バレる―――喰われる……!

 そう覚悟をしたとき、エンジン音が強くなった。

 そうして、ただそこにいるだけで気持ちが悪くなるほどの圧迫感を与えてきた悪魔は、現れたとき同様、風のように消えていったのだった。

 手元の紙は、あと数枚を残すだけだった。




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