【第五夜】
夜明け前……というよりも、いまだ深夜の時間。わたしは、外を歩いていた。
巨大なマンション群の間を縫う広い道を、ひとり歩いていた。
静かだった。
夜明けへと向かう夜の静寂は心地よく、だからひとりきりであっても寂しさや怖さを感じることはなかった。
ゆるやかなりにも曲がりくねる道をしばらく歩いていると、背の高いマンション群を抜け、視界は一気に開けた。
目の前に現れたのは、宇宙だった。夜空ではなく、宇宙。
壮大な宇宙の光景が目の前に現れたのだ。
赤や白、青色などの色を帯びた星雲や銀河は眩しく輝き、それらの間を埋めるように細かな星々が散らばっていた。
わたしは丁字路となった道に足を止め、呆然とその光景に呑まれてしまった。
頭上から、崖となっている足元のその更に先にまで、大宇宙は広がっていた。
宇宙の淵。
そのあまりの壮大さ、悠然さに、身体に震えが走る。
そのまま見続けていると、大宇宙を背景に花火が上がりだした。たくさんの打ち上げ花火が、宇宙を彩る。
花火だけではなかった。
観覧車の姿や、空を行く飛行機、宇宙船などがそこにはあった。
ひとりきりだったはずだったが、急にひとの声が耳に飛び込んできた。
周囲に目を遣ると、浴衣姿の男性たちが道の先へと仲間たちと楽しげに話をしながら歩いていく。
つられるように道の先に視線を流すと、少しいった下のほうで、夏祭りのようなものがひらかれていた。まわりに現れた彼らについて、わたしもなんとはなしに祭りの会場に足を向けた。
会場では、大きな花火が盛大に打ち上げられている。秋になろうとしている夜明け前、深夜の時間帯で肌寒いはずなのに、浴衣姿の男女ばかりだ。長袖を着ているわたしは少し震えながらも、屋台をひとり冷やかしたりしていた。
どぉんと大きな音をたてて宇宙に上がる、たくさんの花火。
開けた場所に来たとはいえ、それでも近くにはマンション群がある。寝ているひともいるだろうに、あんな大きな音で花火を打ち上げられては、うるさくて眠れないのではと、他人事ながら感じたのだった。