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【第三夜】




 書店の雑誌売り場にいた。

 二十年ほど前に連載終了をした漫画が、少年誌から青年誌へと場所を変えて続編を開始したためだ。

 この漫画は当時アニメになりドラマ化もされ、海外では映画化もされた作品で、続編が始まると出版社が広告を打つと、漫画に興味のないひとたちも含めて世間はどよめいた。

 わたしはコミック派だったので普段ならばコミック化されるのを待っているのだが、この続編ばかりはどうにも待つことができなかった。

 連載されている雑誌を手に取り、目的のページを探す。

 その扉を見たとき、もうそれだけで先週からの続きが気になって気になって、胸がどきどき高揚してくる。息遣いすら荒くなってしまったけれど、できるだけ深呼吸を心がけていたから、まわりには気付かれていないはず。まわり、とは言っても、昼の時間帯なので学生も会社員も誰もいないのだけれど。

 扉のページをめくると、すぐ目に飛び込んできたのは、濃厚なラブシーンだった。

 そう。

 先週は主人公と仕事上のパートナーである女性が、じれったい両片想いの果てに訪れた絶体絶命にピンチをきっかけに、なだれるようにようやく身体を重ねた、というシーンで『待て次号』で終わったのだ。

 この一週間、じりじりと一日一日を過ごすのが酷く苦行に思えた。苦行。そうとしか思えなかった。

 なんですか、これは。

 どうしてこの展開で次号なんですか。

 一週間が過ぎるのが待ち遠しくてたまらないとここまで感じたのは、小学生の頃に見ていた大好きなアニメの続きをわくわくとお預け状態だったとき以来ではないだろうか。

 お預け。

 まさにそうだ。

 だが、ようやく今日、その続きを読むことができるのだ。

 そういうシーンだったので、本当は立ち読みではなくすぐにレジに持って行って部屋で読むのが一番萌え萌えできていいのだけれど、もうそれすらも待てなくなっていた。エッチなシーンを、ではなく、もちろん話の続きも楽しみだったのだと、ちょっとだけ誰に向けてなのか自分でも判らないが主張をしてみる。

 ベッドの上で激しく絡みあっている主人公とパートナー。

 ああ、少年誌で連載されていた頃は本当にふたりの関係はじれったくて、くっつけばいいのに、すれ違いや微妙な絡みがあるばかりで、読んでいるこちらがやきもきして仕方がなかった。

 ようやくだ。ようやくここまできたか……。

 一応そういうシーンなので、誰もいないにもかかわらず手に持つ週刊誌を豪快に開くわけにもいかず、さささっとコマを目で追うくらいしかできない。

 さらっと展開を確認して、レジに持って行こう。

 それにしても、主人公、野獣みたいに彼女を抱くのねぇ……、なんて冷静な自分を忘れないよう、いっちょまえに分析をしながら読んでいたのだけれど。

 濃厚なシーンをしっかり描いてくれるのはありがたいことだと思いながらページを繰る手が、はたと止まってしまう。

「……」

 止まらざるをえなくなる。

 そこにある文字。

『待て次号』

「……」

 ちょっと……、今回はいつもよりもページ数少なくない?

 わたしはわざとらしくしかつめらしい顔を作って、扉ページすらも含めての枚数を数えてみた。

 いつもよりも……少ない……。

 いつもの半分ほどだ。

 しかも最終コマは、パートナーといままさに繋がろうとしている絵。

「……」

 わたしは叫びたい衝動を必死に(こら)え、深呼吸を何度もし、落ち着かない気持ちを懸命に隠して雑誌を手にレジへと向かった。

 また……。

 また生殺しの一週間が始まるのか……。

 いやいやいや、こういうシーンが長いのは個人的にとてもありがたいのだけれど、いやしかし、でも……。いやいやいや……。

 悶々としながらも、わたしはレジで会計を済ませるしかないのだった。




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