73話
私とハンデルン卿はすぐに場所を移動した。移動する前に村人達から感謝の言葉を頂いてしまった。色々と話を聞かせて貰った子供達も私の事を知ったら凄い喜んでいた。恥ずかしくなって私は逃げてしまった。平民達も騒ぎは落ち着いた様でケイサツベライの皆も集まった。その中に瀕死の騎士団長もいた。
「……それ、死んでませんの?」
つい思った言葉が出てしまった。その言葉に皆が微妙な雰囲気になる。そして、ケイトは気まずそうに話し出す。
「申し訳ありません。俺の親父なんです」
……え⁉︎
コテンパンに痛めつけちゃったよ。私も気まずくなる。互いに何とも言えない雰囲気の中、ハンデルン卿の咳で場の雰囲気はまた変わった。
「騎士の在り方で親子が仲違いするのは良くある事じゃ。しかし、ケイトよ、お主は決別して敵である此奴を連れて来てどうするつもりだ?」
何とも言えない表情のケイトは自分の後悔を語り始めた。
「俺も親父が悩んでいたのは知っていたのです。ですが、立場上親父は何も出来ないでいた。そんな親父に俺は嫌気をさし、俺は俺の騎士道を目指した。だけど、この姿を見て俺はただ逃げていただけだと理解してしまった。親父は親父なりに間違っていてもやり通そうとしていた。俺がすべき事は親父と決別するのじゃなく間違いを正す事じゃなかったのかと。民に支える古の騎士、国人に支える王国騎士、考えが違うが互いの信念があったから同じ騎士として上手くやれた。なのに俺は親父とは上手くやれなかった。今更ながら後悔をしています」
ケイトの姿を見て悩んでしまう。私から見た彼は間違っていた。彼も止まれなかった。最後まで騎士で在ろうとしていた。それに気づいたケイトは今何を思っているのだろう?分からない。ただ、私は彼の気持ちを尊重したい。騎士団長へ情が移った訳ではない。そして、私はヒールを騎士団長へかけた。騎士団長は気は失ったままだがもう死にはしないだろう。
「ふむ、クレア様も其奴を何故助けるのじゃ?」
「……助けた訳ではありませんわ。この騒動の責任を取る者が居なくなっては困りますの」
私はプイッとする。
「ホッホッホ、そういう事にしておくかのぉ。さて、ワシを呼んだのはこの様な話をするわけじゃなかろうて」
ハンデルン卿は嫌味ったらしく笑い、ケイトも私に頭を下げた。私はめげずに話を変える。
「そうですの!ケイサツベライの皆もこの方々にもあのウサギさんを見せても良いですか?この方々は協力者にしたいので」
私がそう聞くとケイサツベライの皆は頷いてくれた。
「では、侯爵家の方々も気になる事がありましたら発言してもよろしいのですよ」
侯爵家の方々は私の言葉に困ってしまっているようだ。命を助けて貰ったが今だに命が危うい立場なのだ。英雄の末裔であり、爵位は高いが王族が関わっている。
私に質問はなく、助けて貰えるならどんな事にも従うようだ。老人は今だにきつそうだが仕方ない。もう少し我慢して貰おう。
リリィやシリウスも連れて来た。彼等は私の恩人でもあるのだ。だから、今度は守れる様に一緒について来てもらった。
「ないようなので話を進めますわ。この技術を今後私の領地は普及させる予定の代物なのでまだ黙っていて下さると助かります。とある方から技術を提供して貰って再現出来ると踏みましたから貴方達に情報を提示します。今から見せるのはゲートと呼ばれる古代の魔道具です。ケイサツベライや私の使用人も一瞬でライナス領から来ました。だから、デュオルク伯爵も気づかなかったのです」
そう教えると皆が目を丸くしていた。それもそうだろう。ココからライナス領に行くのに2カ月はかかるのが一瞬と言われてもピンと来ないはずだ。
ケイサツベライの皆がエヴァにゲートの事を教えたのは意外だった。そのおかげで今回は助かったのだが。ピレネー伯爵も数が無いから秘密裏に使っていたが私が壊れたモノを解析してから作りたいとケイト経由で伝えたら今後の使用の許可も得ている。ここで侯爵家やハンデルン卿を巻き込んむ事により、情報の開示した際には爵位の低い貴族や欲の強い者へ牽制になる。
「私達まで聞いて良い話だろうか?私達はクレア嬢、貴方に助けられただけであり、現状では貴方に頼るしか家族を守れない。父上も瀕死の状態から救ってくれた。今の私達では貴方のお荷物であり、貴方の力になれそうにない」
そう話すのは侯爵家の当主だ。当主は申し訳なさそうにする。そんな当主に私は話す。
「私には味方が居ませんの。これから何があっても私の味方とまでは言いませんが仲良くして欲しいですわ。それだけであなた方を助けた意味はありますの」
そうかと当主は呟く。
娘はずっと私を見ているが目が合うとすぐに逸らす。多分、騎士とはっちゃけすぎて怖がられてしまったようです。
話しても分からないのでケイトにお願いして、ウサギを連れて来てもらった。前回同様のカナリヤだ。そして、ハンデルン卿達をライナス領のウサギのシンバルまで繋ぐ。着いたのは私の屋敷だった。私は懐かしさに周りを見渡す。
「お嬢様、緊急時だったからメリルが計らってくれたんだ。っと計らって頂いたのです。もう屋敷の中だから言葉遣いを気を付けなきゃメリルに怒られる」
なるほど、寂れた酒屋に飛ばされるのを想定していたのでメリルには感謝だ。
「私がどうかしましたかエヴァ。クレア様、お帰りなさいませ。皆様も無事に帰って来て下さり何よりです。新しいお客様方もすぐに使用人を付けますのでお待ち下さいませ」
そう言ってメリルは去って行った。
……どこに居たのだろう?気が付かなかった。エヴァもあちゃーと顔をしている。ハンデルン卿はメリルを眺めていたが溜息を吐く。
「あの者は何者じゃ?気配も何も感じなかった。ワシが恐れを抱くとは思わなかったぞぃ」
メリルって何者かは良く分からない。だけど今は信頼関係を築けている。
「私の使用人ですよ。ここを守って貰ってますわ。だから、安心して動けますの」
成る程のぅとハンデルン卿は頷く。メリルが数人の使用人を連れて来て、客人室へ侯爵家とハンデルン卿とリリィとシリウスを連れて行く。ケイサツベライはメリルが来るまでに解散した。
何故かレオンとジュリアスは私と残った。私は2人に部屋で休む事を勧める。
「レオンとジュリアスも部屋に戻って休んだらどうですの?」
そう聞くとジュリアスが答えた。
「いや、もう少しクレアと一緒に居たいと思ったからダメか?」
「此奴が居るなら俺もクーと一緒にいる」
何でこんなに懐かれてしまったのだろう?レオンは妹に悪い虫が付かない様にしている感じに見える。
しかし、急に寒気がした。
「……クレア様、其方の方々は誰ですか?」
ギギギと振り向くとマリーが笑顔で立っていた。今までにマリーにこんな恐怖を抱いた事があっただろうか?分からないが今まマリーが怖い。
ジュリアスもレオンも瞬時に何故か膝をついて騎士らしいポーズをとっている。2人はマリーに服従しきっているよ!何故⁉︎
私は乾いた笑みを浮かべる。
「レオンは私の保護して下さった方の息子でジュリアスはハンデルン卿と言うこの国の英雄の孫ですの。2人は騎士ですし、私を守って下さったのです」
マリーがそうですかと言うとびくりと背後で動く。
……2人共本当に男か?
「クレア様、この駄犬達とお話があります。話を終えましたら私が責任を持って部屋へお連れしますのでクレア様はゆっくりお休み下さいませ」
マリーからおっかない言葉を聞こえた気がするが恐ろしくて私は頷く事しか出来なかった。
2人はマリーに連れられて何処かへ旅立ってしまった。
「……部屋に戻って寝ましょう」
私は素直に屋敷の部屋に戻って熟睡した。
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