66話
急に現れた男、ジュリアスによって私とレオンは屋敷から少し離れた闘技場へ来ていた。ここの領地はハンデルン卿が居るために騎士育成の為に闘技場があるようだ。まだ1時間も経っていないのに闘技場内には人で溢れていた。
「ハンデルン卿、この人の数大丈夫ですか?王国騎士の人達とか潜入されても分からないわよ」
私は人の多さに少し不安を感じてしまった。ハンデルン卿は笑う。
「ここに集まって居るのはワシが拾った孤児の者達も居るのじゃ。彼等にワシの剣技の一部を教え、1人でも生きていける様に育ておる。闘技場内を見渡して教え子が400手前かのぉ?この領は騎士ではない自治団体も作っております。王国騎士が来たら行動はすぐに分かる。えぇ、余所者は目立ちますからな。その辺りは安心してもよい」
闘技場内は500人は入れそうな大きさだ。話を聞く限り、更に大きな闘技場がありそうだ。
すると闘技場のフィールドに2人が現れた。
不貞腐れたレオンとドヤ顔のジュリアスの両者だ。
レオンは不機嫌に聞く。
「さっきの強かったらとはどう言う意味だ?」
ジュリアスはレオンの言葉を聞いてあぁと答える。
「言葉のまんまだぜ。俺に勝てる奴なんてじぃちゃん以外は居ない。だから、お前が強いか見てやるんだよ。強かったら俺も参加してやる。弱い奴らと群れるのは好きじゃねぇんだ。だから、少しは期待させてくれ」
その言葉が合図で2人は構える。ジュリアスは上から振り切るでレオンは下から振り上げる構えだ。
そして、一瞬の静寂が訪れる。
次の瞬間、ジュリアスより先にレオンが動く。ジュリアスの早い一太刀を躱し、レオンもジュリアスに斬りかかるがジュリアスも躱し距離を置く。
そして、目が合った瞬間また動く。
明らかにジュリアスはレオンの動きを観察する為に手を抜いているのが分かる。
だけど、私は更に困惑する。
ジュリアスって弱い?
確かに本気を出していない。だけど手を抜いていてもジュリアスの動きを見て本気を出したとしても今の私でも勝てると思う。
王国騎士が家を囲んでいたのは20人位だが周りには多勢に無勢で100以上の人数が隠れていた。
人を殺す前提の戦いに私は躊躇が出てしまいあの時、戦っていたら死んでいただろう。
しかし、この場は魔術で防御された空間だ。
痛くはあっても死にはしない。
1対1である限り私はジュリアスには負けないたろう。
そうこう考えているうちにジュリアスの一振りがレオンを捉え勝利だと思った瞬間だった。レオンの剣から爆発した。さすがのジュリアスもびっくりして退がる。
あの技は魔術と剣技を合わせたマジックソードだ。この技は高度な技術が必要とされる為に扱える者は少なかったはず。
「ほぅ、クレア様はマジックソードを知っていると見受けた。ブルジェオン家の騎士は元々は貴族から騎士になった一族じゃ。故にあの技を使える者は少ないのじゃ。リリィはわしの教え子の中でも最も優秀じゃ。リリィの剣技とシリウスの剣技を合わせたレオンならばわしの孫も多少は満足すると思っていたがこればかりは仕方ない事じゃな。しかし、レオンもあの歳で大人の騎士と渡り合えるじゃろう。ジュリアスは天才じゃ、天才は人を傲慢にする。彼奴も敗北をしたら変われると思ったのじゃが難しいのぉ」
ハンデルン卿の言葉と同時に勝敗が決まる。息が上がり方で呼吸しているレオンと見下し涼しげな表情のジュリアス。勝ちは見ての通りジュリアスだ。
「大した事ねぇな。本当にじぃちゃんが言っていた奴の息子か?ならお前の親も大した事ねぇか。剣技も甘いし隙もある。さっきのはびっくりしたが見破れば脅威はねぇ。もっと強い相手はいねぇのかねぇ?」
勝負が終わったので私は歩きながらレオンの元へ行く。
「あら、貴方は負けたいのかしら?」
ジュリアスは私を一瞥する。
「あぁ?負けるって何でだ。俺が負ける事はありえねぇ。じぃちゃんとも最近、互角とは言い過ぎだが良い勝負してるんだ。逆にどうやったら負けるか知りたいねぇ〜」
……生意気だね。リリィ達の事も馬鹿にしていたし、痛い目に遭ってもらおうかね。
「それは私と戦えば貴方は確実に負ける事が出来るわよ」
ジュリアスはニヤッとする。
「なんだよそれ。それこそ笑えない冗談だ。イイぜ。お前が勝ったら俺がお前の下僕にも何でもなってやるよ」
レオンから剣を貰い、レオンがフィールドから離れたのを見てからジュリアスに向かい合う。
「なんだ?構えないのかよ。お前から攻撃して来ても良いぜ!大見栄をきったんだ。実力を見せてくれよ」
ジュリアスは構えてから不敵に笑う。中央で戦いの合図がなる。
だから私はただ踏み込みジュリアスの首元に剣を当てる。剣を上に構えたジュリアスは動けずに居た。そして、闘技場もシーンとする。
「どうしたの?実力は貴方程度で見えたかしら?」
私は剣を下ろす。するとジュリアスは持っていた剣を落した。
「弱い奴と群れるのは好きじゃないでしたっけ?同感よ。自分の弱みを知らずして1人で勝手に動くコマなんて使えないものね。あぁ、貴方は強いんでしたね。でも、強いだけで最強にはなれませんわ。自分の弱みを知っているからハンデルン卿は最強なのよ。貴方の将来は蛮勇にでも目指しているのかしら?貴方はただ強いだけ。だから、私に負けるのよ」
ちょっとカッとなったけど後悔はない。それにジュリアスは攻略対象様だ。早めに対処していた方がいい。嫌われても構わない。
私は唖然としているハンデルン卿の元に戻った。
「申し訳ありません。お孫さんの自信を全て砕いてしまいました」
私の言葉にハッとしてハンデルン卿は話す。
「それだけの強さがあれば王国騎士と対峙できたんじゃなかろうか?」
「1対1ならば今の私でも出来る自信はあります。流石に騎士150人を超える人数を相手にすると魔術の使えない私には身が重いです。その上、私はまだ人を殺した事がないので躊躇してしまう可能性があり斬られて死んでいたと思います」
私の言葉にハンデルン卿はふむと考える。
「なるほど、クレア様は人を殺めた事がないのか。そして、人を殺める事を禁忌と感じている。貴族らしくないようじゃな。だからこそ、先の戦いで民を救ったのか」
何かを試すようにまた話し出す。
「私は私に出来る事をしただけです」
私はただ思った事を言葉にする。ハンデルン卿はふむと言い、また話す。
「そうか、人を殺める事を禁忌と感じるのは良い。人である証だ。じゃが戦では躊躇うではないぞ。互いに奪い合い場であるのだからな。それと魔術が使えないのもワシ以外に漏らすでないぞ。さて、ワシも満足したし、クレア様も屋敷に戻るかの」
そうハンデルン卿が私に声をかけると背後から声がかかる。
「待ってくれ!」
ジュリアスがフィールドから走ってきた。私は振り向き何だろうと首を傾げる。そして、近づいてきて第一声がコレだった。
「俺はお前に惚れた!俺をお前のモノにしてくれ!」
物凄く爽やかな笑顔で言うのだから私も唖然としてしまった。何故か犬を見ているような近親感を感じる。尻尾があったらふっていそうだ。なんて現実逃避をしても問題は解決しない。
……これって噂の俺様ワンコ様ですか?
いつもお読みいただきありがとうございます!
クレア嬢モテ期です!ですが安心して下さい!まだ10歳です!バッサリふります!




