64話 レオン 〆
家に着くと鎧を纏った騎士達が何人も居た。俺は何事かと思い、クーを守るように立つ。
騎士達も俺とクーを一瞬見たがすぐに視線を逸らした。
俺はクーと共に急いで家の中に入る。中では重い雰囲気の中で見覚えのあるお方とお父さん達が対面していた。お父さんは俺を見ずに話しかけてきた。
「レオンにクー、すまないが今話し中でな。リリィ、すまないが子供たちを連れて行ってくれないか?」
何故か対面している方々を警戒しているお父さん。何が起こっているのだろう。お母さんもやはり警戒していた。すると対面していた方が俺に声をかけてくる。
「……レオン君だったか。我々は君も一緒に居ても構わないぞ。気になるだろ?」
「お、俺は……」
この場の雰囲気に俺はたじろいでしまう。すぐにお母さんが俺達の側に来てくれた。
「騎士団長、まだ息子は騎士を目指している半ばです。今回の件に関わらせる気はありません」
そう、王国騎士の騎士団長が何故この様な田舎にいるのかが分からない。クーも顔を伏せて俺にしがみ付いているって事は顔見知りかもしれない。
「そうですか。我々としましても騎士としての要請を聞き入れて貰えず残念です。では私は忙しいのでこれに……て、そこの女性よ、顔を見せてくれないか?」
急にクーに声をかける。そして、ニヤリとする。
「いや、私の見間違いではないようだ。私は運が良いな。ここでレイナス家の令嬢を見つけるとはね。急遽予定変更だ。クレア様、我々とご同行を願いたい」
俺はクーの前に立ち、騎士団長と向き合う。話が分からないがクーを渡してはいけない気がする。
「クーをどうする気だ?」
「何もしないさ。ただ、平民達の騎士ごっこ達と仲が良いと聞く。クレア様が我々につけば、民達もまた我々を必要とする。なぁ、シリウスの息子よ、騎士とは何だ?騎士は本当に必要か?君はどう思う?」
騎士団長は緊迫した雰囲気の中で、試す様に聞いてきた。その問いの答えはクーと出会ってから決まった。
「俺はまだ騎士じゃない。だからこそ言える。そんなのは心構えであり騎士とは在り方だ。守りたいモノがあれば誰だってなれる。騎士を必要としているのはあんただろ?」
「あぁ、そうだな。私は騎士を必要としている。他の国では志願すれば騎士になれる。だがこの国は限られた血族が騎士になる。私はそれを誇りに思っていた。しかし、長い年月は人を腐らすのに丁度良い。騎士達も随分と腐敗している。外の騎士達を見ただろ?彼奴らは騎士であり騎士ではない。更に平民も混じっている。いつから騎士はまがい者が増え始めたのだ?だからこそ私は今回、全てを浄化する為に魔族と戦争をする。だからクレア様を必要としている」
「なんだと!何で争う必要があるんだよ!」
「戦争とはおこるモノではない。おこすものなのだよ。第二王子は何をしているか知っているか?」
何を急に言い出すんだ。俺は首を横に振る。
「新しい軍を作っている。それは剣を捨て、銃を使用した小隊だそうだ。そして、その志願者は皆平民だ。分かるか?第二王子から騎士と言う存在は随分前に捨てられていたのだ。故に我々は我々の武威を証明する為に功績が必要だ。だから、戦争を始める。それに守るはずの民は我々を裏切った。銃の性能を試す為に第二王子は平然と平民に我々の同志を殺害した。我々にも心がある。王国騎士は国に忠誠を誓ってはいるが捨て駒ではない。私は止まれない。さぁ、クレア様もご一緒に来て下さい」
騎士団長はニヤニヤしながら近づいてくる。するとお母さんが剣を出す。お父さんもいつの間にか構えていた。
「ハハ、構えたな!今より貴様等は王国騎士に刃向かった反逆者だ!ヤれ!」
お母さんの逃げなさいの言葉に俺は剣をつかんですぐにクーを連れて裏口に回った。裏口には数人の騎士が居たが俺たちの反応に遅れたのですぐに逃げだせた。とりあえず森の中に隠れよう。急いで走る。
「って!待ってレオン!まだ、リリィとシリウスが来てないよ!」
「お父さん達なら大丈夫だ!俺たちがそう信じないで誰が信じるんだよ!それにお母さんは逃げろと言った。ただ闇雲に逃げていた訳じゃない。あと少ししたら安全な場所があるんだ。そこでお母さん達を待つ」
そう伝えるとクーは力強く頷く。そして、しばらく走って湖がある場所に出た。そこで俺とクーはお母さん達を待つ。どれ位経ったかクーが話しかけてきた。
「ごめんね、また私の所為でこんな事になっちゃった。それに私はレイナス家の令嬢なの」
「クーの所為じゃない。あれは既に始まっていた。逆だ。俺たちのゴタゴタにクーを巻き込んでしまった。ごめんな。クーは全てを背負い込もうとするな。俺もいる。レイナス家の令嬢だろうがクレア様だろうが俺にとってはクーだよ。だから、守る。ただ、それだけだ」
「……ありがとう」
また2人の間に沈黙が続くが悪くない。しばらくして、お母さんがやって来た。しかし、腹部に傷がある。俺も急いで手当てをする。クーは一生懸命に何かを唱えているが何も起こらない。
「なんでよ、ニャルも反応しないし、呪文達も何で私の言う事を聞いてくれないの!リリィを助けてよ!」
どうやらクーは力を使えなくなっているみたいだ。お母さんはそんはクーに微笑む。
「クーちゃん良い?大丈夫よ、私は騎士だからそう簡単には死なないわ。それよりもレオンと共に隣の領のハンデルン卿のもとに行きなさい。そこでクーちゃん、いや、クレア様の助けになってくれます。私はここで騎士達を食い止めますので早く」
クーはイヤイヤとお母さんにしがみ付く。お母さんは頭を撫でると俺を見る。
「クレア様、私もシリウスも貴方様の力に貴方を守る事をお許し下さい。そして、貴方にこの剣を捧げます」
俺はクーを引き離し担いで急いで走る。少しすると騎士達の声が聞こえた。それに反応して、クーも暴れる。だけど、俺はただひたすら走った。しばらくして、クーの泣く声が聞こえ降ろす。降ろすとクーは思いっきり睨んできた。
「私守ってなんか言ってない!私も戦う!」
「戦えないクーを戦えさせないよ」
「なら、私も一緒に死ぬわ!」
感情のまま言っているのが分かった。
「それはクーの民も同じだろう!クーと共に戦いクーの大切な仲間もクーや仲間や知り合いを助けたくて死んだんだろ!たまたま、クーが死ななかっただけだ。生きたクーが死んだ奴らの為に生きなきゃどうする!」
「そんなの知らないわ!私はただ守りたかったの!」
売り言葉に買い言葉になってきている。俺は呼吸を整える。
「なぁ、お母さんもお父さんもクーになら誓えるって言っていた。騎士の誓いは飾りじゃないんだ。お父さんもクーを守る事、俺に任せた事、お父さんは騎士の誇りを持って今頃戦っている。負けるとしてもだ。なら俺は何をしたらいい?俺は無力だ。そんな俺にクーをクレア様を守るように言われたんだ。だから守る。それにクー、お前ならどうにかできるんだろう?お父さん達の覚悟を無駄にしないでくれよ」
「……ごめんなさい」
素直に聞き入れるクー。
「クーは本当は強い。強いし優しい。優しいから他人の為に傷つく。そんなクーを俺は守りたい。俺バカだからこんな事しか言えねぇけど本気だ。クーを傷つける者から俺が守ってやる。今はクーよりも弱いけど必ず強くなってもうクーが涙しないようにしてやる。だから、今は……今だけ流そう。俺もお父さんとお母さんの為の涙は今だけだ」
俺も涙が溢れてしまい、クーと共に涙していた。
とりあえずここまでがレオン君視点で正気に戻ったクーちゃんへと視点変えます。
いつもお読み頂きありがとうございます!




