63話 レオン
「レオン、今日は何処に行くの?」
「ちょっとクーに合わせたい奴らがいるんだ。俺ってバカだからクーに言葉で言っても伝わらない。だから、直接伝えたい」
不服そうなクーを連れて俺は村の外れにやってきた。ここは俺や村の子供達が大人の目から逃れる為の秘密の場である。
そこに俺はクーを連れて行った。
「こっちこっち〜!レオーン!隣の奴がレオンの知り合いのクー?うわぁ……貴族様みたいに綺麗だね。あ、あたしはレベッカって言うの。隣に居るのがネル、ゲラルド、アルにミーファだよ!まだマイケルが来てないけどって来た。おっそ〜い!」
そう言われると急いでやって来たマイケルはそっぽを向く。
「仕方ないじゃん。父ちゃんの仕事を手伝っていたんだからさ。抜け出すのに時間がかかったんだよ」
「マイケルも忙しい中来てくれてるし俺達は構わないよ。それよりさ、以前話していた煉獄の姫の噺を聞かせてやってくれないか?」
そう言うとピクッとクーは震え、俺の袖を掴む。
クーを救えるか分からない。けどクーには知ってほしい。クーがやった事の凄さを。
「うん!良いよ!私から話すね!」
そう言って、ワライクバと呼ばれる場所で民を束ね、見事に平民を救った話からクレア様について話し始める。
初めは怖がっていたクーだったが話を聞いていくにつれて震えは無くなったようだ。
話を聞き終えたクーは皆に聞く。
「ねぇ、その煉獄の姫って恨まれてないの?」
皆が不思議そうに逆に何でと聞く。
「民は確かに助かったけど沢山の死者も居るのよ。もっと上手く助けれたかもしれないじゃない」
そうクーは辛そうに言う。ちょっと内気のゲラルドが一歩前に立つ。
「僕は半年前まで王都に居たんだ。だけどあの時、お母さんとお父さんは僕を知り合いに預けて招集でワライクバに呼ばれた巻き込まれた。そして、お父さんは死んだ」
ゲラルドが話すとクーはぼそりとゴメンなさいと呟く。震える手を俺は握る。この話には続きがある。それを聞いて欲しかった 。
「帰ってきたお母さんから聞いたのは自ら前に立って民の為に戦ったクレア様の話なんだ。お父さんは確かに殺された。でも殺したのは魔物だ。クレア様が居なければ更に沢山の人が死んでいた。だから、感謝こそするけど恨む事はないよ。お母さんもクレア様の事を尊敬していたし、僕も会った事ないけどお母さんがレイナス領に住みたいって言っていたから僕もそこでお母さんを助けてくれた恩返しをしたい」
「それにね、あのケイサツベライがクレア様に忠誠を誓ったって聞いたの!だから、私もクレア様に忠誠を誓いたい!ここはレイナス領から反対のノルマンディー領だからクレア様には会えないんだけどね。私も冒険者になっていつか会いに行くのが夢なんだ」
ゲラルドの話に乗っかる様にレベッカも話し出す。ここにいる皆は煉獄の姫の事を本当に好きだ。
「その……本当に煉獄の姫は救えなかった事を許されるの?」
しかし、クーは皆の話を聞いても信じられないみたいだ。その反応に頬を膨らませ、レベッカは反論する。
「えー、意味が分からないよ。だってクレア様は自らの命をかけてまで救ってくれたのに助けれなかったからってクレア様が罰を受ける訳ないじゃない。それに貴族様だよ。クレア様が罰を受けるなら他にも沢山の貴族様が罰を受けなきゃいけなくなっちゃうよ?それにこの噺はケイサツベライの人達から聞いたから間違いないよ。ケイサツベライの人達は皆クレア様を尊敬しているもん」
クーはケイサツベライと言う言葉に反応した。何かを考える素振りをする。
「この噺ってケイサツベライの人達が流しているの?」
元気にレベッカは答える。レベッカはケイサツベライに憧れているからだ。騎士の息子の俺に剣を教えて欲しいと言ってくる位に本気だ。
「そうだよ!ケイサツベライの人達が本当にクレア様のおかげで助かった事実を皆に知って欲しいって平民達の間で流しているの。だから、クーもこの噺は貴族の人達に流しちゃダメだよ!レオンの知り合いだから教えたんだからね!でも、そもそも貴族様が私達の話をまともに聞いてくれる訳でもないけどね」
レベッカは最後は戯けてしーっと口に指を当てる。
そっかぁと呟くクーが救われたか分からない。だけど、この噺も本当はクーを救う為に流れた噺なのかもしれないと俺は思っている。だってこんなにもクーを讃える物語なのだから。俺には分からないほどクーは辛かっただろうし、責任を感じたんだと思う。だから救われた人達と共にクーも救われて欲しい。
それからはクーも自然と話せる様になった。その話の中で僅かだが笑顔も見れた。俺はクーの笑顔を見てやっぱり笑って欲しいと感じた。
俺もクーに出会えた事で曖昧だった強くなる事に意味を持つ事が出来そうだ。ただ、何かを守りたいと思うのは俺がやっぱり騎士の息子だって事だ。
みんなと別れて帰り道でクーが話しかけてきた。
「ねぇレオン。ありがとうね。今までふわふわと夢の中に居るみたいだった。でもね、あの話を聞いて目が覚めた気がする。レオンにはいつか私の事を聞いて欲しい」
クーを見ると切なそうに笑ってみせた。俺はそんな顔をして欲しくてみせた訳じゃない。好きな人には笑って欲しい。その笑顔を守りたい。
……あぁ、そうか。俺は初めてクーを見た時から一目惚れをしていたんだ。
だから、ずっとクーの事を気にかけていたのか。
それに俺は一方的にクーの事を知ってしまった。なら俺が言う言葉に限られている。
「無理せず伝えたい時に教えてくれればいい。もう俺達は家族みたいなもんだろ?だから俺は今のクーの力になりたい。辛くなったら俺だけじゃない。お母さんもお父さんもクーの力になるさ。もう、自分を責めるのを辞めよう」
俺がクーに伝えたかった事を今日で伝えた。するとクーが抱きつき、胸の中に埋まる。少し啜り泣く声が聞こえる。俺はどうして良いか分からず、頭を撫で続けた。
しばらくして、クーがポツリと言う。
「……なんだ。私の心はもう女だったんだ。レオンありがとう」
どう言う意味だろう?クーは女の子だろ?
「クー?どうしたの?」
胸から離れてクーは今度は綺麗に笑った。
「何でもな〜い。ふふ、レオンと会えて良かった」
俺もだとは恥ずかしくて言えない。俺はクーの事が好きだがクーがあのクレア様なら俺の恋は実らない。身分が違いすぎる。
「レオンは私より小っちゃいのにお兄ちゃんみたいだね」
「クーより年は2歳上だから当然だ。後5年もしないうちに俺だってクー以上に身長は高くなるに決まっている。クーが妹か。なら兄として俺がクーを守ってやるよ」
今はこの関係で良い。クーが笑い俺も笑う。この笑顔を見れるのなら今は好きとかそんなの関係なく側に居てやりたい。
だから、俺はクーを守る事を誓った。
いつもお読みいただきありがとうございます!
レオン君はクレア嬢のお兄ちゃん候補です。真面な男が居ないこの話で割と真面な男の子を考えていたので上手く書けれたか不安です。
次でレオン君の視点終了です。




