62話 レオン
あと、1〜2話レオン視点からクレア嬢に変わると思います。
クーの奴、なんで怒ったんだろう。女の気持ちはよく分からん。
夜になってもクーに謝るタイミングが合わずに就寝の時間を過ぎてしまった。この時間はもう俺は寝ているのだがクーに謝らなきゃ眠る気になれず、謝るか謝らないかで迷っていた。
「あーもー!俺は何をくよくよしているのだ!寝てなけりゃ謝って、寝てたら明日謝れば良いだけじゃん!行動あるのみだ!」
夜中に女の子の部屋に行くのは男としてどうかと思ったが謝らなきゃモヤモヤするし、早くすませよう。そう思ってクーの部屋の前に立つ。やはり、女の子の部屋ってだけでドキドキしてしまう。やっぱり戻るか。そう思った瞬間だった。ガタンと音が鳴る。
「ー助けて!ひぃっ!ごめんなさい!」
クーの悲痛な声が聞こえた。俺は何事かと思い部屋を開けると泣き噦るクーを見つけた。
「ヒック……ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい許してゴメンなさいヒック。ゴメンなさいゴメンなさい」
ただ、何もない空間に謝るクーに俺はなんて声をかけたら良いのかが分からない。なんでこんなにも辛そうなんだ?
「お願い助けて、許してヒック私を一人にしないでぇニャルはどこぉ?みんなが私を見ているよ。怖い誰か助けて、許してゴメンなさいゴメンなさい」
泣き噦るクーに呆然としていたら、いつの間にかお母さんが背後からやって来た。
「もう、大丈夫よ。私がついているから。辛かったね。おいで」
お母さんはそう言うとクーを背後から抱き締める。それでもクーは泣き噦るのは止まらない。
「リリィ、あのね、ユグルが死んだの。私がもっと強かったら死なずに済んだのに私の所為でユグルが死んだの。お父様も目を醒さないの。ずっと寝たままなの。私の力じゃ起きてくれないの。みんなが私を責めてくるよ。私が弱いから私が上手く助けれなかったから、怖いよリリィ」
「大丈夫よ、クレア様を責めようとしてる人は誰も居ないよ。居たら私が一緒に聞いてあげるわ。だから、安心してね。もう大丈夫だからね」
「ねぇ、私はどうやったら許してくれるの?心が痛いよ苦しいよ、人が怖いよ助けてリリィ、許してリリィ」
「私はクレア様を許しますよ。きっとユグルさんもクレア様の為に戦ったのだからクレア様もユグルさんを誇ってください。それに騎士の私がユグルさんを讃えます。だから今日も安心して下さい。皆が許してくれますよ」
「ほんとぉ?私を許してくれるの?私は許されるの?」
クーは縋る様にお母さんに抱きつく。
「大丈夫よ。私はクレア様の味方だよ。安心して寝て良いんだよ」
お母さんがそう言うとクーは泣き疲れたのか寝息を立て始める。
「レオン、何も言わず来なさい」
俺は静かに怒るお母さんに何も言えずについていった。居間に着くとお父さんが座っていた。
「そうか、レオンは見てしまったか」
お父さんは神妙な顔で言う。俺はお父さんとお母さんを見てさっきのクーの事を早く聞きたかった。
「……なぁ、さっきのは何だよ。お母さんはクーの事をクレア様って言っていたよな。クレア様ってまさかクーが煉獄の姫のクレア様なの?何でクレア様があんなー」
「黙りなさい」
聞いた事ないお母さんの冷たい声に俺はビビってしまう。
「レオン、物語の中だから幸せな結末なのよ。英雄だって人間なのよ。人間らしい苦悩と悩みがあったはず。物語って言うのは見なくていい部分は削られるし、本人ではなく他人から見た話なのよ。レオンにはどう見えた?」
確かに綺麗な話に俺は胸が躍った。だけど、さっきのクーを見て違うと思った。
「……苦しんでいた。噺の通りならなんで苦しんでんだよ!」
俺はクーの事を知らな過ぎる。さっきのクーの姿を思い出すと胸が苦しくなる。
「レオンが言っていたじゃない。クレア様は優しくて強いとね。クレア様は強いから一人で守ろうとしていた。優しいから守られる対象なのにクレア様は誰一人死んで欲しくなかったのよ。だから心が壊れた。ねぇ、貴族がなぜ、平民を人として見ないか分かる?」
貴族の事なんて分かる訳がない。威張ってばっかで関わりたくない。首を振る。
「貴族は私達以上に人の死を取り扱うからよ。だから、貴族は自分達以外は人ではないと正当化させて国を守るのよ。いや、自分達を人として定義していない。平和な国が続いているから今は歪に見えるけど本来はそうだったの。じゃないとクレア様の様に心が壊れてしまう。クレア様は夜になるとその時の事を毎夜思い出す。朝になると忘れているの」
「じゃお母さんはクーの事を知っていたの?」
「えぇ、初めての夜はびっくりしたわ。でもね、ゆっくりと話を聞いていたら何があったのか分かったし、守ってあげたいと思った。ねぇ、レオンもそう思ったのでしょう?だってレオンはクーちゃんを連れて来た時から好きなんだよね?見ていて分かるよ」
「なっ⁉︎そ、そんなんじゃねぇよ!確かにクーは綺麗だけど」
俺は急に変な事を言ってくるお母さんに文句を言う。
「まぁ良いわ。でもね、貴族も騎士も平民も人なのよ。王族もね。だから、悲しむ事もあれば喜ぶ事もある。クレア様も貴族であるけど1人の女の子でもあるのよ。レイナス領は騎士を持たないで有名だわ。なら誰がクレア様を守るのかしら?ねぇレオン、騎士とは何?貴方は何の為に強くなりたかったの?」
俺はこの村をただ守る騎士で終わると思っていた。村人達が話していたクレア様の話を聞いて、俺も勇敢な姫と共に国を守りたいと思ったからクレア様の隣に立てる様に強くなりたかった。でも、今ここにいるクーがクレア様なら俺はここ数ヶ月何を見ていたんだ。何かに怯え、でも強いのに更に強さを求め、寂しがっていた普通の女の子だ。笑いもすれば怒りもする。俺と変わらないじゃないか。勝手に理想と幻想を押しつけていた。クーを知らなかったら勝手に幻滅していたかもしれない。
なら今の俺は何の為に強くなりたかったのか?
「……俺はただ守りたい。クーが悲しむ顔を見たくない。クーにはもっと笑ってほしい。物語のクレア様ではなく、俺は本当のクーを守りたい」
そう言葉にするとお父さんが笑う。
「良い女を守るのは騎士じゃなくても男でもやる。もうお前も男に成ったんだな」
「何だよ。俺は男だぞ!」
俺はお父さんの言葉にムッとしてしまう。その姿を見てお父さんは更に笑う。
「はは、俺からしたらまだまだガキだがな。だがら、もっと一人前の男になれ。騎士である前に男としてクーを守ってあげなさい」
言われなくても分かっている。
「俺は騎士になるんだ。女の子1人守れないなら騎士にはなれないよ」
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