59話 ???
「……やっとだ。やっと全てが終わり全てが手に入る。長かった。実に長かったぞ」
ククッと笑う声が響き渡る。その笑いに同調するかの様に男は叫ぶ。
「エークセレント!!素晴らしい!自分の正義の為なら関係の無い者の犠牲も正義だと言う偽善な考えを平気で宣う彼等達を見て私は今、感動しております!やはり、殿下と行動していると人間の素晴らしい姿を沢山見れますね!いいです。いいですね!私は殿下の為に更に暗躍しましょう」
「ディオルグ伯爵よ、殿下の前では少しは落ち着いたらどうだ?」
生真面目そうな男は叫んでいる男ディオルグ伯爵に呆れる。
「よいよい、言わせておけ。此奴はちゃんと私が求める事を善悪関係なくやってくれた。多少の無礼なら許してやる。此奴の褒美にすれば良い」
そうですかと生真面目そうな男は殿下の言葉を受け引き下がる。
「宰相殿よ、其方もこの人間の素晴らしい感情を見て楽しいとは思わないか?正義だの忠誠だの慈愛だの言っているがやっている事は悪ではないか!国の為と偽り自身の利益で動く。あぁ、素晴らしい。人間はそうでなくてはな!」
宰相は深く溜息をつく。
「物事は悪と善に別れている。そして、始まりは互いに悪であり善だ。それより終わった後をどう善に変えるかが重要だ。彼等の建前やきっかけ、行動に我々には興味もなければ関係ない。関係するのが終わった後にどう結末に出来るかだ」
「宰相殿とはやはり、気が合いませんな!しかし、それもまたイイではないですかね!だからこそ、素晴らしい出来事を作る事が出来るのです!ハハハ!さて、どう言う結末に終わるかが楽しみですね!」
「私はこの国を手に入れる事が出来ればそれだけで良い。父上も兄上にも私がスペアだと言わせない。私の方が兄上より優れているのだ。何故私が認められない。なら私が私を認めれば良いだけだ。この国を手に入れて私は私と言う存在を認めさせる」
憎しみの籠った言葉が殿下から漏れ、ディオルグ伯爵はニンマリと殿下の言葉を聞き入れる。
「私ディオルグは殿下の為なら何でもしましょう。任せて下さいませ!それよりも陛下が遂にお亡くなりになられたそうです。役立たずのエンドリックの所為で陛下を侯爵家に奪われた時はどうしようと思っていたのですがね」
「エンドリックは始末したのだろう。新しい司祭を侯爵家に向かわせ亡骸を貰って来い。侯爵家には父上を奪っておきながら救えなかった罪で死罪と伝えよ。今回で邪魔な侯爵家が2つも潰れる事になるとはな」
一人難しい顔をしている宰相はふと言葉にする。
「果たして、今回は上手くいくのか?」
殿下は怪訝な顔つきになる。
「それはどう言う意味だ?」
宰相はそうですねと言う。
「今回にも何故か不安要素にクレア・ライナスがいます。彼女の所為でワライクバの件は我々が求めていた結末と変わりました」
そう言うと殿下はふむと顔を怪訝にする。
「あの女はそれ程キレるのか?私が知る限り顔だけのバカな女だと思っていたが」
宰相は少し考える素振りをする。
「そうですね、数ヶ月前にはレイナス家は陥落出来たはずですが中々出来ないのは内部に欲深き者をアレだけ送ったのですが上手く行かず、使用人にキレる者が居るからだと思っていたのですがワライクバの内容を聞くと彼女も我々の邪魔になるかもしれません」
「民寄りの貴族の真似事か。顔は良いから飼ってやろうかと思っていたが邪魔になりそうなら始末するのも視野に入れて行動するとしよう。それに前回も別に我々の計画の邪魔にはならなかったのだ。そこまで警戒するだけ無駄であろう」
殿下の言葉が終わると三人の集まりは解散する。
二人の気配がなくなってから動かなかった宰相が口にする。
「互いに利用し合うのは貴族として正しい在り方。やっている事も然り。だが人としての在り方とは私は違うと断言する。なら辞めればよいだろう。だが、私は生まれてからずっとこの貴族としての生き方しか知らぬ。ならば、私は何が正しいのだろうか?クレア・ライナス、其方の生き方は歪だ。貴族でありながら貴族でない。枠に入らない。在り方が違う。私もその様な生き方が出来ていたのならば私は違ったのだろう。だが、もう気づくのか遅すきた。私は私の復讐を果たすだけだ。我々の互いの利益の結果全てが叶う先に何があるのだろうか?見届けよう」
宰相は静かに笑う。
次の視点は次の章の語り手の少年です!




