49話
屋敷の中に入り、あの視線から逃れた私は未だに嫌悪感に苛まれていた。
仕方ない。
振りまく塩も無いし、前世の記憶から引き出してでも何かやらないと気分が悪い。
周りに誰も居ないことを確認すると下から拾う動作を3回やり、その拾いあげる時にマブヤーと呟くのを忘れない。
「……お嬢様?何をしているのですか?」
しまった!
周りを見渡しても誰も居ないと思ったらメリルが居た。
「コレはびっくりした時などにするおまじないみたいなものでして……それより、メリルが私に伝えたい事があると聞いたから来たのです。どうなさいましたか?」
恥ずかしかったので話を無理やり変えた。
メリルも察したのか頷く。
「ココでは話せませんので旦那様の書籍へ行きましょう」
私はメリルに着いて行く。
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「お嬢様に報告があります。昨日、ユンファが殺されていました。これは第2王子派の仕業です。そのおかげでギルドマスターも動きやすくなったでしょう。しかし、ここからが問題なのです。ワライクバの領地から人が逃げ出せなくなりました」
ん?どういう事だろう。
「何故です?」
「ワライクバの周辺で魔物が溢れかえっているのです。しかも中に入る者には攻撃を仕掛けませんがそこから出ていく者は容赦なく殺されています。ギルドマスターはその件でワライクバに行かなくてはならなくなりました。後人はまだ信用ある方が引き継ぐので大丈夫ですがコレは第2王子派の邪魔になる者を中心に有能な平民や反乱要素の者を集め旦那様に始末させるのが目的だと判断しております。今回の件は非常に危険だと思われます。ですからお嬢様は絶対に行かないでください」
メリルは相変わらず無表情だが言葉には心配しているのが伝わる。
「ありがとうね、メリル。以前ならきっとそう言われてなかったわね。それに私は第2王子派のやり方が気に入らないわ。平民もまた一生懸命に生きています。それを簡単に奪うのは違う気がします。誰も手を差し伸べないのなら私が差し伸ばせいいでしょう?お父様を止め方はまだ見つけてませんが指を咥えて待っているのはしょうに合わないですわ」
メリルは少し俯き沈黙する。
何かの決心したのか顔を上げ話す。
「今回は私も付いて行きます。お嬢様にもしもの事があったらいけません」
私はメリルの言葉につい、顔を綻ばせる。
「本当にありがとう。メリルは中立で協力はしてくれても誰にも付かないと思っていたのに私を心配してくれて嬉しいわ。でも、私はメリルにお願いするわ。私達が留守の間、この屋敷と使用人達、領地を守って欲しいわ。それはメリルにしかお願いできません」
メリルは何か言いたそうだったが私の言葉に頷く。
「ですが、メリルには色々と今の内に聞いてよいでしょうか?私は貴族としての常識が抜けてますので理解出来ない事があります」
「私に聞きたい事でしょうか?」
「えぇ、本当に聞かなきゃいけない事は沢山ありますが粛清についてです。粛清とはどの様に行われるのか知りません。それをどう止めようか検討もつきません」
メリルは少し考えている。
「今回は領地内での粛清で沢山の者が対象になりますので土還の儀だと推測できます」
土還の儀?
初めて聞く単語に首を傾げる。
「文字の如く対象者を土へ還すのです。そうする事により大規模の粛清をこの国は行ってます。なのでギーベの館に皆が集まるでしょう。この粛清はギーベの場にある物を軸に発動する大規模魔法であります。そして旦那様しか発動できません」
「本当に皆が集まるでしょうか?魔物が居ても隠れたり土還の儀の届かない範囲へ逃げ出せばよいではないですか?」
メリルは首を横に振る。
「今回の対象者はワライクバにいる平民です。なのでワライクバ全域が死に場です。発動すると共に力のない平民はすぐに消えます。力があっても無駄でしょう。苦しむ時間が増えるだけです。回避するには領主権限の魔術の理を渡されている者だけです。それは貴族のみという事であります」
何その粛清怖いんですけど。
逃げ出せなくて逃げ場もないのなら慈悲を求めお父様の元へ向かうしかないですね。
ですが、お父様は慈悲を与えないでしょう。
その場で説得出来るのなんて無理でしょう。
そんなのは御都合主義の物語なんて現実にはない。
しかし、それすら頼りたくなる現状。
「大規模魔法ですか。恐ろしいですわね。儀式の妨害をしても良い結末には無理でしょう。何か良い手立てはやはりないですわね」
私も考えるが思いつかない。
「そうですね。でしたらお嬢様が慈悲を唱えるのはいかがでしょうか?」
メリルと唸っていると急に話す。
「私の慈悲ですか?物事を感情で動かせるのは御都合主義だと私は思っていたのですが」
「そうです。大変失礼ですがお嬢様は我儘で世間を通っております。それを利用するのです。粛清を求められているのは公爵家の面子の為でありますので本来なら曲げれませんがお嬢様がその場で説得をする事で多少は変わる可能性はあります。旦那様とお嬢様が対立する事で粛清が難なく終えてもお嬢様はご慈悲を差し伸べていた事実が残るので平民にはその話が伝わるでしょう」
つまり保険って事かな?
しかし、何も浮かばない現状ではその手しかないので反対する事もない。
「そうですわね。それと領主権限の魔術の理がないと土還の儀に巻き込まれると考えて良いのかしら?」
「はい、そもそも土還の儀とはヨルムンガンドへの生け贄なのです。前話した通り、魔力を捧げ、ヨルムンガンドへ与える事により土地は繁栄します。それを生命力を捧げることでよりヨルムンガンドはその土地に富を与えるでしょう。しかし、多量の命が奪われます。なのでこのやり方は禁止になり、粛清との形で今は受け継がれております。ただ、生かしておきたい命を領主権限の魔術の理を与える事によりヨルムンガンドはその命を奪いません」
成る程、私は現地に行ったらその魔術を求めなきゃ死ぬ事になるようね。
そう言えば、ケイト達はあのウサギを使って当日に移動するって言っていたわね。
「少しは纏まってきたわ。粛清は免れないのなら少しは罪のない方を減らせるようにしますわ」
メリルも頷いてくれた。
「では、私も離れへ戻りますわ」
話を終えたと思い帰ろうとするとメリルに止められる。
「お嬢様、これは別件ですがディオール伯爵には気を付けてください」
ディオール伯爵?
あの気持ち悪い方か。
どうしてなんだろう?
「あの方はかなり女遊びが激しいのです。しかし、友好関係は凄く広く厄介です」
前世でもそう言うのいたねと頭に過る。
沢山女遊びしているチャラ男だけど友は多く一緒に遊ぶ分には楽しいって奴だ。
「理解しましたわ。確かに危険なタイプですね。気を付けてます」
「それがおかしな噂を聞きまして、まだ信用出来ない情報ですが第2王子に付いたのは宰相の立場を貰えるからではなくお嬢様を報酬についたと聞いてます。なので気を付けてください」
「……分かりましたわ。では戻ります」
あの視線はまさかね。
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