43話
お父様と使用人の件から何故か親子喧嘩になり落ち込んで離れに戻った私はやる気も起こらず、お父様の言葉を考えていた。
お父様は民をどうも思っていないどころか恨んでいる様にも感じた。だが、お母様の話でその考えが吹っ飛んでしまい、言い合いになり逃げてしまった。あのまま逃げた事は反省です。
謝る?う〜ん、お母様の発言でお父様に謝りたいとは思わない。しかし、不本意に仲が悪くなるのも嫌だな。
「クレア様、もう夕方になりますがご飯どうされます?今回は私が作りましょうか?」
もうそんなに時間が経っていたようだ。
「お願いしても良いかしら?私、昼間にちょっとした行き違いがありましたのでまた屋敷に戻り、正してきます」
うん、やっぱりウダウダ考えているのは私らしくない。
今まで行動してきたのだから今回も感じたままに動くのみ。
「はい、いってらっしゃいませ」
マリーは笑顔で見送ってくれた。
私はお父様に会う為にまた屋敷に戻るとお父様へ訪問者がいる様だ。屋敷の使用人達がせっせと動いていた。
お父様と訪問者は少し前なら話し合いをしている様で私も話が終わるのを待った。
しばらく、待っていたら訪問者が出てきたようだ。
私は訪問者からは見れない場所でお父様を待っていたが訪問者を見て思わず隠れてしまった。
お父様に会いに来た訪問者は第2王子派のサンベルタン伯爵とユウラナス伯爵、ユンケル子爵だった。
ワライクバ襲撃実行犯の主犯格が何故この場に居るのか理解が出来ない。
私はそのまま、すぅっとこの場所から離れた。
「クレア様、お帰りなさいませ。ご飯出来ております。すぐに食べますか?」
離れに戻るとマリーが笑顔で迎えてくれた。
うん、やっぱり癒されるね。
気を取り直してマリーに答える。
「着替えたらすぐに食べるわ」
あの訪問者の件は時期に分かるだろう。今はご飯を食べよう。
朝になり、昨日の件が気になるが何も出来ないでいるとメリルがやってきた。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「昨日の訪問者の件ではなさそうね」
「はい、昨日とは別件だと思われます」
「そう、メリルは昨日の話し合いの内容は知ってるのかしら?」
メリルは少し間をおいて話してくれた。
「昨日の話し合いは旦那様の意向で私は不参加でしたので知らない事になっております」
「そう、なら私もメリルからは聞いてないわ。ただ、どこからか耳にしたって事ね」
「そうですね。ワライクバ襲撃に旦那様が一緒に参加される手配になっているのもお嬢様は聞いてますものね」
……え?お父様を彼奴等は巻き込んだの?
「えぇ、しかと聞きました。お父様を巻き込むとはどう言う了見でしょうね?」
「恐らく合法的にワライクバを粛清していた所を襲撃される予定になると思われます。旦那様は襲撃には参加しないので彼等が正当化出来る理由付けに旦那様が扱われるようです」
「その話が本当なら不愉快だわ」
「はい、旦那様は何度も同じように使われアリバイ作りに加担されています。アレだけ露骨なので旦那様も気づいているとは思われますが無言でございます。あの様なモノに何も言わずに従うには何か裏があるのでしょうね」
「王子の支援って事かしら?ですがお父様のやる事を中止させれたら襲撃も不発に終わるかもしれませんね」
私は怒りで黒い笑顔を貼り付ける。
「私も少し探りを入れてみます」
私はお願いと言うとそのまま、お父様の所に向かった。
お父様の執務室の前でコンコンとノックをすると扉が開く。
中に入ると使用人とお父様が居た。
使用人は私が入るとこの部屋から出て行き私とお父様だけの空間になる。
「クレア、帰ってきてそうそうだが、私はまた仕事に行かなければならなくなる」
私は眉をあげてしまう。
「今度はどこに行くのです?」
「あぁ、ワライクバの民を粛清だ」
私はワザとらしく驚く。
「まぁ、急にどうしてですの?民の為にお父様が動く事ですの?」
お父様は少し溜息をつく。
「その通りだ。だが、ワライクバの民に貴族殺しの罪が疑われている。いや、既に偽造ではない証拠があるので私が出向かわなければならぬ」
私はお父様の言葉を聞き、びっくりする。
「証拠?何をしたのです?」
お父様は何かを言おうと躊躇う。
「……お父様?」
お父様は私をしっかり見つめ躊躇った言葉を出す。
「キャサリーを殺害した本人だ」
その言葉を聞いて私は頭の中が真っ白になってしまった。
「元々はここの使用人でキャサリーが死んでから数ヶ月と経たない内に退職して、ワライクバへ逃げていた。それを昨日来たサンベルタン伯爵から聞かされた。プーリアから流された使用人の情報から彼等はここ数日前にライナスの実家に問い合わせ、話を割らせ私に話を持ってきた。ライナスの実家は今はサーヴァントギルドと第2王子派に睨まれている。今朝方に彼奴の実家から引き渡し要請が来ている。自分達は必ず粛清は免れないから原因となったライナスだけでも自分達の手で仕留めないと気が済まないのだろう。その事を伝えたら顔を真っ青にしていたな」
私の知らない所で色々と動いている。いや、数年前から色々と動いている。だから、私に悟られずに一手を打つ。
これは第2王子じゃなくきっと宰相だと思う。
原作での第2王子は良い意味でハッキリしていた。
この様なまどろっこしいやり方は宰相のはずだ。
やはり、証拠を見せず、分からず、正体を晒さない。
彼をあぶり出すにはまだ後だ。第2王子の口から聞くしかないのか。
「お父様、理解しました。公爵家としての粛清ですね」
「そうだ。そして、匿っていたワライクバの民は全て処刑となる。なので何万の民の入れ替えが必要だな」
……はい?今何て言ったの?
「お父様、聞き間違えかしら?今何万の民の命が無くなる話に変わった気がしますが」
「何を言っておる。その様に話している。既に貴族達からはこの話が出回ってしまった以上公爵家として見せしめをしないと面子が立たん。それに他の貴族達はそれを望んでいる。第2王子派はその為に色々と手を貸してくれた」
……これは私の所為なの?
私が使用人達を助けようとしたから知らない民が殺されようとしている。
私は、私はいったい……
「気分が優れないようだな、クレア。もう休みなさい」
「……ゃです……」
「む?なんだ?聞き取れないぞ?」
「嫌です!民を沢山殺すのは嫌です!納得いきません!」
私は思わず叫んでしまう。
「まだ分からぬよな。これが貴族と言うモノだ。覚えておくが良い。色々と柵が巻き付き、理屈や情では何も出来ん。醜悪な事を嫌うのに醜悪な生き様だ。貴族と名乗る者にどれだけの者が自分が正しい事と思った事を成せずにいるか。クレアもいずれ受け入れる時が来る。乗り越えなさい」
「嫌です!それなら私は公爵家として生きたくありません!私は私は……」
「それ以上言うではない。そうなりたくないのならクレアの信じる道を進みなさい。柵を物ともせず醜悪から懸け離れた生き様を見つけなさい。だがな、私はそんなモノは知らぬがな。私は貴族として生きすぎた。ただそれだけだ」
「……お父様」
「やはりクレアはキャサリーに似ておる。もう私からクレアに言う事はない。好きにするが良い。私は何も関与せぬ。さっさと離れへ戻りなさい」
お父様は疲れた感じだった。
「私はお父様が民を殺すのなら私は民を守ります。納得いきません。それだけです」
「クレアよ。人を殺めるのは何時だって人だ。覚えておくが良い。魔物ばかりに気を取られると痛い目に合うのだよ」
お父様の最後の言葉が何故か胸に刺さり、悲しくなった。
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