41話
「クレアよ、再度言い渡す。其方は離れと隔離だ」
そう言われた私は不機嫌だ。
「お父様、何故でしょう?出会い頭にそのような理由も伝えずに言われましても納得いきません」
私がそう答えるとお父様が目を見開くのが分かる。
あっ、普通に反論しちゃったけど今までのクレア嬢なら駄々捏ねるだけだった。
でも取り繕うよりやり過ごす方が良いと思う。
「お父様、使用人の件であれば私は貴族として秩序ある行動をしたと思います。何故、ダメだったのか教えて頂けないと私にはわかりません」
今まで我儘放題だった奴が何を言うって感じだがスルーだ。
先程、お父様が帰って来たと聞いて顔を出したら出会い頭に謹慎を言われたのだ。
離れにいる事は都合が良いが釈然としない。
「そうではない。使用人の件は後で聞こう。だが婚約者に私が居ない間に会いに行くとはどう言う事だ?そんなのは結婚するまで許さんぞ!今後第2王子にこちらからの接触は許さん!」
お父様への報告では第2王子と密会扱いだっけ?それで怒っているのか。
なら仕方ないかな。
「はい、この件は申し訳ありません。ですがやるべき事がありましたので仕方なく連絡致しました。今後はお父様の言う通りにします」
「そうしなさい。良いか?婚約者だからと言って男に会うのは許さん。再度言うぞ。男と会うのは許さん」
何だかここまで怒ったお父様を見るのは初めてだと思う。
怖くて泣きそうになる。いや、涙が溜まってきた。
だってイケメンパパじゃなくダンディなパパですからね。
どちらかと言うと厳ついのですよ。
そんなお父様に今まで怒られた記憶のない私としては耐性もなく怒鳴られたらカチンと固まったまま、泣かない様に涙を貯める事しか出来ません。
お父様も言い過ぎたと思ったのか少したじろぐ。
「うむ、クレアは反省したのだろう?ならこの話は終わりだ」
私は涙が溢れないように我慢する。
「そうだ。久々の再会だ。今回もお小遣いを渡そう。今回は少し多く渡しておくので好きな物を買いなさい」
そう言うとお父様は近くの使用人に袋を持って来させる。
そんな物で釣って泣き止まそうだなんて私は釣れませんよ!
「クレアの好きな洋服を買ってくるが良いぞ。領地の運営の様子を確認してくる。何かあったらすぐに言いなさい」
使用人から受け取った袋がやたら重たくてびっくりする。
いや、重たいので地面に置いた。
私が目をまんまるとしている中、お父様は家に入っていく。
私は使用人に袋を持たせて離れへと向かう。
玄関前で袋を貰い、使用人を屋敷へ帰す。
部屋に入り、暖炉の部屋に掃除をしているマリーが居たので袋を運ぶのを手伝って貰う。
マリーも目を丸くしながら一緒に袋を持ってもらった。
「これ、私のお小遣いらしいのだけど中身を一緒に確認しても良いかしら?」
「これ……お小遣いの範疇なんでしょうか?金貨が何枚いや何百枚入っているのでしょう?凄く気になりますが怖いです」
そして、袋の中身を確認し、唖然とした。
金貨が何百いや、下手したら何千とあるのを見てびっくりした。
マリーと口を開けたまま見つめ合ってしまった。
午後を回り、私はメリルを探す。探す時に限って中々見つからない。
しばらく、屋敷の中を探すとシャルが居場所を教えてくれた。
「お嬢様?どうなされましたか?」
私がメリルと会ってすぐに言われた言葉だ。
すぐに私が何か聞きたいのか分かったのだろう。
私はメリルに尋ねる。
「今日ですね、お父様にお小遣いを頂いたのですが金額の桁が違うのですがどっから出たお金かご存知ですか?」
私は領地運営のお金だったらすぐに返したい。
「それでしたら旦那様への仕事の依頼代だと思われます。領地の運営は今は私が管理しながらエヴァに任せてますので心配なさらないで下さい」
私はホッとするがもう一つ疑問が出た。
「お父様はいつも何をしているのです?」
メリルは首をこてんと傾げ答える。
「それは公爵家としての国の視察と見回りでしょう。なので我々のような使用人が旦那様不在の際、領地を管理させて頂いてます」
そういや、使用人達の仕事って知らないや。
メリルやエヴァが有能であるって事だけ分かってはいるけど、どう有能は分かってない。でも問題ないし良いか。
私の中で自己完結する。
「そうなのね。納得しました。金貨が千枚近くあったのでびっくりしましたが公爵のお仕事であればその位は出るのですね」
毎回、その様な額を貰っていたなら私にあれこれしてくれるはずだ。
だが、私の言葉に表情をあまり変えないメリルに口をぽかーんとさせる事に成功した。
「……本当に旦那様から金貨が千枚近くですか?」
「そうよ、数なんて数えていないから大体だけどね。金貨が沢山あったわ」
メリルは何か考えているようだ。
「……まさかですが、毎回この様な額のお小遣いを頂いていたのですか?」
クレア嬢の記憶にはない。
と言うより金貨の価値など理解していなかったから仕方ない。
「今回はなぜか沢山貰ったの。貰った桁が全然違う。現物のプレゼントを除いたら今回が最高額……だと思う」
うん、自信がない。でもこんな金貨の数見た事ないからそうであると思う。
「申し上げ難いのですが金額が人を狂わせ惑わす額だと思われます。その様なやり取りを続けますとお嬢様の教育上悪いと思われます」
分かっている。この様な事が続いたから我儘放題しても許されると思い込んだのかもしれない。
「それは十分に嫌ってほど私自身が理解していますわ」
本当に痛いほどね。
メリルは私の言葉に重みを感じたのか私へはこれ以上何も言ってこなかった。
「気をつけて下さい。私はお嬢様の今の性格は気に入ってますので変化されると悲しいです」
メリルさんはデレましたか?
マリー姉妹にメリルまで入ったらハーレムだね!
でもこの無表情にもデレの感情があるのか?分からぬ。
「ありがとうね。私は私だから変化はしないわ。この金額も使い道を誤れば私は崩れるかもしれないけどこれを資金と考え私は目標を作り、活用する事で私は私でいるから安心しなさい」
そうだ。これを活用資金にしたら皆にも分けれるし問題ない。
「資金……ですか?お嬢様は何をされているのです?」
ん?エルザは何も言ってないのかな?互いに協力って訳じゃないのかな?
「エルザを雇う為とかお金はあったらあった分だけいいでしょ?その資金です。それに私はお金で買えるものならほとんど持っていると思うわ。だから、お金に狂ったり惑わされてこのような性格になったのでしょうね」
私はメリルを信用してない訳じゃないが全てを教える必要もないと判断してはぐらかす。メリルも気づいているだろう。
「ならお嬢様は更にお金を集めて下さいませ。お嬢様がこの性格を維持できるようにです」
冗談を冗談で返してくれるメリルとのやり取りも大分好きになってきた。
相変わらず無表情だけどね。
「でも公爵家の公務ってなんでしょうか?私はまだ知らされてません」
メリルはハイと答える。
「その前にこの国の成り立ちはご存知ですよね?」
「神から貰ったのでしたっけ?本当かどうかマユツバものですね」
「本当は神へ成り上がったモノから貰ったが正解です」
私はメリルの言葉に目を見開いた。そして、以前の言葉を思い出す。
「ねぇ、確か前に魔物も神力を得たら神獣になるって言ってましたよね?」
メリルが少し笑った気がする。
「察しが良くて助かります。ならもう私がお話したい事は分かったと思いますがこれは本当に神から戴いた土地に国を築いたのです。この国に存在する神に近い存在は元は魔物、名はヨルムンガンドと言います。蛇の魔物ですが龍に似ており人がドラゴンと勘違いしたのがこの国の名の由来です。魔力土地と呼ばれる場所はその様な存在が自ら封印して安らいでます。その弾みに土地が豊かになってます。王とはヨルムンガンドに認められた人の末裔であり、ヨルムンガンドを利用する事を許された英雄です。血が契約となり、証であります。どの国も王族とは血により様々な契約をしたモノの末裔だと認識しても良いです。お嬢様もその血が流れてますのでご自身の在り方を考えても良いかと思われます」
メリルは私に少し軟らかな表情を見せる。
「そうね、私にそんな利用価値があるとは思ってなかったわ。でも私はやっぱり自分自身の為に生きるわ。だから私を利用するのは私だけで十分。第2王子にも私は利用させない。何となく王族の仕事は理解したわ。その神に仕えるのが王族なのね」
神のご機嫌取りか。そりゃ王族が必要だよね。
なら領地は人の管轄であるから貴族に恩を売る為などの理由で王族は貸しているのだろう。
「では話を戻りましょう。公爵家の公務は簡単に説明しましたら王族の人側への補佐です。領地内で問題が解決出来なくなると国が介入しないといけなくなります。ここ数年で王が病に倒れ、王の弟でもある旦那様が代わりをやっております。王子達は互いに相続荒そいで公務が疎かになっています。それは意図的かどうかは置いといてです。なので旦那様は色々とやっております」
「分かりやすくありがとうね。魔物退治や領地の運営の管理って所ね。領地の運営はできないでしょうが魔物退治ならお父様は得意そうなので理解できます」
「そうです。その土地で手に余る魔物を退治するのが旦那様です。なので依頼代は高いはずです。ですがそれを全てお嬢様に渡していたとは知りませんでした。以前は領地運営の資金にも当てていたようです」
「分かった。私も無駄遣いはしないはずよ。さて、私は離れへ戻るわ」
メリルに別れを告げようとした瞬間、シャルが慌ててくる。
「メリルさん!お嬢様も!大変です!ライナスさん達が牢を抜け出して旦那様に会いに行きました!」
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