33話
明日も仕事……だと!?
今回も長かったので次も話し合い(´・ω・`)
「初めまして、私はアルノー・サファト・ルノワールです」
中に入り簡単な挨拶から始まる。
貴族らしいネチネチした嫌味も混ぜられるかと思ったが紳士的にアルノー殿下は接してくれた。
元々、甘いフェイスで優しさが取り柄の困った顔が似合い守りたくなるで原作でも人気を集めたのだからこれで腹黒かったりしたら私は詰む。
「どうもご存知だと思いますがクレア・レイナスです。本日しか会う機会が無かったので殿下にお会いでき、感謝しております」
私が微笑むとアルノー殿下も微笑む。
私が前世を思い出さなかったらこの甘いフェイスに引っかかってもおかしくなかったはずだ。
だが、私は前世の知識でこの第1王子を知っている。
甘い考えで優柔不断で政治には向かない。困った顔で守りたくなる?いやいや、そのせいで物語の後半には出てこなくなる使用人達など沢山居てスタッフが内密に処理しましたってネタが出来るほどだ。
エンディングで主人公が毎日が多忙だと語り始める。王の補佐として印を押しいそいそと仕事をしながら語るシーンがあるのだがこのアルノーは窓辺で優雅に紅茶を飲んでいるのだ。
その後、シーンが変わると主人公を後ろから抱き締めるシーンへと変わるが前世での感想はなんだこの男仕事しろだったようだ。
主人公が健気にアルノーに尽くすエンドは女の子にキュンキュンする要素があるらしく私も頼られたいとか守ってあげたいなんで言われていたがそれは妄想事だから言えるのであって、現実に居たら凄い爆弾だと思う。現にこの王子崖っ淵だし。
ヘタレでヒモ王子を味方にするのは少々勇気がいるが使えるものは使わないと損だ。
それに攻略人物だからと関わらなければ今死ぬ事になるのは目に見えている。
もう、このヒモの呼び方はアルノーでいいや。
それにしても優雅に紅茶を飲みながら世間話をする姿は似合っている。
私は相打ちをうちながらそんな事を考える。
周りの使用人達もアルノーの姿を見て顔が緩んでいるように見える。
うん、鑑賞用だな。
それにしてもアルノーには人脈がなさそうと思ったが使用人達には好かれているみたいだ。
確かまだ成人した位だよね?
政治ではなく人徳で信頼を得るタイプなのだろう。
ちゃんとアルノーに有利な人材を中心にこの場にいるけど鼠が混じっているわね。
そこはちゃんとアルノー自身がやらなきゃダメだと思う。
女性に守られたり、場を揃えてもらうなんてヒモと変わらない。ヒモ王子め。
いや、働けニート殿下よ!
「クレア?どうしましたか?」
思ったより深く考えていたようでアルノーに相打ちを忘れていた。
私は周りを見渡しにっこり言う。
「あまりにつまらないお話だったので頭の中で面白かった話を思い出してアルノー殿下に愛想笑いを作ろうとしていた所ですわ」
アルノーが引きつるのが分かる。それに合わせて周りの使用人達から侮辱されて怒りを感じられるのが4人、私の言葉に笑ったのが2人、無反応が2人だ。
「……それはすまなかった。君とは初対面で君の好きそうなお話が分からなくてね」
私はワザと身体を伸ばす。
その姿にアルノーはびっくりする。
「ごめんなさい。少し窮屈だったので眠気を覚ます為に身体を伸ばしましたわ」
まだまだ落ち着きのない我儘な子供のようにアルノーを無視して後ろを向きソファから顔を出しマリーを手招きする。マリーは私に呼ばれてちょこちょこ来る。
「マリー、もう少し話が長そうなので隣で座って待機してなさい。護衛達は周りの怖い人達から私を守って下さいね?ふふ」
私は楽しいって感じに笑う。
マリーを座らせると使用人達も不味いと思ったのだろう。唖然としているアルノーの代わりに何かを話そうとするが私は遮る。
「アルノー殿下、非公式だから私の好き勝手にしてもいいでしょう?」
おどおどアルノーは周りを見渡す。するとここまで案内をしてくれた使用人が見兼ねて私に話しかけてきた。
「クレア様、流石にアルノー殿下への失礼やマナー違反ではありませんか?」
遠回しに侮辱罪だと言えばいいのにね。だけど公爵家だからとかではなく、ここまでされても何もしない、いや、何も出来ないと見るべきだろう。これは思った以上に深刻だね。
「何が失礼ですの?私は最近の領地の事を話しに来たのに自身のお話をして、まるで自分じゃお話出来ないからお話出来る方が来るまで待っているみたいじゃありませんの?それにマナーなんて私が合わせるのではなくて私がマナーなの。だって非公式だから楽にして何が悪いのです?あっ、このスコーンあまり美味しくないわ。作り直して頂戴。クッキーも焼いて欲しいわね。そこの貴方、良いかしら」
私の後ろで護衛の隣で待機していた短めの髪の使用人に話しかける。
話しかけられると思っていなかったらしく声が裏返っていた。
「何だか不安ですわね。そこの貴方も付いて行きなさい」
ロングの髪の使用人も声をかける。
この2人は笑った使用人だ。第2王子からの監視だろう。
ロングの髪の使用人は私の言葉に反論する。
「それでは殿下の護りが少なくなりますので私はここに残ります」
私とアルノーが何かしないかの監視のくせに何を言う。
「そうですの?私は出来上がるまでこれから寝ます。貴方も隣にきます?不躾な視線で見てくる使用人から私を守ってね?」
ロングの髪の使用人は顔を引きつる。彼女も第2王子派の使用人なのだろう。初めから気まずそうにしていたからね。
互いに牽制し合っているようだ。
「なら護衛のユグルとサリーを付けるわ。二人共この使用人に付いて行きなさい」
ユグルとサリーは頷く。
2人は渋々行こうとする。
私はその2人に甘い言葉を言う。
「ありがとうね。彼の方からこの場を設けてもらったのだけど貴方達のお陰で良い手紙を渡せるでしょう。貴方達のお名前は何かしら?貴方達みたいな良い使用人がいるのは知らなかったので彼の方にも知らせないといけないでしょう?」
私はにっこり笑う。
長い髪はアンリーと短めの髪はヨシュアだそうだ。
2人は思った通り名前を教えてくれた。そして、2人共さっきまでの嫌々が無くなっている。
「この場では2人だけで良いかしら?婚約者へ嘘の手紙をあげたら困るわ」
ヨシュアはニコニコとあっさり口を割る。
「カリンも良く良い仕事をする仲間です」
3人が第2王子派だったようだ。
「そうですか、覚えましたわよ。特に貴方は良いわ。気に入ったわよ。婚約者にはちゃんと気に入った事まで伝えておくわ。では、私は少し寝ますのでアンリーとヨシュアとカリンも私の為にお菓子をお願いね」
3人の使用人は私の言葉に頷きサリー達と一緒に逃げるように出て行く。
残ったこの場の雰囲気はよろしくない。私が散々壊しましたからね!
アルノーは困った顔だが決心したらしく私に言葉にする。
「クレア、流石の私も弟の婚約者だからだって怒りますよ?」
「あらまぁ、怒る事出来ましたのね!ならその怒りや行動を普段からやってくださいませ」
私は横になっていたのを起き直し、ピンと背筋を伸ばす。
マリーもスッとソファから出て行き元の場所まで戻る。
その瞬間、場の雰囲気も変わり私の態度が急に変わって使用人も動揺している。
今の私は少し怒ってます。
黒い笑顔を貼り付け、目は笑ってないが見た目は立派な令嬢だ。
ここまで案内してくれた使用人を見ると後ろへ下がった。
彼女が多分筆頭なのだろう。
大変だねとは思うが同情はしない。
「さて、ネズミが居なくなった所で本題に移ろうと思ったのですが一つ言わなくてはならない事が出来ましたわ」
さぁ、覚悟しなさい。
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