無題
僕は彼女の手を離してしまった。
ごめんなさい。
もう、それしか喋れなくなった男の話。
ただ、彼女を笑わせたかっただけ
ただ、彼女を愛したかっただけ
ただ、彼女に泣いて欲しくなかっただけ
ただ、彼女に独りじゃないと思って欲しかっただけ
ただそれだけ、それだけなのに、
僕には、それが出来なかった
彼女を笑わせることが出来なかった
彼女を愛してやれなかった
彼女を沢山泣かせてしまった
彼女を独りにしてしまった
僕は、彼女の手を離してしまった
世界がビリビリに破けてしまったその時も、
時間も、物質も、宇宙も、何もかもが崩れ落ちたあの日も、
僕は、彼女の手を離してしまった
だから僕は探してる
笑って歩いていたあの道を
手を繋いで見ていたあの空を
初めてキスをしたあの公園を
喧嘩してすぐ仲直りしたあの部屋を
初めて君と出会ったあの日を
僕はずっと探してる
そして、全部揃ったら、また、
君を好きになりたい
僕は彼女の手を離してしまった。
また、会えるかな。
その時は、
また、好きになっていいかな。




