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歴史の語り部  作者: 矢真島ヤスマ
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第3話 遠く、辺境にある村 3

 翌日、森の入り口に句動二輪が止まる。もちろん乗っているのはメイクとエレナだ。

 ちらりと畑に目をやったメイクが、軽く感嘆の溜め息を吐く。


「これは凄い。本当に森が広がってます」


 視線の先には、昨日まで半分が森に浸食されていたはずの土地がある。森から村までにあった麦畑は、昨日の時点で七つと半。それが今日になって七つまで減っていた。


「心当たりがあったんじゃないの?」

「もちろんありました。ですが、ここまで浸食が早いというのは......」


 エレナの問いかけに、メイクは森から視線を離さず答える。


「とにかく、森を中心を探しましょう」

「中心って言ったって、こんな風に木々が生えてたらそんなの分からないじゃない」

「......おそらく、中心は見ればすぐに分かると思いますよ」


 そう言ってメイクは句動二輪を道端に止め、さっさと森に歩を進める。そんな背中を睨みながら、エレナは溜め息をついた。まるで「これだから仕事バカは......」と言った表情だ。そして自らもサイドカーから降りてその背中を追って森へと足を踏み入れた。


 森は木々が鬱蒼と茂り、空から降ってくるはずの光を遮っている。そのため、昼間だというのになんとなく薄暗く、肌寒さを感じさせた。

 足元に生える草や苔は、この森が何年も昔からあるとでも言わんばかりに地面を覆い隠していた。

 しかし、不思議と動物の気配は無い。鳥の囀りさえも聞こえない厳かな雰囲気の中で、風に揺れ、葉と葉を擦り合わせる木々だけが存在しているかのような空間が広がっている。

 

「本当に変な場所。足元を見ても虫の一匹すら見ないわよ」

「――ぜぇ、はぁッ」

「鳥の声も無いし、森らしくない」

「はぁ、ふぅ、はぁッ」

「......大丈夫?」

「はぁ、ちょっと、ぜぇ、駄目かも......」


 意気込んで森に入ったは良いが、慣れない野道と、元来の体力の無さですぐにダウンしてしまったメイクに、エレナは困った表情を浮かべながら水筒を渡すと、キョロキョロと周りを観察する。

 特に変わったは無いが、何か違和感を覚える。もちろん、動物がいないのを除いて、だ。だが、その原因がよく分からない。森なんて、メイクと旅をしている間にいくらでも見たことがあるし、その中へと足を踏み入れたことも数えきれないほどだ。それでも、森に入ったのは今日が初めてのような錯覚を覚える。


「気づきましたか?」


 ようやく息を整えたメイクがエレナに尋ねる。


「気づいたって、何に?」

「木々の葉に、ですよ」


 言われて、近くに落ちていた葉を広い上げたエレナは目を見開く。


「こんなの、見たことない......」

「でしょうね。エレナとは行ったことがありませんが、それは他国に生えている"トトリス"という木の葉っぱです」

「なんでそんな木がここに生えてるの?」

「それを教えるには、実物を見ながらにした方が良いでしょう。――求むる先へ向かう風もとむるさきへむかうかぜ


 メイクが<聖句せいく>を唱えると、柔らかな風が吹いてくる。


「......あちらのようです。行きましょう」


 風の向きを確認したメイクは、ゆっくりと腰を上げると風下へと歩き始める。なかなか教えてくれないメイクに、内心腹が立ち始めたエレナは、それを顔に表しながらも渋々といった様子で着いていくのであった。


 その後、何度も息を切らせて座り込むメイクを介抱しながら、大まかな方角を教えてくれる風に従って二人が歩いていくと、そこだけ円状に木の生えていない場所に出た。


「ありました。ここが森の中心です」

「......何でここだけ木が無いのよ」


 何も教えてくれないことに拗ねたエレナが、唇を尖らせながら尋ねた。それを見たメイクはエレナの手を取り、さらにその中心へと導く。


「これがあるからですよ」


 そう言ったメイクが指さす地面には、見たこともない小さな花がポツンと一つだけ咲いていた。


「花?」

「はい。メジュナ、と呼ばれる花です。"森の記憶"、なんて呼ばれたりします」

「森の記憶?」


 全く意味がわからないとでもいうように首を傾げるエレナを見て、メイクは優しく微笑むと言葉を続けた。


「この花はとても深い森の中心に咲くと言います。そこで長い年月をかけて森を記憶するのです」

「森を記憶するって何? 木の一本一本がどこに生えてるのか記憶するとか?」

「はい。木々の形、種類、生えている場所、苔や草花のひとつに至るまで記憶するのです」


 適当に言った推測があっていたことに驚き、もしやからかわれているのではとばかりにエレナはメイクを見つめるが、メイクの表情は真面目そのものだった。


「メジュナは森を全て記憶した後も咲き続けます。そして森が何かしらの原因で大きな被害をこうむった時、花が枯れて種子を一つだけ風に乗せて他の地へと運び、そこで記憶した森を復活させるために花を開くのです」

「......でも、それじゃあ、この森に動物がいない理由がつかないわ」

「そうですね、少し表現が難しいのですが......この森は、まだ生きていないのですよ」

「それじゃ、木や草の形をした偽物ってこと?」

「いいえ、あくまでも"本物"です。そのうち、メジュナが記憶した通りに森が広がれば、木々や草花は活動を始めるでしょう。それまでは偽物と言っても過言ではないかもしれませんがね」

「動物たちがいないのは、本能的にここが生きていないって分かってるから?」

「そのとおりです。ここに住処を作っても、エサが無いので生きていけませんからね」


 エレナの疑問を、にこやかに解決していくメイク。それは好奇心旺盛な生徒の質問に答える教師のようだった。


「......ですが、森の生成速度が速すぎます。本来であれば、一月でここまで広がることは無いはずです」

「偽物の<歴史の語り部ブックメーカー>が何かしたとか?」

「おそらくは」


 顎に手をやって考え込むメイクだったが、何をしたのかがわからないようだ。


「とにかく、まずは村に戻らない? あと数刻もしたら夜になるし」


 考え込むメイクにエレナが話しかける。


「......そうですね」


 そのことに頷いたメイクはエレナと共に歩き出した。


「――ところで、何で道中の質問には答えてくれなかったの?」

「たまには自分で考えてみることも必要ですよ」

「む......」






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