第0話 いつか、どこかでの出会い
文章が拙いのですが、思い切って投稿してみることにしました。
段々と上手くなっていけるように頑張ります。
――荒らされた集落の中心で、少女が泣いていた。両親の遺体をその華奢な腕に抱えて。
周囲には女性、子供、老人の見境なく血溜まりの中に倒れている。
「少し......遅かったみたいですね......」
そう少女に声をかけたのは、灰色の髪と瞳を持つ、まだあどけなさを残した青年だ。ビクリと肩を震わせ、青年を見上げる少女の年齢は十歳を少し過ぎたぐらいだろうか。黒い髪と対比するような赤い瞳が涙で濡れていた。
「とにかく、皆さんを葬って差し上げなくては。――貴女はここでご両親の傍にいてあげてください」
少女に自分のローブをかけてやり、亡くなった人達を青年は集め始める。集落自体はそんなに大きくないのだが、青年は非力なのか遺体を運ぶのに苦労していた。結局、終わったのは夜が白み始めた頃になってしまう。
少女は青年が働いている間に眠ってしまったのだろう。両親の遺体を抱きながらも寝息を立てている。それを見た青年は、そっと少女を遺体から離し、眠りやすいように体を横にしてやる。
青年は疲れたのか、大きく伸びをすると腰のポーチに入っていた小さな本を取り出す。そして何も書かれていないページを開くと、左端から指でなぞる。すると、なぞった所から文字が浮かび上がってくる。見開いたページを全て埋めると、青年は満足したかのように頷いてポーチに本を戻した。
結局、少女が目を覚ましたのは昼を過ぎたあたりだった。
「おはようございます。気分はどうですか」
少女はしばらく寝ぼけていたのか、状況が呑み込めていないようだったが、周囲を見回すと顔を歪めて涙を溢しはじめる。声を出さず嗚咽を上げる少女の背中を、青年はいつまでも撫で続けた。
――しばらくして少女は泣きやむと、ポツリポツリと昨日の出来事を話し始めた。
曰く、昨日は母親に頼まれて木の実を取りに森へ入った。しかし、取っているうちにかなり奥まで入ってしまったらしく、帰るのが少し遅くなってしまった。そして、ようやく帰って来てみれば集落の人達と、両親が息絶えていたという。
「そうですか......辛かったですね。――皆さんをこれから火葬します。よかったら最後の別れの言葉を」
青年の言葉に少女はゆっくりと立ち上がり、両親の額にキスをして戻ってくる。
あとから青年が少女から聞いた話では、夜寝る前に両親がしてくれていた おやすみ の挨拶なのだそうだ。
「――葬送の灯火」
青年が呟くと、遺体のそれぞれにぼんやりとした光が灯り、そこから火が広がっていく。
「これ、何?」
少女が青年に尋ねると、青年は微笑しながら答える。
「これは<聖句>と呼ばれるものです。他にも種類がありますが、今唱えたものは亡くなった方を天に届けるものだと言われています。遺体だけを焼いてくれるので、建物の中でも使えますよ」
少女は村人全員が燃えきるまで、その柔らかな炎を見つめ続けていた。
「お腹は空いてませんか? 空腹でいると余計に心が辛くなりますからね」
青年の言葉に、少女は初めて自分が空腹であることに気が付いた。それと同時にお腹が鳴る。少女が顔を赤らめると、青年は「少し待っていてくださいね」と言うと、近くにあった見慣れない鉄の荷車らしきものから調理器具と、食材を持ってくる。
そこからの青年の行動は早かった。火を熾し、水を張った鍋を上に置くと、その中に白い小麦のような物と乾燥させた葉っぱを入れる。沸騰しはじめたら葉っぱを取り出し、そこへキノコや木の実、干し肉を入れ、蓋をした。しばらくしてから蓋をとると、とてもいい香りが周囲に漂う。曰く、先ほど取り出した葉っぱから出るエキスが、小麦のような物に香りと味を付けてくれるそうだ。そこに少量の塩を入れて完成した。
少女が満腹になった所で、青年が話しかける。
「貴女はこれからどうしますか」
青年の言葉に少女は顔を曇らせ、俯いてしまう。行くあても特に無いのだろう。
「良ければ、都市にある孤児院まで連れて行きましょうか? 衣食住に困ることは無いでしょう」
「......さぃ」
「え?」
「いっしょに......行かせてください」
俯いたままそう呟く少女に、青年は顎に手を当てて考える。
少女が考えている事は大体わかる。集落の人達と両親が死に、絶望していた所に一人の青年が駆けつけて泣いていた自分を慰め、皆を弔い、温かな食事まで与えてくれたのだ。まだ子供である彼女が自らの味方であるように錯覚するのも無理はない。
「……私は決まった土地に止まることはありません。加えて、旅はとても危険なものです。私では貴女を守りきれないかもしれません」
「わたし、強くなります! 迷惑にならないように、いっしょうけんめい働きます!」
少女は青年の目をまっすぐ見つめながら叫ぶ。
「......わかりました」
「なら!」
「ですが条件があります」
青年が溜め息をつきながら立てた二本の指を折りながら話す。
「これから一度でも弱音をいう事があれば、都市の孤児院へ引き渡します。私は貴女の愚痴を聞きながら旅が出来るほど、お人好しではありませんからね。加えて私との約束事は必ず守ってください。もちろん、都市での生活を望んだ時にはそこでお別れです」
「......わかりました」
少女は真面目な顔で頷いた。青年はもう一度溜め息をつくと、旅支度を始めた。それを見た少女も慌てて近くの家屋に入っていく。おそらく自宅なのだろう。
しばらくすると最小限の着替えと、少量の保存食を持った少女が出てきて青年に問う。
「そういえば、お兄さんの名前は? わたし、エレナっていうの」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私達に固有名称は無いのですが、人々からは<歴史の語り部>と呼ばれています。よろしく、エレナさん」