必然の出会い
私はフラフラと声のする方へ歩く。
その間にも、頭の中にはずっと私を呼ぶ声が聞こえていた。
やがて屋上に続く階段の前に立つと、その声はもう聞こえなくなっていた。
階段を上がり、屋上へ出る扉へと手を掛ける。
そこでようやく気付いた。
「あっ、鍵ないや…。」
普通屋上というのはなかなか入れてはもらえないもので、鍵も先生が管理している。
そして、[声が聞こえてきた]と理由でホイホイ鍵を貸してくれる先生などいないだろう。
再び重くなった心で、試しに一回だけドアノブを回してみた。
すると、キィーと軋む音をたてながらドアが開いたのである。
「あ、あれ?誰かいるのかな?」
そう思って恐る恐るドアから顔を出してみる。
しかし、人影らしきものは見当たらない。
もちろん、自分を呼んだと思われるものもどこにもいなかった。
「やっぱり…ね、」
今思えば、そんな都市伝説など小学生でも信じないだろう。
私はどうかしていた。
「さぁてっと、先生に鍵空いてたこと報告しなきゃ。今日はもう帰ろう。」
そして振り返ったそのとき。
「……っ⁈うわぁ!!」
いつの間にか、私の後ろに見知らぬ女の子が立っていた。
私は突然現れたその少女に驚き、悲鳴を上げながら尻餅をついてしまった。
「さっきからずっと、ここにいたんだけど。」
その少女は少し申し訳無さそうにつぶやいた。
しかし驚いた。今まで全くその少女の存在に気づかなかったのだ。
「あ、あなたが、私を呼んだ人…?」
「……えぇ。」
「あなた、それ、昔の制服…?」
その少女が着ている制服は、以前パンフレットに乗っていたこの学校の昔の制服だった。
「あなたは…誰なの?」
「私の名前は、中畑零。この屋上にずっといるわ。…"願い人"って聞いたこと、あるかしら?」
「…願い人……」
昔の、私の大好きな本に書いてあった。
困っている人々の願いを叶えて、みんなが幸せになるという物語であった。
"願い人"は、その存在は科学的に証明されておらず、あくまで都市伝説の中での存在であり、現実にいることはないとされていた。
「願い…人……。まさか、あなたが?」
「………。信じられないって顔、してるわね。」
それはそのはず。願い人などこの世にいないのだから。
「でも、あなた普通の人間に見えるよ。願い人なんて、そんな非科学的なもの…」
「そうね。でも、普通の人間には私の姿は見えないわ。」
「……え?」
「強い願いを持つ者にしか、私たちのことは見えないわ。試しにホラ、触ってみる?」
そう言って零は手を差し出してきた。
そっと触れようとすると、なんと通り抜けてしまったのである。
思わず自分の目を疑ったが、彼女の言ってることが仮に本当だとしたら。
「あなた、本当に…!」
本当にこの人が願い人だとしたなら。
私の願いも叶えてくれる?
藁にもすがる思いだった。
「あなたが本当に願い人だとしたら、ねぇお願い。私の友達を、シエを助けて!」