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第一話 いや、そう言ったけどさ!


ゆっくりゆっくりな更新になると思います。「まぁ、いいよ」という寛容な方だと嬉しいです。




 もし非現実的で夢理想で滑稽で自分でさえも苦笑してしまうような願いが叶ったらさ。面白いかな? それとも、怖いかな?


 私――石垣咲(イシガキサキ)は高校三年で、後、数日後に本命の私立大学の受験を控えた学生だった。朝から晩まで勉強勉強の勉強漬けだった日々にラストスパートをかけてまた勉強。久々に気分を変えて図書館で勉強をして休憩を挟んでいた時に呟いたんだ。


「空、飛びたいなぁ」


 冬の空を見ての一言。軽い現実逃避だ。当然この寒さの中で本気で飛ぼうとは思ってないし、ここまで頑張ってきたのに逃げようなんて思ってもいなかった。ただの軽い一言。


 ひどいよね。現実って。第一志望に受かりますようにってちゃんと神社でお願いしたのにさ。誰だか分からない人やら存在が叶えたのはそんな一言だったみたい。





 状況を認識しておかしいと気づいたのは九歳の頃だった。


 どうやら私は転生というものを経験しているらしいと気づいた。私は石垣咲(イシガキサキ)ではなくドラゴンのユーシェ・ラシェカとして九年間、存在していた。だが私の中には石垣咲の精神が確かに存在している。新しい生を受けたのに精神が持ち越し。こういうのを前世の言葉で何て言うのだっけ? 強くてニューゲームと言うのだったか? あれ、違う?


 まぁそれについては置いておいて、今の状況について話そう。


 私の生まれた家、ラシェカ家は裕福みたいだ。お手伝いさんらしき人が私を世話しに来たり、綺麗に着飾った女の人や金髪の男の人が何回か現れた。


 ドラゴンと言ってもいつも本来の姿ではないみたいで、私も人間っぽい格好をしていた。違う所と言えば角と羽根と尻尾が生えている所。角はくすんだ金色をしていてこめかみ辺りから天に向かうように生えていた、長さは中指大ほどで、太さはあまりない。羽根は漆黒色の物が背中の肩甲骨辺りからピクピク生えていた、大きさは腕を横に伸ばしたのより大きめだった。やはり体を浮かばせる力を生み出すために大きいのだろうと私は推測した。尻尾は尾てい骨から漆黒色の蜥蜴の尻尾のようなものが生えていた、長さは尾てい骨から太ももの中間辺りまでの短い物だ。両親と思われる二人の様子から推測するに私が尻尾を振っているのを見ると喜んでいたので、犬の様に尻尾にも感情が現れるのだろうという事が分かった。正直言うとそれ以外はまだ全然分からない。と言うかそれについても確証はない。


 だが生活水準は日本よりは低いのだろう。私が居るベッドと机だけの簡素な部屋からはビニールやプラスチックみたいな物が見られなかったし、電化製品なんて物は全く無さそうだ。布団も動物の皮を加工した物のようだったし、枕も羽毛が入っていた。精々推測出来るのはこれくらい。


 だから私――石垣咲改め、ユーシェ・ラシェカは小学校にでも入れて貰おうかと考えている。そういうものがあるかは分からないが、あると思いたい。


 私は今、信じられないが転生というものを経験している。そんな私に必要なのはなんだ? そう! 情報だ。ほら、かの有名な兵法本にも「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と書いてあったじゃないか。戦争をする訳じゃないが、今の私の気分は戦争だ。何だか分からない内に転生させられたのだ。とりあえずここは何処かぐらい把握しておきたい。そして前世の最後の記憶の「空、飛びたいなぁ」を叶えるんだ。転生させた誰だか分からない奴にぎゃふんと言わせるんだ、きっと。いや、そうしないと前世の私が報われない気がする。死に際の言葉がそんな呟きってかわいそすぎる。だから頑張ろう私。飛ぶだけだし。


 よし、そうと決まれば話は早い。両親に相談でもするかと、バフッと寝ていた布団を退けて勢いよく扉をを開けて外に出た。


 あ……。両親の居場所って何処だ?




 勢いよく出たはいいが出鼻を挫かれた私は、部屋にいたドラゴンのメイドさんに連れられて、やって来ました、父の書斎。……。さ、早速、父か。あんまり会わないので覚えてないがこの人怖そうなんだよ。あ、ドラゴンだから、このドラゴンか。

 ともかく、私の父とか名乗るドラゴンは私の記憶上だといつも不機嫌そうに眉をひそめている。怖いったらありゃしない。出来れば最初の相談は優そうな微笑みを浮かべる母が良かった。

「ユーシェ様?」


 連れてきてくれたメイドさんが困ったように声をかけてきたのでとりあえずノックをした。「どなたでしょうか?」と聞こえたので「ユーシェです」と答えると扉が開いた。入れ、って事だよね。しょうがない。ここまで来ちゃったんだ遠慮なく入ります。


 書斎に入ると出迎えたのは立派な机に積まれた紙と、黒い角と金色の羽根と尻尾と髪を、持つ父。それと扉を開いてくれたであろう執事さんっぽい人。この人には角と羽根と尻尾がなくてまるで執事ような姿だ。いや、前世では執事なんて見たことがないんだが。雰囲気的にね。


 書斎は広くて豪華だった。私を中心に写した家族写真の額縁は金色と深い青色の石で縁取られているし、父が座っている椅子も柔らかそうな革で出来ているみたいだ。床に引かれている絨毯も一つ一つ縫い合わせたのであろう、糸が複雑に七色の大輪の花の形を描いていた。この世界の金銭感覚も物の価値も分からないがこの部屋が豪華だろうと言うのは分かる。


 父が何の仕事をしているのかは知らないし、ここから見えないが、相当すごい仕事をしているんだろうなと伺える。


「……ユーシェか。何の用だ?」


 父に話しかけられて、豪華な書斎に呆気に取られて何も喋ってなかった事に今更気づいた。

 本題忘れてたー。そして考えてなかったー。よし速攻で出てこい! 相談内容!


「…………学校に、行きたいです」


 そのまんまだぁー! 何も出てこなかったよ! 頭真っ白。口下手なの前世と変わらないみたいなんだけど!


「なに?」


 父様ビックリ、と言った感じに軽く目を開いて私を見てくる。ですよねー。唐突な話題ですよねー。今までの記憶中で私に一度も学校の話題出した人いませんでしたもの。ドラゴンも含めて。……しょうがないので理由を考えよう。速攻だけどいけるはず。


「私は何も知りません。ですから学びたいのです」


 よし、そのまんま。嘘をついてはない。ただ削っただけ。だけど普通っぽい理由だ。これで平気だろう。どうだ父よ。


「学びたい、か」


 あれ? 微妙な顔。私の理由駄目だったのか?


「はい。私はこの世界の事を知りたいんです」


 ちょっと気持ちを付け加えてみる。本当に今の私には圧倒的に知識や情報が足りていない。両親の事、この世界の事、一般常識、ましてや生まれてから外に出た記憶すらない。そりゃあ、あり得ないほど情報が足りてない訳だ。更に不可解なのは九年間も私はここで過ごしていたのに《なにも》その時の感情を思い出せないのだ。まるでガラス越しに映像を見ていただけのような感覚。前世の私の記憶を思い出して当たり前の感性を持ったため、その不可解さがすごく恐ろしい。


「……分かった。ルルエスにも伝えておこう。ジョエスト、シャルベニア王立学園に入学の手配を」


 は? ルルエス? ジョエスト? シャルベニア王立学園?


 駄目だ。急に固有名詞言われて訳分からない。一応ジョエストと言われて執事さんが動いていたからそれは分かった。後、シャルベニア王立学園も学校の事だろうとも。しかしルルエス? 誰だろう?


「ガロン様。一週間後の入学でよろしいでしょうか?」

「あぁ」


 父様――改めガロン父様(分かったのでそう呼ぶことにする)が頷くとジョエストさんは一礼して退室した。部屋には私とガロン父様の二人きりになってしまった。

 皮の椅子にゆったり座っているガロン父様から発せられる威圧感がすごくて、潰れそうだ。黒い角と重厚な金色の羽根と尻尾は触れたら傷でもつきそうなほど鋭く、きちんと撫で付けてある暗い金髪にも隙がない。肩幅も広くがっちりしていて肉体はきたえられているのが伺る。きっと私を一捻りで潰す事など容易いのだろう。そしてなによりも怖いのは――その目。その漆黒の目が無言でも私を威圧する。早く何か話してくれないだろうか。本能的な恐怖を感じる。


「お前は何を学びたい? 一般教養か? 剣か? ……それとも魔法、か?」


「へ?」


 ……ま、魔法?


「他は止めないが、もし魔法を学びたいなら止めておけ。お前から魔力が感じられない」


 いやいや、ちょっと待って。魔法? 魔力? ここってファンタジーみたいに魔法を使えるの!? 学生なら誰でも思うであろうはずの夢、魔法に宿題させながら私は遊ぶ、を出来るのだろうか!


「本当に魔法を使えるの?」

「お前には使えない」

「……そうですか」


 はい、夢破れり。ファンタジー世界でも私は魔法を使えないみたいだ。異世界転生したらチートは当たり前の標準装備だと思ってたが、現実はそう甘くはないみたいだ。厳しいね。


「私は一般教養を学びたいです」


 剣は使えないし魔法の素質はないらしい。ガロン父様に言われた選択肢の中で、もう残されたのはこれしかない。まぁ、この世界の情報を知りたいだけだし別に構わないだろう。


 ガロン父様は「そうか」と呟いて黙って私の顔を見ていたが、暫くすると目が邪魔そうなものを見るような雰囲気に変わった気がしたので退室させてもらった。怖かった。




「ユーシェは学校に行きたいのですってね。ガロンさんから聞きましたよ」


 メイドさんに「ついて来てください」と言われてついて行った私は、風景画と花瓶と長方形の机のある部屋にやって来て、薄橙色の柔らかい色のドレスに七色で花の刺繍の施されたストールを羽織った女性と対面していた。私の記憶が正しければ向かい側のお誕生日席に座っている、癖のある赤毛と金色の瞳を持つ女性はユーシェの母だ。ガロン父様から聞いたと言うのだからガロン父様の言っていたルルエス、と言う人物は彼女なのだろうか? 思わずティーカップを傾けるルルエス母様(多分)をまじまじと見つめてしまう。


「ユーシェが受けるのは一般教養でしたよね? 三日後に編入試験がありますが大丈夫ですか?」

「え? 編入試験?」


 ティーカップをソーサーの上に戻したルルエス母様はそう言ったが、私には初耳だった。ガロン父様からは何も知らされていなかった。大丈夫か? と聞かれたら答えは簡単だ。


「大丈夫じゃないですね」


 真顔で断言した私に、ルルエス母様はクスクス笑った。おしとやかな母様だ。


「では、これから三日間の間に必要な事は覚えてくださいね」


 簡単な試験だから大丈夫ですよ。とルルエス母様は言って、私に関しての事を教えてくれた。




――――


 ユーシェ・ラシェカ 九歳。クイーン階級の貴族の娘。父はガロン・ラシェカ。母はルルエス・ラシェカ。


 昨日、ルルエス母様から教えてもらった私の情報だ。やっぱり母様の名前はルルエスで良かったみたいだ。聞き覚えがなかったのは《クイーン階級》と言う単語。聞いてみると国民は《チェス階級》という階級によって身分が分けられていると言う。

 一番上の階級であるキングは王の階級で、王族全員ではなく王、一人だけしか属せない王冠と十字架の階級。クイーンは私も属する二番目の階級で、ここには王以外の王族や国で名高い功績を上げた者だけが属する事を許されている階級。私は「ガロン父様はどんな功績を上げたのですか?」とルルエス母様に聞いてみたのだが、ルルエス母様はただ笑って「すっごいことよ」と言って話を逸らしてしまったのでガロン父様の功績を聞くことが出来なかった、残念だ。三番目の階級のルークは、文官や騎士、魔法士などの様々な功労者が多く属している城と戦車の階級だ。四番目の階級のビショップは主に聖職者が多く属している、象の階級。五番目の階級のナイトは、その名の通りに騎士の多くが属している、騎士の階級。一番下のポーンの階級は国民の為の兵士の階級。以上キング、クイーン、ルーク、ビショップ、ナイト、ポーンの全部で六階級だ。


 だが、この国では強者が絶対らしく、キングの判断で強者と弱者の階級の入れ換えが度々行われるらしい。魔力が使えないらしい私はバレたら降ろされるんだろうか?


 と、まぁ昨日ルルエス母様から教えてもらった事を考えながら私は家庭教師に算術を習っていた。


 今日もルルエス母様に色々教えて貰えると思ったのだが、ルルエス母様は忙しいらしく。私に家庭教師を宛がって行った。今は算術の時間。算術は足し算、引き算、割り算、掛け算の小学生レベルばっかりで正直つまらない。前世受験生の私を舐めてるとしか思えない問題ばかり。家庭教師は即答する度に飴をくれたが子供扱いされているようで、情報を集めようと質問を繰り返したら「今は勉強中だからねー」と怒られた。ちぇ。


 家庭教師が居るなら学校に通わなくてもいいかな、とか思ったがこの分だと家庭教師からは何も聞くことが出来なさそうだったので諦めて編入試験に受かるように勉強をすることにした。




――――


 シャルベニア王立学園はその名の通り、都市シャルベニアにある。私の生まれた国、魔国(また別の機会に説明するよ)の首都だ。


 シャルベニアは日本で言うところの平安京みたいな正方形に形作られた都市で、北にある城壁の門から南にかけて大通りがあり、その先がシャルベニア城へと繋がっている。その大通りから東に少し外れた小高い丘に私が今試験を受けるシャルベニア王立学園は建っている。


 前世の記憶を思い出して三日が経った編入試験日当日。私は当然シャルベニア王立学園にいた。


「なんだこの学校……城じゃないか、城」


 横にお付きのメイドさんがいるのにも関わらず呟いちゃうほどびっくりした。青いトンガリ屋根に白いレンガ造りの建物。まるで某夢の国のシンデレラ城みたいだ。だがシンデレラ城と決定的に違うのは何て言っても、大きさ、そして重厚感だ。シンデレラ城には少しでも大きく見せようとだんだん上のレンガが小さくなる遠近法が使われているが、ただの使用目的で作られたこの建物にそんな技術を使ってはいない、だからこそ、この重厚感なのだろう。


 思わず「ほー」とため息をついてるとメイドさんがクスっと笑って私を中に促してくれた。今思ったが私一応、初お外なんだ。こんなにワクワクしてるのはきっとしょうがないんだろう。うん、だからメイドさん、優しそうな生暖かい目で私を見ないで。



 メイドさんと別れて私は今、先生と廊下を歩いていた。(別れるまで居たたまれなかった……)先生は四、五十代の女の先生。小さい丸眼鏡をかけた、兎のような先生だ。ちょっびりふくよかで髪がモフモフしているので優しそうな雰囲気がする。きっとこの先生がお茶とか飲んでいたら私は和まずにいられないだろう。


 そんな先生に連れられて、内装まで城のような廊下を上へ右へと行くと扉の一つで立ち止まった、どうやら着いたみたいだ。……あまりに広くて道順は全く分からなかった。この広さ、学校として非常識だと言いたい。移動教室とか辛いと思う。特に方向音痴の生徒に対して。い、いや私は方向音痴じゃないが。


「じゃあここで筆記試験受けてね」


  ガチャ


 扉を開けて貰って中に入室、なんかちょっとお嬢様気分。入った中には三人ぐらい座れそうな長机が一つと教卓が一つあった。学期の途中らしいからやっぱり試験者は私一人のようだ。別にカンニングする予定は全くもってないが教師と生徒の一対一は些か居心地が悪い。なんだろうこの独特の緊張感……保健室受験ってこんな感じなのだろうか。


 机に着席して筆箱を取り出す。中から布に包まれた長さ十二、三センチの黒い色のペンを取り出す。面白い事にここの世界のペンは石でできている。

 と言ってもただのそこら辺の石ではなく、魔黒石と言う魔力の宿った石らしい。使い方は至って簡単、微弱の魔力を石に流すと先端だけが溶けて文字が書けるという仕組みらしい。……さっき使い方は簡単と言ったがこれは私には適応されない。何故なら私には魔力がないからだ! ……なんだよ、せっかくファンタジーな異世界なのになんか切ないよ。という訳で私はかなり高級な魔黒石のペンを使っている。このペンは魔黒石に宿った魔力の高いほど込める魔力が少なくてもスラスラ書ける物で、魔力を持たないらしい私は最早魔力を込めなくても溶けるほど、宿った魔力が強い物じゃないとダメらしい。しかしこのままだと使う時には溶けて無くなるという問題があるが、心配には及ばない。持つ部分にはちゃんと他のペンと同じ様に封印の紙が巻き付けてあるし、ペン先の部分にはキャップ様な封印具が取り付けてある。しかも念には念をいれて封印の陣を施された布を巻き付けて封印の結界が全体にあしらわれた筆箱に入れるのだ。(そして意外とおしゃれ)……いくらかかるのかあまり考えたくないぐらいの警戒具合だ。大切に使おうと丁寧に布を畳んで筆箱にしまった。


「もう始めたいと思いますが大丈夫?」


 丁度もう始めるようだ。まぁ、私しか居ないしね。コクリと頷くと先生は紙を私の机に置いた。


「では、どうぞ」

 ペンからキャップを外して私は問題を解き始めた。





 問題を解いた感想を言おう、はっきり言って微妙だ。

 今回試験を受けたのは算術と言語と歴史と魔法。当然算術は完璧だ。ついでに言うと言語も良いと思う。(言葉だけは転生チートが適用されたのだろうか?)問題は歴史と魔法だ。小学生ぐらいの子向けの簡単な問題と言ってもそもそも私はここの世界について全く知らないんだ。しかも元の世界の記憶があっても太刀打ち出来ない分野だ。三日漬けの浅漬け知識じゃあまり自信がないのは無理はないと思う。


 とにかく、この後は面接をして今日の夕方には結果が出るらしい。まぁ、一人分の採点だけだからな。


 私はまた先生に連れられて学校の中を歩いていた。上に上にと上がった所に面接をする場所はあった。当然位置は分からない。


  コンコン


「失礼します、連れてきました」「どうぞ」


 中から促す声があると同時に扉が開いた。そういえば最近、自分で扉を開けてないな……。変な事に気づいて微妙な気持ちになりながら扉を潜ると、ここが何の部屋か察しが付いた。きっと学園長の部屋だろう。入ったすぐ目の前に二組の皮張りのソファと机、入った扉に対面するように窓側には大きな机が置いてあった。その大きな机には真っ白な髭を蓄えたおじいさんが椅子に腰かけていた。


「君がユーシェ・ラシェカくんだな、とりあえずそこに座りなさい。試験の後だから疲れただろう?」


 髭を弄りながらおじいさんはニコニコと話を切り出した。……この人、どこか見覚えのある気がする。


「私はここの学園長だ。先ずは君の事について聞きたいな、質問してもいいかな?」

「はい」

「それじゃあ、遠慮なく。最初にこの時期にここの学園に入りたいと思ったのは何故かな?」


 そう尋ねながらおじいさん……学園長はまた髭を弄りだす。多分髭を弄るのは癖だろう。癖と言えば私もいつも……って、あ、学園長ってサンタクロースに似てるんだ。(癖の話はどうした)


「ここで一般教養を学びたいと強く思ったからです。ここシャルベニア王立学園ではレベルの高い教育が受けれると聞きました、また就職には教養や技術が必用不可欠だと感じたのでそれを習得出来るのはここの学園かなと思いました」


 ……って、あ、下らない事を考えていたせいで大学受験の面接のように答えてしまったが、今の私は九歳児だ。いくらなんでもこの年ではありえない受け答えだった。うん、実際学園長も先生もポカンと呆気にとられている。ど、どうしよ。笑うか、笑って誤魔化すか。そうだ、ルルエス母様が言っていたということにしよう、そうしよう。


「あ、あの母様がそう答えなさいと言っていたのですが……何かおかしかったですか?」

「え? あ、あぁ、おかしくないよ、ユーシェくん。じゃあ次の質問をしようか」

「はい」





 そんなこんなで面接は無事に(多分だけど)終わった。これでもう今日の試験は済んだので夕方の結果発表までシャルベニア内をブラブラと観光させて貰う予定だ。ここに来るまでに興味がひかれる物が沢山あったのでとても楽しみだ。ついでに昼御飯を食べよう。


 とその前にこの国についてだけ説明しておきたい。前にも言ったが私が生まれた国は魔国という国だ。(ついでに言ってなかったが私の家はここから西に行った所にあるラシェカ領という私有地にある)


 ここの世界地図を見せてもらったがここは大体地球と同じような円球状の星みたいだった。大きく違う点は二つ。大陸が二つしかない事と、人間、動物、植物の他に私みたいな魔族がいる事だ。

 魔国は西と東に別れた二つの大陸の一つの西大陸を支配しており、もう片方の東大陸は人国と呼ばれる人間の国が支配している。当然両大陸には古くから争いが絶えない。魔力を保有し多大な力を持つが数が少なく気性が荒い魔族、脆弱で貧弱だが数と理性を揃えた人間。両者が両者とも両大陸を支配しようと目論み、度々戦争をおこしているのだ。


 とまぁ、世界情勢としてはこんな感じ。だが今肝心なのはそこではなく、魔国には魔族(意外と気性が荒い)しかいないという点だ。今まで理性的な魔族の人達しか会ってこなかったが、正直このまま対策を立てないでいるのは些か不安感が拭えない、だから何か護身用に武器とかが欲しいな、という訳だ。(魔族に関しての本を読んで怖い記述があったらしい)


 だが武器と言っても沢山の種類の物がある。剣や弓、薙刀、チャクラム、鉄砲、爆弾。うん、薙刀以降あるか分からないけど。とりあえず行ってみてそれから決めよう。そう考えてとりあえずメイドさんの待つ馬車に急いだ。




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