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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
竜の子編
7/34

飛翔

帝国軍と共和軍の戦争は既に十年以上続いていた。魔物を操り共和軍は、帝国軍の本拠地であるこの城、「ヴァルシュリア城」へ迫る勢いは日に日に増していた。先日、帝国軍南西部軍事要塞が共和軍の魔物の襲撃を受け、壊滅した。今年に入って圧倒的な戦力で次々と要塞を陥落させる共和軍に危機を感じた帝国軍はある作戦を実行する事となる。

ヴァルシュリア城の会議室にガナムを筆頭にハイネを除く七人騎士隊が揃っていた。

「共和軍は我々を落とす為に、本格的に魔物を導入してきたようだ。調査団が沿岸部で魔物の大軍を確認している。西部軍事要塞が陥落した今、我らの城は丸裸と云っても過言ではない」

 ガナムの報告に皆は少しばかりざわめいた。

「一体何処からそれ程の数の魔物を? まさか魔女が我々との誓いを破り、共和軍に寝返ったのか?」

 フェレスが殺気のある眼差しでガナムに抗議する。それはない、とガナムは殺気立つフェレスを制止しさらに続けた。

「此方には魔女の心臓がある。何時でも奴を殺す事が出来る、それは奴も知っている」

 フェレスの隣に座っている白い長髪の男が徐に口を開いた。端正な美しい男は微笑みにも似た表情を浮かべている。

「何れにせよ、共和軍の魔物が何処から連れてこられているのかは調べる必要があります。例えユンフラングスの魔女の仕業ではないとしても、魔女は何かを知っている筈。早急に魔女との接触を図った方が良いかと? 勿論、その大多数の魔物も放っては置けませんが、アゼザムと私、そしてフェレスとアイムの四人で殲滅をする事は可能です、ガナム騎士団長」

 男の発言に今まで黙っていたアゼザルが汚らしい笑い声を上げる。

「ひゃっはっはっ、いーね。魔物を殺しまくれるんだろう? こんなに面白い事が他にあるかい? 殺して殺して、殺しまくれるんだからなぁ!」

 ガナムは一度深く考えたあと、ある事を口にした。

「六人だ、魔物の殲滅は六人だ。ハイネをユンフラングスの魔女の所に行かせる」

 フェレスは驚きを隠せない。目を丸くして抗議した。

「血迷いましたか騎士団長!ユンフラングスは魔物の巣窟、たった一人で魔女に会いに行くなど!」

「ハイネは竜の子だ。それにあの忌まわしき竜と契約を交わした身だ」

「だからと言って!」

「黙れ、フェレス」

 先程の男は端正な顔を歪めていた。醜い顔付で席から立ち上がる。それを見てアゼザルはくすくすと嫌らしい笑い声を漏らしていた。

「君もハイネと同じく嫌み嫌われていたようだが、その境遇からハイネを庇うのはよせ。ハイネは君とはちが…」

「ハイネを嫌悪しているのは貴方の方では、ライドール。彼は、ハイネはずっと卑しめられていた。何故、七人騎士隊に選ばれても軽蔑されなければならないのですか!」

「あいつは忌まわしき竜の子だ。我々とは違う」

「ハイネは人間です、人の子です!」

 随分とご立腹だなフェレス、とアゼザルは笑いを堪えられずそう言った。

「人の子なら、何故嫌み嫌われる? 人の子なら、何故七人騎士隊にいる?」

 フェレスが何か言いかけたが固く口を閉ざし、拳を握りしめた。

 そうだ、そうだとも。アゼザルはさらに続けた。

「俺達七人騎士隊は人を捨てた身だ。奴が七人隊を志願した時点でどう云う意味があるのか」


――認めたんだよ、竜の子だってよ。


 何も言い返せない。フェレスの憤りを感じ取ってか、ガナムはアゼザルを制した。

「それ以上はよせ、アゼザル。フェレス、ハイネは竜と共に魔女の元へ行かせる」

「私も、魔女の所へ…」

 そう言いかけた時、隣に座るユリエがフェレスの腕を掴んだ。

「いや、一人はいや。フェレスと一緒が良い」

 ユリエが今にも泣きだしそうな瞳でフェレスを見つめた。そうだ、ユリエを独りにさせるわけにはいかない。

「泣かないでユリエ。一人にはしない、一緒に居ましょう」

 ユリエは僅かに微笑みを取り戻した。



「俺はずっと竜の子と蔑まれてきた。あっちでも、こっちでも」

 シヴァが首を傾げた。

『何、貴様は帝国の出身ではないのか?』

 そうだ、ハイネは簡易なベットに座り込むようにして、呟くように語りだした。

「西の外れにある小さな村だ。父さんは俺の生まれるずっと前に死んだから顔は知らない。だから母さんが一人で俺を育ててくれたんだ。でも、周りの友達とか、大人からは竜の子だって蔑まれていた。最初は何の事か解らなかったし、何で俺だけ仲間外れにされるんだって。でも五年前に共和軍に村が襲われて、村人もみんな、母さんも殺された」

 ハイネは拳を何度もベットに打ち付けた。そんなハイネにシヴァは重い口調で問いかける。

『殺したんだな、共和軍の兵士を』

「そうだ、殺した。目の前で母さんが刺されて、刺した兵士が…」


――笑ってやがった。


「だから俺はそいつを殺した。心の中が真っ黒になって、殺せって呟かれた気がして、何も解らなくなって。気が付いたらそいつは死んでた」

『それは血の記憶だ。竜の血は竜の子にも受け継がれている。その血は本能を彷彿させ、理性をも掻き消す。謂わば、呪いだ』

 シヴァは重たい首を持ち上げ、ハイネの入る牢屋に顔を近付けた。

『誇り高き竜の唯一の欠点が、その戦闘本能を掻き立てる邪悪な血だ。幾ら理性を保とうと、幾ら欲望を封じようと血の記憶には逆らえん。竜の子が嫌み嫌われる所以は其処にある。小僧、貴様も戦いを好んでしまうだろ? 殺したい衝動を抑える事が出来ないだろ?それが竜の血が流れる竜の子の宿命だ』

 ハイネは立ち上がって柵に喰らい付く。

「何故、竜の子は生まれた。下等な人間と誇り高き竜が交わったとでも言うのか?俺の、俺の父親は竜だとでも言うのか?」

『それは違うな、誇り高き竜が汚らわしい人間と交わる事はありえない。それに竜は三百年前も今も、我しか存在しない』

 そうだ、シヴァが三百年に突如として現れて世界を滅ぼした。成らば何故、竜の子は存在するのか。そもそも竜の子は何故生まれるのか。

『我と奴ら人間は相反する存在だ。その相反する存在を繋ぐ中間に位置する者こそ竜の子だ。我も此処までしか知らんがな』

 どう言う事だ、と問い詰めるハイネ。シヴァは自嘲するかの如く、こう言った。

『三百年前、力と共に記憶も奪われてしまった。何故、我が世界を滅ぼそうとしたのかも今となっては解らない』

「何だと、世界を滅ぼした張本人が理由も覚えていないだって!」

『我は人ではない、竜だ』

 突然、重い扉が開いた。日の光が僅かに差し込み、そこには見覚えのある人物が立っていた。レイナードである。

「ハイネ、不味い事になった。共和軍の魔物が此処に迫っている。それも大勢だ。騎士隊の会議でお前以外の者は戦闘に出た。竜と共にユンフラングスの魔女の元に行け、今すぐに!」

 ハイネは柵越しに力いっぱい叫んだ。

「どう云う事だ。魔女の所に行ってどうなる、俺も戦わせろ!」

「時間が無いんだ、云う事を聞け!これは騎士隊の会議での結果だ。老人達の許可も下りている。急ぐんだ!」

 レイナードは螺旋状の階段を駆け上ると、腰の剣を引き抜くと、前触れも無く降りおろし、檻を破壊した。困惑するハイネの腕を掴み乱暴に独房から出すと脇に抱えていた剣を乱暴に押し付けた。

「お前の剣だ。早くしろ、急ぐんだ」

「…。わかった」

 剣を腰に携えると、ハイネは螺旋階段を駆け下りた。

「シヴァとか言ったな。ハイネの働きによっては帝国軍に利益を齎すとして自由にする」

『この小僧を手伝えと言うのか? 笑わせるな、我が貴様達のような下等な人間に手を貸すだと?』

「貸さなければハイネを殺す。契約の下、貴様は死に至る事を忘れているようだな」

『お喋りな小僧め、余計な事を。良いだろう、小僧に手を貸そう』

 小僧、と階段を駆け下りるハイネを呼び止める。

『乗れ、貴様の足では日が暮れる』

 一度躊躇った後、ハイネは階段の途中で踏み止まり、勢いを付けて下にいるシヴァの背中に飛び乗った。ハイネが飛び乗った事を確認すると、シヴァは天井を向いた。口に焔が満たされ、熱せられた空気と共に火球が吐き出された。爆発と共に天井が崩れ、岩片が崩れ落ちる。

 翼を何度か羽ばたくと、シヴァは青く広がる大空に思い切り飛び立った。風圧で更に崩れる塔。空気が身体を切る感触を全身で味わい、シヴァは雄叫びを上げた。

『大空に羽ばたくとは何とも気持ちが良いもんだ』

「飛んでる、飛んでるのか」

 シヴァの背に乗ったハイネは眼下に広がる台地を見下ろしながらそう言った。

 城下町では空を見上げて驚く庶民が慌てふためき逃げていく。

『ユンフラングスとは山の中にある筈だな?』

「そうだ」

『ならそう遠くは無い。掴まれ、振り落とされぬようにな』

 翼を大きく広げた竜が大空を飛んで行った。


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