あるいは死
巨大な城は嫌に静けさを保っている。松明を構えたガナムを先導に、五人の騎士が迷路のように入り組んだ地下を歩いていた。
「どうしようかなぁ、竜がいたならどうしようかなぁ」
小柄な少女が今にも泣きだしそうなか弱い声で隣を歩く女にしがみ付いた。
「大丈夫よ、ユリエ。竜なんかいやしないよ」
温かく微笑む女にユリエと呼ばれた少女は涙を浮かべ、こくりと頷いた。
七人騎士隊。帝国軍の騎士団の中で最も優秀な七人をそう呼ぶ。彼らは兵士数百人程の戦闘力を持ち、帝国軍からは絶対的な信頼を受け、同時に共和軍からは恐れられている。
ユリエ、小柄な少女で七人騎士隊の中で最も幼い。短く整えられた金色の髪を持つ可愛らしい少女は外見とは裏腹に既に数百人という数の人間を殺している。
フェレス、長い黒髪が特徴の女騎士。柔らかな物腰とは裏腹に、戦場では残虐な性格へと一変し、人を殺す。二刀流で、七人騎士隊の中ではハイネを除き、剣術で勝る者はいない。
「しかしよぉ、竜ってどれくらい強いんだろうなぁ?」
「そうですね、世界を七日で滅ぼす程の強さですかね」
「はっはっはっ!他の三人がいなくて良かったなぁ。俺が殺すんだからな!」
アゼザル、巨大な大剣を背に携えた黒い短髪で目の鋭い男。親を殺した過去を持つ。圧倒的な戦闘力を持ち、七人騎士隊の中で右に出る者はいない。
そしてハイネを含む七人騎士隊の内、四人がいる。残りの三人はどうやら不在らしい。
「ここが例の階段か」
松明を翳した先には紅く照らされた壁がある。アゼザルは汚らしく笑いながらこう言った。
「迷路の果てにあるのは汚い壁じゃないか。この向こう側に階段があるのか?」
「そうかもしれません、アゼザルさんお願いします」
アゼザルは背中の大剣を引き抜くと思い切り振り下した。鈍い音と共に壁が崩れ落ちると、その向こうに下るための、設計図に乗っていた階段が姿を現した。
「貴様の推測が正しいのならば、この奥には忌まわしき竜がいるのか」
「団長さんよぉ、その方が良いだろ? 面白いだろ? ぞくぞくするだろう!?なんなら此処で殺しあおうか?」
アゼザルはまた汚らしい笑い声を上げながら大剣を仕舞う。そんな姿に怯えたようにユリエはフェレスにしがみ付いた。
「フェレス、ユリエ怖い」
「大丈夫、アゼザルは私たちを襲わないわ」
「違うの、違うのフェレス!」
必死に首を横に振り、訴えるようにフェレスを見つめる。
「竜がいるの、この先に!」
真っ暗な地下世界。沁みだした水の音が響き渡る。